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しおりを挟む黒いスーツに身を包み、踵の高い革靴を履き、顔の上部が隠れる程度の黒い仮面をつける。
「 さて、ショータイムだ 」
口角を上げ、控え室を出た。
今夜も始まる
月二度…不定期に開催される闇オークション。
娯楽にのめり込み、生半可な刺激だけでは足りなくなった、溢れる財を持つ大富豪達の戯れ
「 今宵も、良い品を数多く揃えました!気に入る一品が現れる事を願ってます…。さぁ~開催致しましょう! 」
モニターしかない部屋で、直接見ることも無い大富豪達に向け、貼り付けた笑顔を向ける。
「 いや、っ…あ"ぁっ…!! 」
「 最初の品は、美しい美少年。その幼き身体に似合わず、絶頂する姿は正に芸術品。お好きに調教して下さいな 」
人間を、人間とも思ってない連中は、若い少年がディルドや大人の男達によって玩ばれる姿を見ては、それに価値を付けていく。
徐々に値段は上がり、最後に止まった金額を告げる。
「 3800万でよろしいので?109番のお客様に、落札が決まりました!おめでとうございます!! 」
俺の役目は、そんな人権も無い商品を売っていくだけの、" オークショニア "
直接手を出す事も無ければ、滅多な事で触れるわけでもない。
只、同じ部屋に居るだけの、司会進行役。
だからこそ、商品に対しての感情は何一つ持ち合わせては無かった。
「 今宵準備いたしました。30品は全て完売致しました。各自、落札金額の半分の値を、現金として頂きたいと思います。残り半分は支払い有効期限までに振り込みをお願い致します。では…次回会う日を楽しみに…。良い夜をお過ごしくださいませ 」
目の前には誰もいないが、モニターの奥には世界各国の大富豪が存在する。
各自、近くに金を持った使用人を配置してるだろうが、俺には関係ない話。
仕事を終え、その部屋を出て行くと溜め息を漏らし、上着を脱ぐ。
「 今日の売り上げはまぁまぁだ。大した額にならない商品ばかりでつまらん… 」
顔や体格が良いだけでは、嗜好が壊れた連中には刺さらない。
寧ろ、特殊な者の方が高い値がつく。
「 闇彌さん。お疲れ様です。帰宅ですか? 」
此処での苗字が呼ばれ、振り返ると商品の価値を見出す為だけの若い男のスタッフは、声を掛けてきた。
「 嗚呼、すぐに帰る。予定も無いしな 」
「 えーそうなんですかぁ。残念だなぁ、これからBARでも如何かなって思ったのに 」
「 悪いが、他を当たってくれ。俺は、表の仕事もあるんだ。付き合いきれ無い 」
「 あー…掛け持ちしてると大変っすね。じゃ諦めます。頑張ってください 」
奢って欲しいだけだろ…と、言いかけた言葉は口には出さず、軽く返事をしては、スタッフ用の更衣室へと向かう。
そこで、別の服へと着替え直し、ビジネスカバンから取り出した香水を持ち、シャツ中に手を入れ、腹部に吹き掛け、蓋を閉めカバンに直し入れる。
「 同じ部屋に居るから…体液の匂いがする…。はぁ、仕方無い 」
あの部屋に数時間いる以上、仕方ない事だが…
気分が良いものでもない。
だが、其れなりに長く此の仕事をしてるから、諦めるも早い。
荷物を持ち歩き出し、電源を切っていたスマホを起動させると、通知が入っていた。
「 今日の収入は…1億8000万か。少ないな… 」
全体的の売り上げが悪かった為に、仕方ない事だが…。
もう少し、稼ぎが無ければ割りに合わないだろう。
肉体的では無く、精神的に。
新人の奴には、鬱やトラウマになって入院する奴も居るぐらい、平常心の奴には向かない職だろう。
だからこそ、給料が良く無くては困る。
銀行振込の内容を確認した後、他の連絡等を確認し終えては、その場を立ち去った。
地下駐車場に駐めていた愛車に乗り込み、バックミラーを使い、少しだけ髪型を変える。
助手席にあるグローブボックスを開き、四角い黒い箱を取り出し、開く。
中に入っている義眼を眺め、左側に着けていた黒い眼帯を外しては、瞳に埋め込む。
数回瞬きをし、もう一度バックミラーに視線を向けると、同じ色をした両眼は違和感を持たない。
箱を元に戻し、ドリンクホルダーに雑に入れていた結婚指輪を薬指に嵌め、エンジンを掛ける。
「 一旦帰りたいが、直接行った方がいいな… 」
ポツリと呟き、車を走らせる。
30分程走った先にある、白い建物。
そこの関係者用の、裏通路から中へと入ると
夜勤の者は、挨拶をしてきた。
「 こんばんは。白鷺先生。あれ…夜勤でしたっけ? 」
「 こんばんは。いいえ、上から待機を命じられたので、予備医として来ただけです。それまで、仮眠室で休ませて貰いますよ 」
「 えぇ、白鷺先生が予備医なんて贅沢な…。百人力ですね!御苦労さまです 」
「 いえいえ、何かあれば…連絡下さいね 」
そんな訳あるか、と言いたいが…
この場を穏便に済ませる為に、口先から出た嘘を告げ、夜間看護師との会話を終えては、仮眠室へと向かった。
