女王蜂転生〜 色彩の書 〜

獅月 クロ

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別ルート

十二話 生まれながらにして働き蜂

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使用人くんに、ワンラウンドの交尾を見せてしまったのは申し訳無い
でも、中途半端に止めろって言う方が無理だし、なんやかんやでネイビーは二人目を孕んで御機嫌だし、いいんじゃないか?許してくれ!うん!

俺はやっぱり好きなやつ……なんて思うが、
性欲と本能に勝てなくなってきてるのは実感する
まだ、交尾の物足りなさにどうすればいいか考えながら部屋へと来れば、いつものピクニック用のカゴに入れていた卵は僅かに左右に揺れている

『 おぉ!もうすぐ、生まれそうだ! 』

「 そんなに嬉しいか? 」

『 そりゃ初めての子だし、卵からなんて可愛いじゃないか 』

人間や動物の赤ちゃんはおぎゃー!なんて生まれてくるが、これはもう一回楽しみがある
インコや鶏の卵よりはデカい、ダチョウの卵ぐらいだが、どんな子なのか疑問に思い
一緒にしゃがんで、テーブルと視線の高さを同じになり覗き込むように見つめるネイビーの横顔を見る

「 可愛いかは分からないが……俺の姿を想像するなよ。絶対に違うだろ 」

『 ……そうなのか? 』

「 当たり前だろ。増産型じゃ無いなら…姿は違う 」

他の奴の子は増産型って認めてるんだな
それにしても、姿が違うなら尚更、どんな格好をしてるのか気になる

『 そっか……どんな子かな…… 』

「 生まれる子すら気になるなんて、変わってるな。クロエは……交尾には興味あっても子には興味を示さなかったぞ 」

『 俺は交尾より、子供だから…… 』

クロエがどんな女王蜂なのかは知らない
長く女王蜂だった、彼女に比べたら俺は変わり者の女王蜂と言われるがそれでも良いじゃないか

俺は、俺のやり方で受け取らないだろうが愛情を向けたい

「 ……そうか、交尾より、子供か…… 」

『 ん? 』

「 ……いや、ほら…ヒビが入ってきてるぞ 」

『 わっ……がんばれっ 』
 
感動して大きな声を出すことは出来ないが、それでも小さな声で応援すれば卵の上からと思っていたが、真ん中から割れていく様子に中でどんな風に割ろうとしてるのか気になる

小刻みに小さなヒビが入っていき、パキッと音がする度に飛び散る殻
頑張れと思えば、何気無くネイビーの服を掴み力が入り彼は、此方を向いた後に卵へと視線を戻す

『 もう少し…… 』

全体的に割れ目が入り、卵は横向きになり上の部分を何度か押し上げ

そして……ついに、卵の殻を押し上げ中を蹴るように出てきた

『 ふぁっ……! 』

「 ほぅ…… 」

物事に感心が無いネイビーすら、どこか感動したような声を漏らした

「 クゥ~…… 」
 
濡れている黒い体毛、鷹のような顔は嘴が鋭くなりそうで、全身が露になれば、その背中にある二枚の羽とは別にある黄色い両手は鳥の脚ようだが、器用に動かせるみたい
後ろ足は猫のように瞬発力がありそうで、尻尾はオナガトリを思わせるほど長い
けれど、その頭に角らしきものが無いのを見ると魔王ランクでは無さそうだ

『 初めまして我が子……まずは身体を乾かさないとな 』

「 魔法の方が早いだろ 」

完全に卵から出たタイミングで、ネイビーは魔法によって雛の身体を乾かしていく
濡れていた毛並みは、鳥らしくは無く、ロングの猫のようにフカフカしてる

長い尻尾も乾けば、直ぐに歩き出そうとする様子に微笑ましくなる
ぱっちりと開いた赤い瞳は一生懸命に起きたがろうとすれば、自然と口角は上がり、俺より先にネイビーが応援し始めた

「 ほら、もう少し踏ん張れ。四本中、後ろの二本で立つのだろ…。あぁ…… 」

『 ふっ……子には興味ないんじゃ無かったけ? 』

「 ……これは別だ 」

なにが別なのかは分からないが、ネイビーも少しだけ子に興味を示した事に嬉しくなり、二人で小さな声で応援していれば、雛は歩き出した

『 おぉ……おめでとう! 』

「 案外…歩けるもんなんだな 」

成長速度はヒメウズラみたいだな
身体が乾けば歩きだせるようで、案外可愛い顔をしてる
将来、ハンサムボーイになりそうだなと思っていれば雛は此方を向き、俺の前へとやって来た

『 ん?なに? 』

顔をガン見してきて、嘴を動かす様子に傾げればネイビーは立ち上がる

「 飯だろ、此処からは他の世話役に任せないと御前は餌を取りに行けないだろ 」

『 えっ、じゃ……子育ては? 』

「 必要ない……わけではないが、やる奴がいるなら世話は任せろ。次の子からは、こいつが世話するだろ 」

『 こいつって、この子が? 』

「 嗚呼十六日もすれば立派な働き蜂だ 」

子育てする!なんて張り切ってたのが嘘のように砕け散った
それも、十六日程度で働き蜂になれるってどれだけ成長が早いんだ
確かに身体が乾いてから動いたり、歩いたりするのだが……ちょっとは赤ちゃんの世話もしたいんだが……

