ヤクザ娘の生き方

翠華

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少しの悪意

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「僕の事怖くなった?」


まっちは無邪気な子供のようだ。


「いや、残念ながらそれは無いかな」


「ほんと残念」


「ちょっと、そこは喜ぶとこでしょ」


「僕は皆から恐れられたいんだよ。見下されるのは嫌いだからね」


「見下される?誰に?」


「知りたい?僕の事」


「うん。すごく知りたい」


「いいよ。教えてあげる」


近くの公園のブランコに座り、記憶を辿るように話し出す。


----七年前----


関城 真白十歳。


「真白、ごめんね。今日もこれしか買えなかったの」


げっそりとした母が冷たくなったパンを二つ差し出してくる。


「………」


「おい!金はどこだ!?どっかに隠してんだろ!分かってんだよ!早く出せ!」


賭け事にお金を注ぎ込んで自分の食事分しか残さない男。


「そんなの持ってません。私達の食事代も残っていないのに」


「うるせぇ!」


バシッ。


「うっ!」


母は殴られて床に倒れ込む。


男は何も出来ない僕を見下した目で見つめる。


これが日常の風景だった。


「ったく、何も出来ねぇガキと役立たずの女抱えて俺も人生損だぜ」


お前が一番役立たずのくせに。


心の中でいつも哀れなこの男に天罰が下ればいいと思っていた。


僕はこの男を父とは認めない。だから父とは呼ばないし、父と思った事はない。


僕は絶対こんな人間にはならない。


父に対してそう思い始めたのは五歳の頃からだ。


そして悪夢のような日々は続き、次第に男は僕にも手を出すようになった。


僕はこの男に殴られる度、プライドが踏みにじられているような、自分の存在を軽蔑されているような、とても不快な感情が溢れてきた。


そして、いつかこの不快な感情をこの男にも味あわせてやろう。そう思った。


「真白、貴方はとても心が真っ白で綺麗な子になってね。そうなれるように真白と名付けたの」


母は毎日仕事から帰って来ると、すぐ僕の所に来た。そして、そう僕に言い聞かせながら自分自身を安心させたかったのだろう。


夜眠る前いつも母は、


「いつか真白もあの男のようになってしまうの?」


そう言いながら怯えていた。


それから一年後。


「おい!てめぇ本当に働いてんのか!ああ!?働いてんなら金くらいあんだろうが!」


「…っ」


男は相変わらず母に暴力を振るい、母は殴られても言葉を発しなくなった。


「おいガキ!てめぇこの前俺の飯食いやがったな!」


バキッ。


「うっ…」


二日前、空腹のあまり男が買っていたおにぎりを一つ食べてしまった。


男は最近賭け事が上手くいかず、自分の食事分もほとんど使ってしまっていたせいで、いつも以上に興奮していた。


何度も殴られ、遠くなる意識の中、僕はふと思ってしまった。


今まで何も出来なかった僕が、この男に仕返ししたら恐怖の表情を拝めるだろうか?いつも見下してきたこの男にも不快な思いをさせてやりたい。


「………」


男は殴り疲れてリビングのソファに倒れ込んだ。


その間にアザだらけの足を動かし、台所にあった包丁を手にする。


ゆっくり男に近づき、わざと声をかける。


「…ねぇ」


男は僕を見て驚きと恐怖の表情を見せた。


その瞬間、僕の中にこの男の血が流れていると実感した。


男の腹からは血が流れ、苦しそうに呻いている。そして少し経ち、男の声は聞こえなくなった。


僕はその姿をずっと見下すように見つめ、初めて生きていると感じた。


それから異変に気づいた近所の人が警察に通報し、男は救急車で運ばれ、そのまま亡くなったと聞いた。


母は病院の精神科という所に入ったらしい。そして僕は男の暴力が日常的にあった事で正当防衛が認められて処罰は受けず、そのまま施設に入れられた。処罰がなかったとはいえ、周りの人間は僕を怖がって近づいては来なかった。


施設の大人達も僕を怖がって距離を置いていた。


それから数週間後、奏明と叶真が施設にやって来た。


初め、叶真は僕と同じ匂いがして、気が合うと思った。でも違った。叶真は自分を犠牲にして他人を助けるような甘い人間だった。僕とは正反対で、正直落胆した。


奏明は見た目は怖いが目がとても綺麗で優しい奴だった。苦手なタイプだ。


でも、叶真も奏明も過去に縛られているくせに僕に構ってきた。


そんな二人に次第に心を開くようになり、施設でもずっと一緒にいた。初めは苦手だったのに、いつの間にかなくてはならない存在になっていた。


それから一年後に咲也と優が施設に入り、叶真の提案でクインテットというグループを作った。


治安の悪い中桜区の見回りをする事で地域の皆に僕達の事を知ってもらい、少しでも役に立ちたいという叶真の優しさだった。


そんな思いを知るはずもない地域の住民達は距離を置くだけではなく、石や物を投げつけてきたり、暴言を吐いたりして、僕達を中桜区から追い出そうとしてきた。


それでも叶真達は逃げず、治安を良くしようと必死だった。


正直僕は何の為にこんな事してるのかと思う時がある。でも、皆がやる事を否定したくないし、ずっと皆と一緒にいると決めたんだ。
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