73 / 80
気づいた事
しおりを挟む
「俺は初めて花子さんが俺達の世界に入ってきた時、とても嫌でした」
気まずそうに笑うゆっち。
「花子さんに会う度に叶真達は少しずつ変わっているような気がして、それも嫌だったんです。でも父さんを見て初めて怖いと感じた時、花子さんが俺の手を握ってくれて、久しぶりに人の温かさを感じました。そして同時に母を思い出したんです。おかげで俺は飛春さん達といる事を選べました」
吹っ切れたような顔のゆっち。
「母さん……」
思わず母さんの写真に目がいく。
「感謝してます。あの時父さんを選んでいたら俺は一生後悔していました」
「………」
「どうしてかはわかりませんが、銃を父さんに向けている時、父さんを殺そうとしている事よりも飛春さん達や叶真達、花子さんの事が頭によぎって、どうしても撃てませんでした。大切な人…いえ、家族の前でそんな事は出来なかったんです。それに、大切な家族が出来たからこそ、その人達に褒められるような人間になりたいと思いました。母に見せてあげられなかった姿を今度はちゃんと見せたいと思ったんです」
ああ、ゆっちは変わったんだ。家族の事を考えてくれているんだ。
とても嬉しい。心の声を話してくれた事。大切な家族だと言ってくれた事。ウチと父さん達の事を心配してくれている事。
でも、どうしてだろう。モヤモヤする。まだ父さん達のした事が許せない?ウチもゆっちみたいに変わりたいのに心の中に棘が刺さってるみたいで気持ち悪い。
「…あのさ、」
そんなウチの表情に気づいたのか、まっちが言いにくそうに話しかけてくる。
「?…まっち?」
「僕さ、本当は怖いと思ったんだ」
ドクンっ
その言葉に心臓の鼓動が早くなる。
「君が優の父親を殺そうとした時、僕も同じ事をしたのに何故か怖いと思ったんだ」
「…そんなに、怖かった…?」
恐る恐る聞く。
「…うん。でも、おかげで気づいた事もあるんだ」
「…気づいた事?」
「うん。僕、自分に対して殺意を向けてくる人間を殺すのは自分の中で有りだと思ってたし、仕方の無い事だと思ってたんだ。それに、そういう人間を殺した後は幸せというか、満たされてた」
「………」
「でも、君が人を殺そうとしてる時は恐怖を感じた。何故か分からなくて混乱したけど、答えは簡単だった」
「…それって……」
「君が自分の為に人を殺そうとしてたからだよ」
「…え……?」
「だから怖いと思ったんだ。僕も今までは自分の為だと思ってた。けど、違ったんだ。僕が父さんを殺した時は多分母さんを守ろうとして。君と逃げてた時は君を守ろうとして。叶真達は優しいから人を殺せないし殺させたくなかった。だから叶真達に害があると思った人間をこっそり殺ったりしてた。でも、僕に害があるやつの事は意識した事もなかった」
「真白…」
叶真達はまっちに目を向け、申し訳なさそうにしている。
「別に悪いと思わなくていいよ。僕がしたくてしてた事なんだから。それに、叶真達の為になってると思うだけで幸せだったんだ」
「まっち……」
「ねぇ、君はあの時幸せだった?もし優の父親を殺せたとして、幸せを感じられた?満たされてた?」
そう言われて改めて考えると、殺意しかなかったあの時、きっと自分で殺せたとしても残ったのは喪失感とあかりへの罪悪感だけだっただろう。
「…それは……」
「僕が気づけたのは君のおかげだよ。今こう言うのはおかしいかもしれないけど、感謝してる。ありがとう」
「まっち…」
「それに、君と逃げてた時に人を殺してまで守ろうと思えたって事は君の事も僕にとっては大切な家族なんだ。だから、君や飛春さん達にはちゃんと話し合って欲しい。何があったのかは知らないけど、飛春さん達は自分の幸せの為に行動する人達じゃないと思うんだ。君にした事は全部君の幸せの為で、君が幸せなら飛春さん達も幸せなんだと思う」
そこで初めて気づいた。
ウチは今まで誰の為に、何の為に生きていたのかと。
「ウチは……」
ぽろぽろと流れる涙。
「君の事、僕達に教えて。飛春さん達と仲直りしてからでいいから。もう僕達にとって君は大切な家族なんだ。だから、ね?花子」
「…うっ…ううっ、う……っ」
優しく涙を拭いてくれるまっち。
「僕の事、真白って呼んでよ。ちゃんと名前で。もう僕達の間に距離は無いよ。花子が距離を置いても、僕達が近づいていくから」
「俺の事も優と呼んで下さい。まぁ、俺の方が年上ですから、兄さんとつけても構いませんよ」
冗談っぽく言って笑う優。
「うっ…あり、が、と……っ」
「花子は案外泣き虫なんだな」
叶真が優しく笑う。
さっちと泰明も黙って見守ってくれている。
「…ううっ、ありがと、みんな……うっうぐっ…」
真白の言葉でやっと気づけた。皆の優しさがウチに教えてくれた。
今まで時間を台無しにしていたのはウチ自身で、ウチ一人だけ。そして父さんや翠や蓮や遥人や彰人や鈴音さん、桜組の組員全員を無視して、巻き込んでしまったのはウチだ。
馬鹿だ。なんて事を……今まで、ずっとウチが皆を苦しめていた。
謝らないと。ちゃんと、今までの事を謝って、やり直すチャンスを貰わないと。じゃないとウチは死んでも死にきれない。
今はもう心に棘はない。全て叶真達が抜き取って教えてくれた。
早く父さん達に会いたい。