家に帰ると、仕事に行きたくなくなる理由があるから、裏の仕事を終えた後は直接こっちに来てるだけに過ぎない。
自身の所属する、外科の病棟に設置している仮眠室へと入り、無駄に性能のいいベッドに横たわっては、ポケットから取り出したスマホを眺め、待受画面の獣を眺める。
「 良い子でお留守番してるだろうか…。まぁ何かあれば連絡が来るだろ… 」
ペット用カメラも設置してるし、玄関には防犯用ブザーもある。
寧ろ、一般はエントランスに入る事すら間々ならない防犯設備故に、外部からの侵入には問題無い。
「 さて、寝るか………ん? 」
朝から、通常勤務があるから寝てしまおう。
そう思った矢先に、電話が掛かってきたからスライドして受話器を取り、耳に寄せる。
「 どうした? 」
静かに問い掛けると、声の主は鈴の様な愛らしい声で、小さく答えた。
" おなか、すいた…… "
「 腹減ったのか。飯食ってないのか? 」
" ん…… "
「 準備してたはずだけど…。冷蔵庫に無いか? 」
左手に着けた腕時計に視線を落とし、現在の時刻が深夜2時を過ぎてる事に、一旦寝た後に起きたらお腹空いてました。パターンなのは安易に想像がつく。
" んー………ん? "
「 …分かった。すぐに戻るから、待っていて 」
" あい…… "
返事をした相手は、俺より先に通話を切った為に、横たわっていた身体を起こし、仮眠室を出た。
「 おや、白鷺先生…お帰りですか? 」
「 急用が出来た。朝には戻るよ 」
「 あー…お疲れ様です… 」
一階に戻ると先程の夜間看護師に会った為に、早歩きで答えては駐車場に戻る。
車内に入り、薬指に着けていた結婚指輪を抜き取り、ドリンクホルダーに投げ置いては、車を走らせた。
この病院から、更に15分程のタワーマンションに辿り着き、立体駐車場に駐めてから、エントランスに入り、セキュリティーを解除し、
エレベーターに乗り込み、最上階へと行く。
カードキーと虹彩認証で、玄関のロックを解除しては中へと入り、俺を呼んだ人物が居るであろう、リビングへと脚を向ける。
「 リリィ…。腹が減ったなら……って… 」
「 おかえりー……シロ 」
目の前の光景に、呆然としては気持ち落ち着かせる為に額に手を当て、深呼吸をした。
本来なら、肌も髪も真っ白な女がいるはずなのに、
彼女の口元や両手、服や床を含め、焦げ茶色に染まっていたんだ。
「 た•だ•い•ま………。聞いていいか、リリィ 」
「 んぅー? 」
右眼に眼帯を着けた女は、宝石の様な青い瞳を俺に向け、首を傾げた。
「 チョコクリーム"だけ"を食べたんだな? 」
「 うん、そう…!シロが…いつも、つくってくれる、ケーキが…食べたくなってね。でも…上手くつくれなかったの 」
「 作れなかった…?はっ……!! 」
彼女の言葉に違和感を覚え、咄嗟にカウンターキッチンの方へと行くと、キッチン周りは言葉通りに散乱していた。
「 ……リリィ、作ろうとした気持ちは凄く褒めたい。褒めたいが…俺が帰って来るまで、待てなかったか? 」
ソファから降りて歩いて来た彼女は、肩を落としてる俺の横に来ては、その辺に溢れてるチョコレートのシロップを指先で掬い取り、頬へと押し付けてきた。
「 まてなかった…… 」
彼女へと視線を向けると、その瞳は俺を見詰め、義眼を埋めている目尻をなぞる。
「 食べたくなった… 」
「 そうか…… 」
軽く指先に顔を擦り寄せ、彼女の口元に付いたチョコクリームを舐め取っては、其の華奢な腰を掴み、キッチンの上に座らせた。
「 なら、良い子はそこで待っていて。片付けたら作るから 」
「 はーい 」
悪戯っ子の様な返事をしたリリィは、俺が落ちてる物を拾うと、手元に当たったガラスのコップを見るなり、軽く手を振ってそれを落とした。
砕けたガラスコップに視線を向けた後、彼女を見ると、その姿はいつの間にかヒョウのように大きく、メインクーンの様にロン毛の真っ白なネコ科の猛獣に変わっている。
「 リリィ……片付けを増やさないでくれないか? 」
「 ニァ~ 」
じっとするなんてことの出来ない猫は、俺が怒ったことを察しては、チョコクリームでベトベトの両手で、床を歩いていく。
「 くっ………落ち着け、俺。これに悶ているから、躾が出来ないんだ… 」
脳では、分かっているが…。
本能が理性をかき消し、片付けを放棄しては床についた肉球を写真を取り、ソファの上で毛繕いを始めた猫を、身体を傾けたり、床に倒れた状態で写真を撮りまくっていた、
「 はっ!!こんな事してる時間ないんだ!! 」
10分ぐらいの撮影会を終えては、片付けを急ぐ。
1時間かけて掃除を終え、30分かけて彼女を洗い、更にそこから2時間かけ、チョコケーキを作った。
「 ふふん、おいしぃー… 」
「 そろそろ…6時になるんだが………。俺は、シャワーを浴びて、仕事に行く準備をするからな… 」
「 うん?行ってらっしゃい 」
他人事の様にひらっと黒い手を振った彼女を見て、可愛いって罪だなって思う。
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