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しおりを挟む彼女…
リリィと出会ったのは6年前。
いつものように闇オークションに売られる商品が届く中で、何処か見覚えのある男が、ボロボロの見窄らしい姿をした女を連れてきた。
その女は、使用人が押す車椅子に乗っていた。
「 如何なさいました? 」
「 なに。コレを買い取って欲しい 」
「 コレ…ですか? 」
男の横にいる女に視線を落とすと、両眼には包帯が巻き、喉や腕、脚にも包帯が巻かれていた。
外見に、暴行をされた傷はないが…
その女には" 生気 "が感じられないことに違和感を覚える。
「 どう云った経由で此方に? 」
見覚えの無い色素の薄い肌や銀髪の女。
過去に、出品履歴があるのだろうと調べるべく問うと、男は笑って答えた。
「 喰える所はほとんど喰ったから、中身が無くてな 」
「「 ………!! 」」
「 飯の価値が無くなったから連れてきたんだ。外見は多少いいから、物好きは買うんじゃないか? 」
その場にいた、俺以外のスタッフは手を止める程に、男の言葉に驚きと戸惑いが隠せなかった。
俺もまた、反吐が出そうな気分だったが
仕事上の仮面は壊さないよう、冷静に言葉を告げる。
「 なるほど…。では、破棄する予定の商品という事で……、宜しいですね? 」
「 嗚呼、そういう事でいい 」
「 畏まりました。では、此方で商品の品質チェックを次第、買取金額を提示させて頂きますので、控え室の方でお待ちください 」
「 分かった 」
男は使用人と共に、他のスタッフに案内され、
その場を立ち去った。
俺は、車椅子に乗った女を眺めては、近付いてきたスタッフの言葉に返事を返す。
「 一緒に検査しましょうか? 」
「 いえ、華奢な女一人なので…俺一人で行おう。2番ルームを借りる 」
「 了解です 」
その日の内に、数人が売られることもある為に、検査部屋はいくつか設置していた。
その中でも特に、医療器具の揃った部屋へと、車椅子を押して連れて行く。
部屋の明かりをつけ、扉を閉めては、彼女の前に、しゃがみ込む。
「 金属類が無いか、確認する為に…服を脱がせます 」
俺の問い掛けに、彼女が返事をする事は無かった。
色んな商品を見てきた為に、他の連中より免疫はついてるから、どんな者でも問題ないはず。
そう思い、小さく息を吐いては、そっと着ていた服に手を掛け、釦を一つずつ外していく。
「 ……は? 」
この当時、まだ医大生だった俺にも…
一目見ただけで、その身体に違和感を覚えた。
身体のあちこちが雑に縫い合わされ、女でありながら胸は無く、肋骨の膨らみも無い。
何より…肩から服を下げた事で、あの男の言葉の意味を理解した。
「 ……肢体諸共…喰われたのか 」
見た目は、頭と胴体は存在するが、
膝から下、脚の付け根からは…全て存在しなかった。
臍下にある縫い傷を見て子宮がない事も、片方の肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸等の臓器を始め、
骨も感覚を開けて抜き取られてる部分はあった。
生きているのが奇跡とも言えるのは、この女を連れてきた…
あの男が、有名な外科医だからだろう。
見覚えがあるのもそのはず…
何度か、講義で見た事があるし、医学生の中でも度々会話に出る。
人間が生きれる、最低限の機能についての話を含め、論文を書いていたが…。
「 今思うと胸糞悪いな…。目の前に…それを試せる実験体があったと言うことだろ… 」
何人の人間が犠牲になったかは知らない。
ここの会場を知ってる時点で、安く商品を買って試しては殺していたのかも知れない。
それは俺等が深く調べる事はしないが、それでも…。
少しでも外科医としての腕を褒めてしまった、医学生の俺を殴りたいと思った。
「 どうせ…直ぐに死ぬと分かってるからこんなに雑に縫ってるのか…?ふざけんな…人間を、生きてる者を…なんだと思っているんだ…。これだから…上級階級の奴等は…嫌いなんだ… 」
拳を握り締め、彼女の前で自分の無能な部分を痛感する。
「 はぁー……そうか。君…医者の玩具にされて生きて来たなら…。もう少し俺に、玩具にされないか? 」
気持ちを落ち着かせ、そっと彼女の頬に触れると人肌とも思えない冷たい頬をなぞり、見詰める。
「 俺が買ってやる。医大生だから大した額は払えないが…それでも、君が笑って走る姿を見たいんだ。この先の人生が…今の生地獄より苦痛かも知れないが…。それでも…俺と一緒に生きよう 」
「 ………… 」
それまで無反応だった女は、ほんの僅かに唇を動かした。
声帯は切られ、悲鳴を上げる事を防止した様なもので、彼女の声は羽音程度しか聞こえないが、
それでも、何かを言いかけたのは分かる。
医者であった両親に言い訳をし、8000万の借金をして彼女を購入した。
病院が休みの日に、医療器具を借りて研究すると言う理由で、別宅に彼女を連れて帰り、
そして俺は…医学生でありながら、手術を行った。
最初は失った臓器や骨を全て人工物へと交換し、彼女が馴染んで、後遺症も無く使える様になってから、
手足の神経と繋げる事で、精密に動く義足を取り付けた。
「 そう、君の指だ。動くだろう? 」
「 ………! 」
最初から、彼女が肢体が無い訳では無い。
あったからこそ、物が掴める様な感覚に、
驚く素振りを見せた。
雑な縫われ方をした部分は、整形縫いで整え直し、移植やらを繰り返し皮膚に残っていた縫い痕を消していく。
2年以上包帯を巻きつけていた彼女に、最後に与えたのは、俺の左眼を含む…角膜だ。
「 ……!! 」
「 俺が分かるか?リリィ 」
血液型を含め、色々奇跡的に一致していたから、眼球移植で与えることが出来た。
包帯を外し、少し明かりを落とした部屋で問い掛けると、彼女は何度か瞬きをしては、俺を見詰める。
「 ずっと声だけだったもんな。どうだ?俺は、君のイメージ通りの… 」
いつも俺から話しかけて、彼女から触れてくることは無かった。
だが、その時は…確かめる様に、無機物の両手を動かして、頬に触れる。
まだ喉は直してないし、心の傷のせいで言葉は発する事は出来ないが、それでも何を言いたいのか、察すことは出来る。
「 此処まで…3年半掛かった…。待たせたな…リリィ 」
もう一度、光を見るのがどれだけ楽しいか。
リリィは前よりずっと好奇心が増えた。
仕事をしながらリリィの治療とリハビリを繰り返していく。
義足を上手く使える様になるには半年もかからず、彼女は覚束ない足取りながら、歩けるようになった。
「 ……… 」
赤子が親を求めるように、少し両手を前にして、
一歩一歩慎重に歩く様子に、手を貸したいのをぐっと我慢して待っていると、彼女は俺の前まで来た瞬間によろけた。
反射的に抱き止め、少し驚いてる顔の彼女が見上げてくると、俺は笑顔で笑って抱き締める。
「 凄いな!リリィ、よく歩けるようになったじゃないか! 」
いつか死ぬかもしれない…。
いや、いつも治療の最中に苦痛に耐え切れず、
麻酔から目を覚ますこともなく、死んでもおかしくなかった。
其れでも、彼女は弱音やら泣いたりする事なく、
俺の期待に答えるように頑張ってくれていたんだ。
それを知っているから、日々の成長が嬉しい。
「 リリィって百合の花から名付けたんだ。真っ白で…綺麗だろ?因みに俺の苗字は、白鷺って言って…白い鳥に由来したものなんだが… 」
「 し……ろ… 」
「 そう、白……へ?? 」
花の図鑑を見せながら、彼女に一方的に話しかけていると、鈴の様な声が聞こえ、驚いて顔を見せると、もう一度俺の顔を見て、頬に触れては告げた。
「 しぃ、ろぉ……し……ろ…… 」
「 ッ……嗚呼、リリィと同じ…白だよ 」
もしかしたら…。
臓器が動いた瞬間より、初めて指先か動いた時や俺の顔を見た時よりも…。
一言声を発してくれた…
この時の方が、嬉しかったかも知れない。
彼女の事で、初めて涙を流してしまうと、リリィは優しく頬を撫でては、俺がいつもするように首へと腕を回し、抱き締めてきた。
「 しろ……だい、じょー…ぶ? 」
「 あぁ、大丈夫さ……。ただ、君の声が…聞けたことが、嬉しかったんだ…… 」
その日を境に、俺は病院から近い家から引っ越し、後々に暮らし始めたタワマンの最上階へと移動した。
此処まで、贅沢が出来る様になったのは…
ほんの1年程度。
それでもまだ、色んな研究者や両親に借りていた金を返しきれてないから、しっかりと働かなくてはならないけどな。
「 リリィ…行ってくるよ 」
「 んー……いって、らっしゃい… 」
6年の月日を得ても、彼女はまだ外には出れない。
気温変化に弱く、体温調節も出来ないし、紫外線にも弱い。
そして何より、菌に対する免疫力も無いために、俺は病院から持ち込まないように気をつけているんだ。
チョコケーキを頬張ってる彼女の背後からそっと抱き締めて、髪へと口付けを落とす。
「 しろ……かえってくる…? 」
「 嗚呼、19時頃には帰ってくるよ。それまで良い子で待っていてな 」
「 ん……… 」
リリィには、一つだけ無い臓器が存在する。
それは、俺の技術では…到底成功するとは思えなかったし、
無い方が…彼女の為であると思ったからだ。
でも…本当は、リリィが望むなら与えてもいいと思っているんだ。
その日が来るかは…
分からないが…。
「 愛してるよ、リリィ。行ってきます 」
「 わたしも……いって、らっしゃい 」
傍から見れば、俺は精密に作られたツギハギドールの愛好家。
独身で有りながら女を求めないのは、
自宅にアイドールがいるから…。
そんな噂すらされているが、気にはならない。
俺が彼女を愛して、リリィもまた俺を愛してくれるなら、それだけでいい。
現に、人でも…猫でも、どちらでも愛おしいのだから…。
リリィの為に、稼がなくては……。
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