ヤクザ娘の生き方

翠華

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勉強

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「うぅーん…」


パコーン!


「いてっ…んあ?」


薄目で見ると、まっちがスリッパ片手に機嫌悪そうな顔で見ている。


「ちょっと、いつまで寝てる気?」


「…あれ?まっち?何?どしたの?」


「いや、勉強しようって言い出したの君だよね?」


「ちょっとまっちー、君じゃなくて、花子って呼んでよー」


「嫌だね。名前呼んで欲しかったら肩でも揉んでよ」


「おっけぃ!任せて!」


「あー気持ちぃ。君意外と上手いね」


「当たり前じゃん!ウチは肩もみのプロだぞ!仕事に出来るレベルだぞ!」


「うるせぇな!集中出来ねぇだろうが」


「え?集中してたの?」


「寝てた奴に言われたくねぇな」


「いやぁ、文字見ると眠くなるんだよねー。参った参った」


「てめぇの脳みそに参ったわ」


「皆さん少しは奏明を見習って静かにして下さい」


「………」


「…生きてる?」


「殺すなよ」


「………」


かっちは項垂れたまま、壁に寄りかかっている。


「マジで大丈夫?息してる?」


「いや、大丈夫…だろ…」


「大丈夫ですよ。奏明は今睡眠学習をしているんです」


ゆっちの自信に溢れた言い方にしばらく時間が止まった気がする。


「…は?いやいやいや、睡眠学習とかマジで言ってんの?冗談だよね?」


「いや、優はマジだぜ」


「僕、今初めて優の事心配してるよ」


「失礼ですね。私は至って普通です」


「とっち、大変だよ!ゆっちがいつの間にかやられちゃったよ!何者かにおかしな物食べさせられたんだよ!」


「昨日の夕飯の後に食べた花子団子か?」


「あ!あれか!あれ実は消費期限切れてたんだよねー。やっぱ当たっちゃったかー」


「おいてめぇ、消費期限切れたもん食わせんじゃねぇよ」


「いや、いけるかなって」


「いけねぇよ!奏明が今やられちゃってんだろうが!」


「うるさいですよ。いい加減にしないとその口開けないようにしますよ」


「怖い!急に悪魔化しちゃったよ!やっぱりやばい物食べたんだ!」


「……お腹空いた…」


「うわっ!急に起きた!かっち大丈夫!?生きてる!?」


「…大丈夫」


「良かった!生きてた!」


「……それより、お腹空いた…」


「あー、もうお昼だもんね。ウチもお腹空いたし…まっち、一緒に何か買いに行こう!」


「はぁ?何で僕?」


「たまにはいいじゃん。それに、甘い物嫌いだーって言って花子団子食べなかったのまっちだけなんだよ」


「だから何?」


「いや、昨日の花子団子にやられてないのまっちだけなんだよ。だからまともな物買えるのまっちだけなんだってー。大好きなとっちに美味しい物食べて欲しいでしょ?ウチじゃ食べ物の趣味合わないんだよー」


「君の舌がおかしいだけでしょ」


「マジでこいつの舌有り得ねぇよ。花子団子と白飯一緒に食べる時点で頭おかしいぜ。つか元はと言えば全部てめぇのせいだろ。俺らの頭は全員無事だっつの」


「まぁまぁ!大人しく勉強しててよ!二人で美味しい物買ってくるから!」


「ちょっ、僕行くなんて一言も言ってないんだけど!」


まっちの腕を無理やり引っ張って連れて行く。


「じゃ、行ってきます!」


「行ってらっしゃい」


とっちだけが笑顔で送り出してくれた。
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