ヤクザ娘の生き方

翠華

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見てなかったもの(小日向 光視点)

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「はぁ……」


昼休み。


教室の片隅で弁当を広げると、心無しか机が広く感じる。


花子ちゃんに会うまでずっと一人だったのに、こうやってまた一人になるまでそんな事忘れてた。


「本日34回目の溜息」


「いつから数えてたの」


「最近どうしたよ?」


大和君と秀司君が机をくっつけて座る。


「…どうしたんだろう……」


「山田か」


「………」


花見から帰ってきて一度も会ってない。学校にも全然来てないし。


「もうすぐ夏休みなのに…」


「そうだな」


「四人で花火大会行ったり、海行ったり、沢山遊んだりしたかったな…」


「おいおい、まだ出来ないとは決まってないだろ!てか花火大会は一応行ったけどな!」


「でも花子ちゃんは一緒に見られなかったし」


「ま、まぁ確かにそうだけどよ…」


「俺ら誰もあいつの家とか知らないし、メールしても返信来ないよな」


「くっそぉ!何であいつメール以外俺らに何も教えてねぇんだよ!」


本当に、何でだろう…家の事とか電話とか、友達ならさらっと聞いたり教えたりするものなのかな…


でも、花子ちゃんと話してるとそれが楽しくて、そういうお互いの話になる事なんてなかった。メールも大和くんが遊ぶ時、集合時間とか場所確認する為に交換しようって言ったから交換しただけ。


「…私、何で花子ちゃんの事、何も聞かなかったんだろう…」


「………」


「俺、ちょっと思ったんだけどさ、」


秀司君が俯き気味に言葉を続ける。


「山田って多分そういう話、避けてたんだと思う」


「………」


珍しく大和君が静かだ。


「そうだね…」


「別に、」


「え?」


「別にいいんじゃねぇの」


「…え?」


「誰だって言いたくない事の一つや二つや三つくらいあるだろ」


「大和君にもあるの?」


「俺はないぜ!隠すような事はしてないからな!」


「でもお前、親に0点の答案用紙隠してるじゃん」


「お前っ!それとこれとは話が別だろうが!」


「一緒だし」


「ぐぬぬぬぬっ」


「でも、そういう言えない事を言える相手が本当の友達って事なんじゃないの?」


「どうなんだろうね。でも確かに俺、大和に隠し事なんてした事ないかも。隠す事ないし」


「俺も秀司に隠す事ねぇかなぁ。隠してもすぐバレるし。こいつ脳みそお化けだから」


「意味分からないんだけど」


「…そっか」


「これからそうなればいいじゃん!」


「…うん」


「俺らも最初はそうだったんだから」


「…うん」


「最初から親友なんて有り得ないし、出会ってすぐ心を開くなんて無理な話だろ」


「…うん」


「…でもさ、俺はあかりと花子、そんなに距離あいてないと思うぜ?」


「…え?何で?」


「だってお前ら、ちゃんと言いたい事言えてんじゃん」


「……?」


「お互いの事深く知らなくても言いたい事言えてるうちは大丈夫だろ。それに、相手の事を知りたいと思うのも、友達として当たり前の事っつーか、自然な事なんじゃねぇの?ま、俺の場合は長い付き合いの中でいつの間にか色々知ったって感じだけど」


「そういうものなの?」


「人それぞれだよ。俺と大和は何も知らない他人から長い付き合いで自然と知ってっただけ」


「そうそう!」


「自然と知っていくのか、自分から知ろうとするのか、相手から教えてくれるのを待つのか、それはその人次第。あと、相手次第。こればっかりは自分だけじゃどうにもならないからね」


「俺らも花子とはそうやってもっと仲良くなってきたいと思ってんだ」


「つまり、ここにいる三人は同士って事」


「そういう事!」


「…そうだね。二人ともありがとう」


花子ちゃんの事、まだ全然知らないけど、今日は大和君と秀司君の事を少し知れた。


「あー腹減った。湿気った顔してねぇでさっさと飯食おうぜ」


「ふっ、湿気った顔って、どんな顔よ」


「あ、笑いやがったな!」


「何だか久しぶりだね」


いつもより全然静かだけど、穏やかで、ご飯を食べられる程には戻ってきた日常に、初めて感謝する。
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