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努力の先の結末
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「丁度、桜が咲く時期になると思い出すんだ」
静かに話し出すとっち。
「うん」
「俺は両親の期待に応えられず、必要とされなくなった」
----八年前----
芝木 叶真十歳。
父は大手企業の社長、母は大きな病院の看護部長。
そんな家庭に産まれた俺は、常に完璧を求められ、"使える人間"でいなくてはならなかった。
「叶真、今日は父さん会議で母さんは仕事だから遅くなる。一人で大丈夫だな?」
「はい」
「ちゃんと家の事しとくんだぞ」
「はい」
「テストは?どうだった?見せてみろ」
「はい」
今日返ってきたばかりの百点の答案用紙を父さんに渡す。
「俺の息子ならこれくらいは当たり前だな」
「はい」
今まで褒められた事なんて一度もなかったが、俺という存在が否定された事はない。父と母はちゃんと俺を愛してくれているのだ。
「じゃあ、後は頼んだぞ」
「はい」
バタン。
しんと静まり返った部屋の中で一人、いつものように家事を済ませ、宿題をし、父に貸してもらった経済の本を読み、母に貰った色んな病気についての本を読む。
そして読んだ本の感想を書いてリビングの机の上に置いておく。これは父と母との約束だった。
「ふぅ…」
友達なんて作ってる暇も無く、学校がある日は寄り道せずに帰って勉強してご飯を作ってお風呂に入って本を読んで感想書いて寝る。そんな日常に思わず溜息をついてしまう。
遊ぶなんて事一度も出来なかった。学校の帰り道、遊んでる子を見ては興味を湧かせ、それでも我慢して父と母に認められたいと思った。
そんなある日、学校の帰り道の公園で一人の男の子に出会った。
「君、そんな所でどうしたの?」
「………」
その男の子は黙ったまま何も言わない。
「俺、芝木 叶真。君の名前は?」
「………」
固く口を閉ざし、ただ見つめてくる男の子。それが奏明との出会いだった。
それからたまに公園で見かけるようになり、その度に話しかけた。最初は返事のなかった奏明もしばらく経つと話してくれるようになった。
「今日はどうしたの?また喧嘩?」
「……違う」
「また傷増えてるよ」
そっと傷のある所に絆創膏を貼ってあげる。
「……ありがと」
「あんまり無理しちゃ駄目だよ?」
「……叶真もね」
「俺は無理なんかしてないよ」
「……そうは見えないけど」
「大丈夫だよ。ちゃんと必要としてくれる人もいるし、それだけで頑張れるよ」
「……怖いね」
「え?」
「……なんでもない」
「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。やる事沢山あるから。ばいばい」
「……ばいばい」
それから家に着くと、頭がクラクラして宿題もせずにベッドに横になってしまった。
「駄目だ…早く、起き、な、きゃ…」
それが人生最大の過ちだ。
「おい、叶真」
「ちょっとこっちに来なさい」
怒りの表情で俺を呼ぶ父と母。
「…はい」
目眩と頭痛に耐えながらそんな父と母の前に立つ。
「お前、昨日本は読んだのか?」
「すみません。昨日は、具合が悪くてすぐに寝てしまっ…っ」
ガタンっ。
父に叩かれ、椅子にぶつかって床に倒れ込む。
「そんな言い訳はいらん!」
「あなた、それでも私の子なの?」
「こんな簡単な事も継続出来んのか!」
「す、みません…」
「まだ話は終わってないのよ。さっさと立ちなさい」
ふらつく足を無理やり動かす。
「これであの話は決定だな」
「そうね。悪いけど叶真、あなたもう要らないから」
「…え」
風邪のせいか、体中を寒気が襲う。
「まだ分からないのか。本当に使えない奴だな。お前が一度でも約束を破ったら譲ろうと思っていたんだ。ここにいられても邪魔だからな」
「子供がいなくて欲しがってた山中さんとこに譲るだけよ。良かったじゃない。これからは優しくしてくれる人がいるんだから」
「そうだな。俺達は邪魔な子供を捨てて優秀な子供を引き取り、お前は構ってくれる優しい親を手に入れる。お互い利益があっていいじゃないか」
愛されていると思っていた。でも、違ったのか?必要としてくれているのだと、だからこそ厳しくするのだと思っていた。でも…
