ヤクザ娘の生き方

翠華

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変化

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グラウンドにある戦車を見て確信する。


やっぱりこっちが本命か。


人を集めるなら体育館しかないだろうし、そこにいるのはわかるけど、どうやって中を確認しよう……


体育館の周りをうろうろしながら丁度良い覗き穴を探す。


ガタンっ


中から大きな音が聞こえる。


何だ?何があったんだ?


やっと見つけた覗き穴から中を覗くと、知った顔の男が女の子を見下ろしていた。


あいつゆっちの父親じゃん!か弱い女の子になんて事してくれてんの!?って、あれ?


演壇の上に倒れ込んでいる友人を見つける。


…あかり……?


ドクドクと心臓の動きが早くなる。


何であかりが……


ドスッ


「うっ!」


鈍い音と声がほぼ同時に聞こえる。


繰り返し聞こえる音と声。


殴られる度に地面に倒れるあかり。涙を流しているのがはっきりと分かる。震える体を無理矢理引っ張り上げられ、腹や顔を殴られている。


何?あの男は何をしてるの?何が目的?ウチを怒らせたいわけ?それならもう十分だよ。もう、十分。


ウチは予め警察からパクっておいた銃を両ポケットから1つずつ取り出し、握りしめる。


敵は男を入れて15人。相手の位置は把握した。


ちょっと寝ててもらおう。


ごめんね父さん。ウチは今日"ただの女の子を卒業する"よ。


卒業式には間に合うかな。


ゆっちにもバレちゃうね。でも、しょうがないよね。だって、そうなる事をあの男が自分でしたんだから。


ウチはポケットから手榴弾型の強力な睡眠ガスを取り出し、それを穴から中に投げ入れる。


バタバタと人が倒れる音がする中、あえて開けていたのか、開いていた正面の入り口から入る。


倒れた敵を一人ずつ外に引きずり出す。


こいつらは利用されただけだろう。とりあえず何か聞き出せる事があるかもしれないし、殺すのはやめておこう。


武器は持ち帰って解体する為に一箇所に集めておく。


それから急いで演壇の上のあかりの元に行く。涙で濡れ、腫れた顔。


あかりの顔に触れようと手を伸ばす。


女の子にとって何よりも大切な顔をこんなにするなんて…痣もあちこちに出来てる…苦しかったね、痛かったね…ごめんね…ウチのせいだ。あの日、この男が家に来てから、狙いはゆっちからウチになったんだ。だから今日、この学校が狙われた。本当にごめんね。この男が黒薔薇組と関わってるなんて簡単に分かる事なのに。遅くなって本当にごめん……


あかりの顔に触れる事なく手を離す。


お姫様抱っこして演壇から降りてすぐの所にゆっくり降ろす。


しばらくは全員どんな大きな音でも目を覚まさない。桜組で開発した睡眠ガスは本当に強力だから。早くて3日後にしか起きないだろう。


「でもあんたには起きてもらわないと」


見下ろして思いっきり男の足を踏みつける。


「ぐぁぁぁぁっ!な、何だ!?はぁっはぁ、一体何が……」


「おはよう」


「て、てめぇは桜組の娘!」


「ああ、覚えてたのか」


「一体どうなってる!他の奴らはどうした!?」


「何を混乱してる?お前は"私"に会いたかったんだろ」


「そうだ。てめぇをいたぶって、弄んでやれば優は俺の言う事を聞かなかった事を後悔する。俺はその顔が見たい。その顔で俺の言う事だけを聞いていればいい。なのに、それをてめぇらが邪魔しやがった!ぐはっ!」


男の腹を思いっきり蹴る。


「興奮するな。気持ち悪い」


「ごほっげほっ、て、てめぇ!調子に乗るなよ!俺にはこれが…あ?はぁ!?ない!どこにいった!!」


「探し物はこれか?」


男から奪っておいた銃を右手で弄びながら言う。


「何でてめぇが持ってる!」


「武器をそのまま持たせておくわけがないだろ。馬鹿か」


「くっ、返しやがれ!このクソガキが!!ぐああっ!」


今度は顔を蹴飛ばしてやる。


「状況が分かってないな。次は"お前の番"だ」


「ぐっ……な、に?」


「さっきはよくも楽しんでくれたな」


「あ?…ああ、あの女か。もしかしててめぇの友達か?そりゃ都合が良かったな!てめぇがいないから楽しめねぇと思ったが、いいカモがいたのか。ははっ、俺はツイてたみてぇだ」


ウチの顔を見ながら男は思い出しているのか、楽しそうに笑う。


『その男は知ってるぞ』


黒い感情が渦巻く中、頭の中で誰かの声が響く。


誰だ?


『無意識とはいえ、そろそろ気づいてもいい頃だろ。いつまでも目を逸らすな』


…………。


『それより、その男はお前が探してる奴を知ってる』


ドクンっ…


『お前が本当に探してる奴は"俺"か?違うよな?いつまでも俺を気を紛らわせる為の道具にするな』


ドクンドクン…


『その男を逃せばまた被害者が増えるぞ。特にお前の周りにいる奴らが狙われるだろ。それでもいいのか?』


ドクンドクンドクン…


『その男を殺す前に聞いておけ。本当にお前が探してる奴の事をな。それが"俺達"の本当の目的だろ』


ドクンドクンドクンドクンドクン……


心臓がバクバクと激しく鼓動する。


そうか。そうだった。ずっと目を逸らしてきたせいで忘れかけていた。ずっとずっと一人だけ黒いものを背負わせてごめん。思い出させてくれてありがとう。心から感謝するよ。本当に。


ああ、世。一緒に"約束"を果たそう。今からが本来の私達だよ。
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