ヤクザ娘の生き方

翠華

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準備(世視点)

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一番めんどくさい状況になった。


久しぶりの憂鬱に耐えながらだらだらと過ごしていると、


「世様」


「ああ、来たか」


「ご命令ですか?」


「頼みがある」


「はい」


「今俺はここから離れる訳にはいかない。代わりにやって欲しい仕事がある。少しきつい仕事になるだろう。頼めるか?」


「かしこまりました」


「黒薔薇組の奴らの狙いは桜組だろう」


「では…」


「ああ。そちらは大人達に任せる。だが、少しだけ厄介なものを片付けてやろうと思ってな」


「厄介なもの、ですか?」


「ああ。難しくはないが、少し数が多い。手分けしてやってくれ」


「かしこまりました」


「本当に、頭の硬い大人は手がかかる」


「………」


「ああ、それと、クロユリの刺青をした男だが、運が良ければ今回の件で尻尾を出すかもしれない」


「では、準備しておきます」


「頼んだぞ」


「はい」


「…苦労かけるな」


「いえ、世様に頼って頂ける事が何より幸せでございます」


「大袈裟だ」


「私達にはこれが当たり前です」


「そうか」


「はい」


静かな空間の中、聞こえるのはお互いの息づかいだけだ。


「世様」


「何だ?」


「……もう、笑いませんか?」


「何の話だ」


「いえ…」


「………」


「失礼しました」


「いい。気にするな」


「…はい」


「では、この件は任せた。お前達なら大丈夫だと思うが、決して油断するな。俺達が行く場所に安全はない。少しずつでいい。仕事は丁寧にやれ」


「かしこまりました」


「行け」


「はい」


去っていく足音を聞きながら思い出すのは、初めて出会ったあの日のこと。


いい。いいね。こんな時にでも俺はあの時のことを思い出す事が出来る。どんな時でもそうだ。


やはり俺にはこの道が合ってる。


最後の地獄はどこかな。


思わずニヤける顔。


ああ、思いっきり笑いたい。誰もが恐怖するような場所で。恐怖する顔を見ながら。


気にしなくても、もうすぐ俺の最高の笑顔が見られるよ。
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