気まずそうに笑うゆっち。
「花子さんに会う度に叶真達は少しずつ変わっているような気がして、それも嫌だったんです。でも父さんを見て初めて怖いと感じた時、花子さんが俺の手を握ってくれて、久しぶりに人の温かさを感じました。そして同時に母を思い出したんです。おかげで俺は飛春さん達といる事を選べました」
吹っ切れたような顔のゆっち。
「母さん……」
思わず母さんの写真に目がいく。
「感謝してます。あの時父さんを選んでいたら俺は一生後悔していました」
「………」
「どうしてかはわかりませんが、銃を父さんに向けている時、父さんを殺そうとしている事よりも飛春さん達や叶真達、花子さんの事が頭によぎって、どうしても撃てませんでした。大切な人…いえ、家族の前でそんな事は出来なかったんです。それに、大切な家族が出来たからこそ、その人達に褒められるような人間になりたいと思いました。母に見せてあげられなかった姿を今度はちゃんと見せたいと思ったんです」
ああ、ゆっちは変わったんだ。家族の事を考えてくれているんだ。
とても嬉しい。心の声を話してくれた事。大切な家族だと言ってくれた事。ウチと父さん達の事を心配してくれている事。
でも、どうしてだろう。モヤモヤする。まだ父さん達のした事が許せない?ウチもゆっちみたいに変わりたいのに心の中に棘が刺さってるみたいで気持ち悪い。
「…あのさ、」
そんなウチの表情に気づいたのか、まっちが言いにくそうに話しかけてくる。
「?…まっち?」
「僕さ、本当は怖いと思ったんだ」
ドクンっ
その言葉に心臓の鼓動が早くなる。
「君が優の父親を殺そうとした時、僕も同じ事をしたのに何故か怖いと思ったんだ」
「…そんなに、怖かった…?」
恐る恐る聞く。
「…うん。でも、おかげで気づいた事もあるんだ」
「…気づいた事?」
「うん。僕、自分に対して殺意を向けてくる人間を殺すのは自分の中で有りだと思ってたし、仕方の無い事だと思ってたんだ。それに、そういう人間を殺した後は幸せというか、満たされてた」
「………」
「でも、君が人を殺そうとしてる時は恐怖を感じた。何故か分からなくて混乱したけど、答えは簡単だった」
「…それって……」
「君が自分の為に人を殺そうとしてたからだよ」
「…え……?」
「だから怖いと思ったんだ。僕も今までは自分の為だと思ってた。けど、違ったんだ。僕が父さんを殺した時は多分母さんを守ろうとして。君と逃げてた時は君を守ろうとして。叶真達は優しいから人を殺せないし殺させたくなかった。だから叶真達に害があると思った人間をこっそり殺ったりしてた。でも、僕に害があるやつの事は意識した事もなかった」
「真白…」
叶真達はまっちに目を向け、申し訳なさそうにしている。
「別に悪いと思わなくていいよ。僕がしたくてしてた事なんだから。それに、叶真達の為になってると思うだけで幸せだったんだ」
「まっち……」
「ねぇ、君はあの時幸せだった?もし優の父親を殺せたとして、幸せを感じられた?満たされてた?」
そう言われて改めて考えると、殺意しかなかったあの時、きっと自分で殺せたとしても残ったのは喪失感とあかりへの罪悪感だけだっただろう。
「…それは……」
「僕が気づけたのは君のおかげだよ。今こう言うのはおかしいかもしれないけど、感謝してる。ありがとう」
「まっち…」
「それに、君と逃げてた時に人を殺してまで守ろうと思えたって事は君の事も僕にとっては大切な家族なんだ。だから、君や飛春さん達にはちゃんと話し合って欲しい。何があったのかは知らないけど、飛春さん達は自分の幸せの為に行動する人達じゃないと思うんだ。君にした事は全部君の幸せの為で、君が幸せなら飛春さん達も幸せなんだと思う」
そこで初めて気づいた。
ウチは今まで誰の為に、何の為に生きていたのかと。
「ウチは……」
ぽろぽろと流れる涙。
「君の事、僕達に教えて。飛春さん達と仲直りしてからでいいから。もう僕達にとって君は大切な家族なんだ。だから、ね?花子」
「…うっ…ううっ、う……っ」
優しく涙を拭いてくれるまっち。
「僕の事、真白って呼んでよ。ちゃんと名前で。もう僕達の間に距離は無いよ。花子が距離を置いても、僕達が近づいていくから」
「俺の事も優と呼んで下さい。まぁ、俺の方が年上ですから、兄さんとつけても構いませんよ」
冗談っぽく言って笑う優。
「うっ…あり、が、と……っ」
「花子は案外泣き虫なんだな」
叶真が優しく笑う。
さっちと泰明も黙って見守ってくれている。
「…ううっ、ありがと、みんな……うっうぐっ…」
真白の言葉でやっと気づけた。皆の優しさがウチに教えてくれた。
今まで時間を台無しにしていたのはウチ自身で、ウチ一人だけ。そして父さんや翠や蓮や遥人や彰人や鈴音さん、桜組の組員全員を無視して、巻き込んでしまったのはウチだ。
馬鹿だ。なんて事を……今まで、ずっとウチが皆を苦しめていた。
謝らないと。ちゃんと、今までの事を謝って、やり直すチャンスを貰わないと。じゃないとウチは死んでも死にきれない。
今はもう心に棘はない。全て叶真達が抜き取って教えてくれた。
早く父さん達に会いたい。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる