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向き合って
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「…花子が謝る事はない。俺のせいだ。俺が大切な組員を巻き込み、大切な花子の時間を奪った。何も聞かず、自分の考えだけで誤った選択をしたんだ。そのせいで花子も組員も苦しめる結果になった。本当に、すまない…」
「それは…っ」
蓮が必死な顔で父さんを見ている。
「母さんが死んだ日」
ウチはそれを遮る。
謝るだけじゃ伝わらない。ちゃんと過去と向き合って、家族としてやり直す為に。ウチが先に進む為に。父さん達が後ろめたさを感じながら生活しないように。隠し事は無しで自分の内側にある思いを全部話すんだ。
気づけば、今日初めて全員の視線がウチに向いていた。
「…母さんが死んだ日の事を思い出した時、今までよりももっと強く憎しみが湧いてきた。それ以外の事なんか視界に入らない、声も聞こえないくらいに。でも、やっと今、あの日の父さん達の姿が見えてきたんだ。表情、言葉、動き。全部が私の為のものだった。憎しみを失わないように見て見ぬふりをして、蓋をした。全て遠ざけた。それで、気づいたら忘れてた…」
話をしてても涙は止まらない。ぽろぽろと床に落ちて溜まっていく。
「父さんの薬で記憶を無くして、今まで意味の無い事をしてきたのは事実だよ。でも、それはウチが勝手にしてきた事なんだ。家族に対して幸せを共有出来る時間を無駄にして、意味の無い事しかしてこなかった。ウチは父さん達に罪悪感と不安だけを抱えさせてそれに気づきもせずに世の事だけを考えてきた。世に会えば何か分かる、そう信じて。それから学校で要のお父さんに会って、世がどこにいるのか分かって、全部ではないけど母さんが死んだ日の事を思い出した。ウチは母さんの復讐の為だけに生きてきたんだ。でもそれは、誰の為にもならない事だった。結局復讐出来たとしても、残るのは喪失感と悲しみだけだって気づいた」
ごめん。ごめんね、世。今までウチの為に時間を使って、迷わず手を汚してくれたのに。これからウチは世にも返していく。最期の日は来る。その前には……
"そうなる"とわかっていても笑顔になれるのは、父さん達や叶真達のおかげだ。
「…父さん達が大切にしている桜組と家族同然の組員達を無視してまで復讐に時間をかけてきた。関係ない組員達に八つ当たりまでして。ごめんなさい。それを必死で避けようとしてウチにずっと寄り添おうとしてくれてたのに、全部自分勝手に無視した。言い訳だけど復讐心が強過ぎて何も見えてなかった。ううん。見ないようにしてた。でも、叶真達がそれに気づかせてくれた」
扉の向こうに感じていた気配は慌てているようだ。
涙は止まらないのに、笑いそうになる。
「父さん達は全然悪くない。罪悪感なんて感じないで。ウチは、ずっと見捨てずにウチの事を見続けてくれた父さん達に感謝してもしきれない。これから、どう返していけばいいのか分からない。でも、皆で幸せな時間をずっと共有して生きていきたい。今までずっと大きな愛を与え続けてくれて本当にありがとう」
そう言ってもう一度頭を地面につける。
「……っ」
え……
思わず顔を上げると、父さんを除いた全員が涙を流してウチを見ていた。
父さんは泣きそうになるのを耐えているのか、眉間に皺が寄っている。
でもウチは、初めて見る家族の涙に心がいっぱいだった。
「…父さん……?」
父さんの顔をよく見ようと手を伸ばすと、その手を掴まれて大きな胸の中に収まる。
抱き締める父さんの体は震えていた。
どんなに力強く抱き締め返しても、全然足りないくらい、大好きという気持ちが溢れてくる。
何故だろう。毎日抱き締めているのに、こんなに温かいのは久しぶりだ。
「それは…っ」
蓮が必死な顔で父さんを見ている。
「母さんが死んだ日」
ウチはそれを遮る。
謝るだけじゃ伝わらない。ちゃんと過去と向き合って、家族としてやり直す為に。ウチが先に進む為に。父さん達が後ろめたさを感じながら生活しないように。隠し事は無しで自分の内側にある思いを全部話すんだ。
気づけば、今日初めて全員の視線がウチに向いていた。
「…母さんが死んだ日の事を思い出した時、今までよりももっと強く憎しみが湧いてきた。それ以外の事なんか視界に入らない、声も聞こえないくらいに。でも、やっと今、あの日の父さん達の姿が見えてきたんだ。表情、言葉、動き。全部が私の為のものだった。憎しみを失わないように見て見ぬふりをして、蓋をした。全て遠ざけた。それで、気づいたら忘れてた…」
話をしてても涙は止まらない。ぽろぽろと床に落ちて溜まっていく。
「父さんの薬で記憶を無くして、今まで意味の無い事をしてきたのは事実だよ。でも、それはウチが勝手にしてきた事なんだ。家族に対して幸せを共有出来る時間を無駄にして、意味の無い事しかしてこなかった。ウチは父さん達に罪悪感と不安だけを抱えさせてそれに気づきもせずに世の事だけを考えてきた。世に会えば何か分かる、そう信じて。それから学校で要のお父さんに会って、世がどこにいるのか分かって、全部ではないけど母さんが死んだ日の事を思い出した。ウチは母さんの復讐の為だけに生きてきたんだ。でもそれは、誰の為にもならない事だった。結局復讐出来たとしても、残るのは喪失感と悲しみだけだって気づいた」
ごめん。ごめんね、世。今までウチの為に時間を使って、迷わず手を汚してくれたのに。これからウチは世にも返していく。最期の日は来る。その前には……
"そうなる"とわかっていても笑顔になれるのは、父さん達や叶真達のおかげだ。
「…父さん達が大切にしている桜組と家族同然の組員達を無視してまで復讐に時間をかけてきた。関係ない組員達に八つ当たりまでして。ごめんなさい。それを必死で避けようとしてウチにずっと寄り添おうとしてくれてたのに、全部自分勝手に無視した。言い訳だけど復讐心が強過ぎて何も見えてなかった。ううん。見ないようにしてた。でも、叶真達がそれに気づかせてくれた」
扉の向こうに感じていた気配は慌てているようだ。
涙は止まらないのに、笑いそうになる。
「父さん達は全然悪くない。罪悪感なんて感じないで。ウチは、ずっと見捨てずにウチの事を見続けてくれた父さん達に感謝してもしきれない。これから、どう返していけばいいのか分からない。でも、皆で幸せな時間をずっと共有して生きていきたい。今までずっと大きな愛を与え続けてくれて本当にありがとう」
そう言ってもう一度頭を地面につける。
「……っ」
え……
思わず顔を上げると、父さんを除いた全員が涙を流してウチを見ていた。
父さんは泣きそうになるのを耐えているのか、眉間に皺が寄っている。
でもウチは、初めて見る家族の涙に心がいっぱいだった。
「…父さん……?」
父さんの顔をよく見ようと手を伸ばすと、その手を掴まれて大きな胸の中に収まる。
抱き締める父さんの体は震えていた。
どんなに力強く抱き締め返しても、全然足りないくらい、大好きという気持ちが溢れてくる。
何故だろう。毎日抱き締めているのに、こんなに温かいのは久しぶりだ。
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