色んな感情が溢れてきて、もう何も耳に入ってこなかった。
意識がだんだん遠のいていく。
「………」
「………」
ガシャンっ。
大きな音と争うような声で目が覚めた俺は、起き上がってそっと扉の中から外の様子を見る。
すると、リビングには真っ赤な血が流れ、倒れて動かない父と母。
「ガキが一人いるんだよな?」
「ああ。さっさとガキ連れて戻るぞ」
「金になりそうなもんも全部持ってけ」
部屋の中を物色している様子の男達。
自分を探している。怖い。どうしよう。逃げ場なんてない。
男達はだんだんと近づいてくる。
そして、男の一人が扉に手をかけようとしたその時、
「おい」
低く、威圧感のある声が響く。
そこには、全身黒服の男達がいた。
声の主は黒服の男達の後ろに隠れて見えなかったが、子供の声のようだった。
「おやおやこれは。最近俺らの邪魔してくれてる奴らじゃねぇか」
「時間が無い。早く済ませろ」
「了解」
指示を出された黒服の男達は家を荒らしていた男達を次々と倒していく。
本当にあっという間だった。
黒服の男達は家の物に一切手を触れず、父と母に手を合わせて出て行った。
帰り際、男達の首にある刺青が目に入った。それは、黒い桜とそれを貫く真っ赤な弓矢だ。
俺は立ち尽くしたまま父と母を遠くから見ている事しか出来なかった。
それからしばらくして警察が来ると、父と母は顔に白い布を被せられて連れて行かれた。
両親を亡くし、引き取り手の無くなった俺は、施設に入る事になった。
後から警察に聞いた話では、山中さんという親戚も知り合いもいなかったらしい。最初からあの男達に引き渡すつもりだったのだろう。
施設の人達は俺の両親が悪い組織と繋がっていたと知って俺を避け、誰も俺を必要としなかった。
丁度同じ頃に入って来た奏明と施設にいた真白を自分の為に利用した。
俺を必要としてくれる人が欲しかった。誰かに必要とされない自分に生きがいを感じられなくなっていたから。
そして後から入って来た咲也と優も巻き込み、周りの皆に必要とされたくて、あの時助けてくれた黒服の人達にもう一度会いたくて、クインテットを作った。
つまり、俺は自分の為に皆を利用している。
最低の奴だ。それでも、誰かに必要とされたいと強く望んでしまう俺は、誰より悪い人間だ。
静かに話し出すとっち。
「うん」
「俺は両親の期待に応えられず、必要とされなくなった」
----八年前----
芝木 叶真十歳。
父は大手企業の社長、母は大きな病院の看護部長。
そんな家庭に産まれた俺は、常に完璧を求められ、"使える人間"でいなくてはならなかった。
「叶真、今日は父さん会議で母さんは仕事だから遅くなる。一人で大丈夫だな?」
「はい」
「ちゃんと家の事しとくんだぞ」
「はい」
「テストは?どうだった?見せてみろ」
「はい」
今日返ってきたばかりの百点の答案用紙を父さんに渡す。
「俺の息子ならこれくらいは当たり前だな」
「はい」
今まで褒められた事なんて一度もなかったが、俺という存在が否定された事はない。父と母はちゃんと俺を愛してくれているのだ。
「じゃあ、後は頼んだぞ」
「はい」
バタン。
しんと静まり返った部屋の中で一人、いつものように家事を済ませ、宿題をし、父に貸してもらった経済の本を読み、母に貰った色んな病気についての本を読む。
そして読んだ本の感想を書いてリビングの机の上に置いておく。これは父と母との約束だった。
「ふぅ…」
友達なんて作ってる暇も無く、学校がある日は寄り道せずに帰って勉強してご飯を作ってお風呂に入って本を読んで感想書いて寝る。そんな日常に思わず溜息をついてしまう。
遊ぶなんて事一度も出来なかった。学校の帰り道、遊んでる子を見ては興味を湧かせ、それでも我慢して父と母に認められたいと思った。
そんなある日、学校の帰り道の公園で一人の男の子に出会った。
「君、そんな所でどうしたの?」
「………」
その男の子は黙ったまま何も言わない。
「俺、芝木 叶真。君の名前は?」
「………」
固く口を閉ざし、ただ見つめてくる男の子。それが奏明との出会いだった。
それからたまに公園で見かけるようになり、その度に話しかけた。最初は返事のなかった奏明もしばらく経つと話してくれるようになった。
「今日はどうしたの?また喧嘩?」
「……違う」
「また傷増えてるよ」
そっと傷のある所に絆創膏を貼ってあげる。
「……ありがと」
「あんまり無理しちゃ駄目だよ?」
「……叶真もね」
「俺は無理なんかしてないよ」
「……そうは見えないけど」
「大丈夫だよ。ちゃんと必要としてくれる人もいるし、それだけで頑張れるよ」
「……怖いね」
「え?」
「……なんでもない」
「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。やる事沢山あるから。ばいばい」
「……ばいばい」
それから家に着くと、頭がクラクラして宿題もせずにベッドに横になってしまった。
「駄目だ…早く、起き、な、きゃ…」
それが人生最大の過ちだ。
「おい、叶真」
「ちょっとこっちに来なさい」
怒りの表情で俺を呼ぶ父と母。
「…はい」
目眩と頭痛に耐えながらそんな父と母の前に立つ。
「お前、昨日本は読んだのか?」
「すみません。昨日は、具合が悪くてすぐに寝てしまっ…っ」
ガタンっ。
父に叩かれ、椅子にぶつかって床に倒れ込む。
「そんな言い訳はいらん!」
「あなた、それでも私の子なの?」
「こんな簡単な事も継続出来んのか!」
「す、みません…」
「まだ話は終わってないのよ。さっさと立ちなさい」
ふらつく足を無理やり動かす。
「これであの話は決定だな」
「そうね。悪いけど叶真、あなたもう要らないから」
「…え」
風邪のせいか、体中を寒気が襲う。
「まだ分からないのか。本当に使えない奴だな。お前が一度でも約束を破ったら譲ろうと思っていたんだ。ここにいられても邪魔だからな」
「子供がいなくて欲しがってた山中さんとこに譲るだけよ。良かったじゃない。これからは優しくしてくれる人がいるんだから」
「そうだな。俺達は邪魔な子供を捨てて優秀な子供を引き取り、お前は構ってくれる優しい親を手に入れる。お互い利益があっていいじゃないか」
愛されていると思っていた。でも、違ったのか?必要としてくれているのだと、だからこそ厳しくするのだと思っていた。でも…
色んな感情が溢れてきて、もう何も耳に入ってこなかった。
意識がだんだん遠のいていく。
「………」
「………」
ガシャンっ。
大きな音と争うような声で目が覚めた俺は、起き上がってそっと扉の中から外の様子を見る。
すると、リビングには真っ赤な血が流れ、倒れて動かない父と母。
「ガキが一人いるんだよな?」
「ああ。さっさとガキ連れて戻るぞ」
「金になりそうなもんも全部持ってけ」
部屋の中を物色している様子の男達。
自分を探している。怖い。どうしよう。逃げ場なんてない。
男達はだんだんと近づいてくる。
そして、男の一人が扉に手をかけようとしたその時、
「おい」
低く、威圧感のある声が響く。
そこには、全身黒服の男達がいた。
声の主は黒服の男達の後ろに隠れて見えなかったが、子供の声のようだった。
「おやおやこれは。最近俺らの邪魔してくれてる奴らじゃねぇか」
「時間が無い。早く済ませろ」
「了解」
指示を出された黒服の男達は家を荒らしていた男達を次々と倒していく。
本当にあっという間だった。
黒服の男達は家の物に一切手を触れず、父と母に手を合わせて出て行った。
帰り際、男達の首にある刺青が目に入った。それは、黒い桜とそれを貫く真っ赤な弓矢だ。
俺は立ち尽くしたまま父と母を遠くから見ている事しか出来なかった。
それからしばらくして警察が来ると、父と母は顔に白い布を被せられて連れて行かれた。
両親を亡くし、引き取り手の無くなった俺は、施設に入る事になった。
後から警察に聞いた話では、山中さんという親戚も知り合いもいなかったらしい。最初からあの男達に引き渡すつもりだったのだろう。
施設の人達は俺の両親が悪い組織と繋がっていたと知って俺を避け、誰も俺を必要としなかった。
丁度同じ頃に入って来た奏明と施設にいた真白を自分の為に利用した。
俺を必要としてくれる人が欲しかった。誰かに必要とされない自分に生きがいを感じられなくなっていたから。
そして後から入って来た咲也と優も巻き込み、周りの皆に必要とされたくて、あの時助けてくれた黒服の人達にもう一度会いたくて、クインテットを作った。
つまり、俺は自分の為に皆を利用している。
最低の奴だ。それでも、誰かに必要とされたいと強く望んでしまう俺は、誰より悪い人間だ。
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