すれ違った相手と恋に落ちました

獅月 クロ

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歩く間に特に此れと言って話はしなかったけれど、握った手を離す事なく着いてくる颯さんが可愛くて仕方ない

『 ....俺、38歳なんだぞ。焼肉屋って.... 』

「 いいじゃないですか。俺と颯さんがすれ違った場所ですよ 」

結局、連れてきたのは俺が元勤めていたバイトのじゅうじゅう亭であり
座った場所も颯さん達を見た11番

前回同様にパネルを弄る颯さんを見てると強ち嫌でないんだと分かる

『 すれ違った場所はビルの前の気もするが....まぁいいか 』

「 いいです。あ、好きなの頼んでください、沢山食べましょ 」

『 沢山食えるかな....オススメ教えてくれ 』

向けられたパネルに俺はやっぱりそうなると知ってたからこそ、受け取ってから選んでいく

ご飯は小盛りと中盛り、勿論颯さんが小であり俺が中だ
水を選んでからオススメの肉を選ぶ

この6年でメニューは変わったと思っていたが、そこまで変わっていない 
流石、人気店だと思う

「 注文しました 」

『 後ビール2つ 』

「 えっ....俺、飲まないって決めてるんですよ? 」

『 出逢った乾杯に1杯付き合え 』

「 分かりました.... 」

問答無用な辺りに可笑しくなり、仕方なくビール2つ注文を追加し待っていれば彼はロングの髪の先を弄る

「 ....脱がないんですか?それ、ズラですよね? 」

『 ウィッグと言え。脱げるわけないだろ....服も女物なんだから 』

「 御待たせしました、お先にお冷をお待ちしました 」

まぁ、確かにウィッグだけ外したらスカート履いてるし違和感あると納得し
お冷を受け取り、颯さんの手元に1つ置き同時に呑みながら呟いた

「 ....後で、脱がそ 」

『 ゴホッ!おま、なに、いってやがる.... 』
 
「 なにって、服を買って差し上げようかと....ナニか想像しました? 」

『 ....服なんているか 』

咳き込んだ颯さんにむっつりだなと思うが、俺も内心下心あったまま言ったからその反応は嬉しかった

何気無く行為をすることに意識を向けてる彼の頬が赤くなるのが可愛い

「 では、脱がしますね。俺の童貞、差し上げます 」 

『 ....御前、まだ童貞だったのか? 』

なにその、凄く意外そうな顔
確かに医大に入ってる辺りから自覚があるぐらいモテていたが童貞は貫いていた

「 童貞ですよ?ずっと颯さんに差し上げうと....重いですか? 」

『 重いな....滅茶苦茶重い 』

「 そんな.... 」

目線を外す颯さんの言葉にやっぱり重いのかとがっくりと肩を落とせば、彼はコップを煽り水を飲み小さく答えた

『 ....まぁ、嫌ではないよ.... 』

「 !!それは良かった 」

『 ....御前、本当....忠犬な 』

自分で言って恥ずかしがってる颯さんに俺は注文したビールが届き、其れを1つ手元に置きながら笑みを浮かべる

「 忠犬って思われるのは嬉しいですね....ずっと待っていましたし、約束通り医者にもなりました 」

『 そうな....凄いよ、海斗は 』

ビールを持ちグラスを向けてきた陸さんに俺もまた掴み互いにカンッと僅かに当てる

『 乾杯、海斗に出逢えて良かった 』

「 乾杯、俺の方こそ颯さんと出逢えて嬉しいです 」

颯さんが呑んだ後に一口ビールを飲めばくっと喉に感じる熱は、この年齢になったからか案外美味しいことに気付く

『 悪くないだろ?大人の味さ.... 』

「 大人!なるほど.... 」

『 ふはっ!御前は24歳か? 』

「 ....そうですよ。因みに乙女座なんで25歳になってますがね 」

『 乙女座、ははっ!確かに乙女座だわ 』

ケラケラと笑う颯さんにこのビールは直ぐに笑い上戸になるのかと疑問になるが、きっと素直に面白がってくれてるんだと解釈する

「 颯さんは、何座なんですか? 」

『 ん?俺な....自分のまともな誕生日知らないんだよ 』

「 えっ? 」

誕生日を知らない?
それってどういう事なんだろって傾げれば彼は目線を外しやって来た肉の皿を手元に置き、牛タンを並べて焼きながら告げる

『 陽妃が生まれた日の事はよく覚えている。親がいなくても毎年誕生日を祝った....だけど俺は誕生日なんて祝われた事ないから分からないんだ.... 』

産まれて直ぐに孤児へと預けられたと言う颯さんの言葉に驚くも彼はそれを引き飛ばすように優しげに笑った

『 陽は、春生まれ....だから俺は秋生まれにしてる。射手座辺りにな。冬にもなりきれない中途半端な秋さ 』

「 颯さんは秋っぽいですよ 」

『 そうか? 』

「 えぇ、冷たい雰囲気を持ち合わせてるけど暖かい。それに食欲大勢なので 」

『 ふはっ、そうな。当たってるかも 』

よく食べて飲んで、そして笑ってる
冬のような冷たさは無くても時より見せるクールなイメージや其でも紅葉のような可愛らしさもある

「 頬を赤くした時は紅葉ですね 」

『 なっ、メイク薄かったか.... 』

「 十分濃いです。のけましょ 」

『 ....後な、後。其より食えよ、焼いたんだから 』

「 あ、ありがとうございます。颯さん見てたら手元見てなかっです 」

『 なんだそれ 』

見る事が出来なかった歳月を埋めるようにじっと見てしまう俺は、やっぱり彼の持ち合わせてる柔らかな動作や口調は悪いが声は柔らかみのあり優しい感じが好きだと思う

『 それと、そろそろ敬語やめろよ。御前らしくいてくれりゃいい  』

「 ....好きな相手の前では優しさを気取りたいんです。タメなんて、優しさないだろ? 」

『 ....どっちでもいいわ 』

「 そう?分かったよ 」

なんだ、敬語が嫌だったんだなと思って笑えば彼は笑みを浮かべお肉を口へと運ぶ

『 うん、うまい.... 』

「 それは良かった 」

やっと此処で食べて貰った肉の感想を聞けたと嬉しくなる俺は、ゆっくりと食べていけば目の前の颯さんはご飯を片手に手を離す事なく肉はツマミみたいになっていた

「 颯さんって....大食いですか? 」

『 んや?男なら普通だろ? 』

「 ....追加注文します 」

『 ご飯大も 』

そう言えば、俺がバイトしてた時も4人で来た筈なのに何故か10人前以上の会計だった事を思い出す

胃を気にしてた本人、
見てる俺の方が胃が心配になってきた


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