「 まぁ、働き蜂は急成長するが、生まれながらの魔王クラスならば遅いだろうから、そっちを世話すればいいだろ 」

『 ……成長速度って其々あるんだな 』

「 ……それで、コイツの名は?俺が名付けてもいいが、センスはないぞ 」

『 あ、そっか……名前……因みに候補は? 』

腹に入れておく時間も短かった、と言ってから急成長するタイプなのは納得できる
今回は世話の仕方を教えてもらう為に他の世話役に任せようと思った

それにしても名前か、父親であるネイビーの部下になるらしいが、話からすると“働き蜂“は衛兵にはならず、使用人やら世話役の立場になる

この子は、部下にはならないのか…とどこか安堵してこっちを見上げる雛とネイビーを交互に見れば彼は答えた

「 一号だ。腹のは二号と思っている 」

『 却下 』

「 ……だろうな 」

 なんだよ、我が子に一号とか二号って……
日本でも一郎とか言うけど流石に無いと首を振っては、俺が名付けることにする

「 これから多くの子が生まれるんだ。分かりやすくしてくれ。小難しい名前は覚えきれない 」

寧ろ、彼等なら忘れてしまうだろうな
増産型の魔物の名前なんて、簡単だろうが俺も覚えてない 

『 簡単な名前か……そうだな…… 』

全身黒色の毛並みをして、羽が生えて、オナガドリみたいな尻尾……
そして、目は赤く綺麗な宝石の色をしている

『 分かった……御前はルビーだ。宜しくな、ルビー 』

「 クゥ! 」

「 ルビーか…。悪くないんじゃないか、“ル“繋がりで 」

『 それは考えてなかった 』

は?といつものような返事をされそうになるぐらい、僅かに目を見開いたネイビーを他所に、俺は手を伸ばし首筋から頭を撫でればすり寄ってくる様子が可愛い

『 ルビー……凄く、可愛い……羽と目以外はネイビーだけど…… 』 

「 毛色も御前だろ。俺はもう少し青みかかっている 」

『 あ、そっか……まぁいいや。俺とネイビーの子にはかわりないし 』

「 御前と……俺の……子…… 」

おや、やっと意識したのだろうか?
ルビーを見た後に自らの腹に触れた彼はどこか考える素振りを見せたら、平然と告げた

「 当たり前だろ。他に女王蜂がいないからな 」

『 そう言うことじゃねぇよ…… 』

なんだよ、ちょっと期待したけどやっぱり恋愛系は考えてないのか!

愛情が無い雄ってなんて寂しいんだ!と一人心の中で叫んでは、ルビーを撫で回していた

「 御前が何を望むのか俺には分からない。恋愛…がしたいのか? 」

『 恋愛がしたい訳じゃない。愛情ってのが欲しくてな……悪かったな、飢えてて 』

食っても満たされない感覚によく似ている

望んでも手にはいることは無く、謝ることが二度と出来ない元彼を思い出しては、自分のやってる行動に胸は痛くなる

ルビーの餌を、他の者に任せた為にこの部屋には俺達だけになった

彼はじっと俺を見詰め、考えてる様子だがガン見されたまま考えられても困る

「 愛情ってなんだ? 」
 
『 愛情って言うのは……誰かを強く思う気持ちだ…… 』

自分で言うのが馬鹿げてるぐらいに、俺は何を言ってるのだろうか

そんなもの……彼等に無いのに……

「 俺は…御前を傷付けることはしない。傍にいたいと望む 」

『 繁殖の為だろ…… 』

「 否定しない。女王蜂と共に巣を大きくすることが俺達の役目だからな。俺からすれば……御前の方が、俺達に向ける愛情は無いんじゃないか? 」

『 !! 』

なにそれ……まるで、自分達の方が愛情を向けて欲しいみたいな言い方

散々、魔界の為、繁殖して欲しいと言うだけで俺自身には何一つ考えてないコイツ等に向ける愛情?

『 そんなの……有るわけ、ないだろ…… 』

俺には……彼等に向ける愛情は何一つ無かったんだと気付いた瞬間だった

「 ……知っている。御前は、本能で望んでないからな 」

なんでそんな悲しい顔をするのか分からない

泣いたときもそうだが、彼等の向ける愛情と俺の欲しがるものが違うことは知っていた
言葉に出来ない気持ちのすれ違いに気分が悪くなる 

『 もう良いじゃないか、二人目孕んでるんだから……部屋に戻って休む 』

「 ……嗚呼、おやすみ 」

孕ませる瞬間は本能が勝り、理性や無駄な考えは消え去る  
だからこそ、冷静になったときに好きでもない奴に孕ませてる自分を殺したくなる

女王蜂だからと割りきれたら、どれだけ楽なんだろうか……

「( ……胸の辺りが痛むのは、何故だ )」
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