女王蜂転生〜 色彩の書 〜

獅月 クロ

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別ルート

四十一話 言葉より先に

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王位継承の証を受け継いだ日

サタンの魔力、記憶、魔法を全て流し込まれた

まるで俺に渡したかったように、父親の記憶は余りにも邪魔な物となった
だが、苦手だった魔法を使えるようになったことで、俺は女王蜂の城とサタン城を一つの城へと造り変え
此処に住む者達が快適に暮らせるように部屋数やら物すら増やした

サタンの記憶で造った城よりも、遥かに現代的になった
また道が変わって迷子になる、そう文句を言う彼等も覚えれば静かになる

俺の国、まだ実感はわかないが此処から見る景色は女王蜂の玉座とは違って重苦しいものがある

『 ………… 』

「 随分と晴れない表情をしてるな 」

王の玉座ではなく、その下にある階段へと腰を下ろしてる俺に、ネイビーは一番下から此方へと見上げてきた

サタンになったことで、彼等に与える服装も変え、ネイビーの姿はボロい布ではなく、黒騎士のような姿へとなっていた

『 俺をサタンにしてよく言えるな。……御前がなれば良かったのに 』

「 言っただろ。俺は残り千年も生きない。御前のように三千年以上生きる者がサタンになる方が国は安定する 」

『 国の安定か…… 』

俺は彼等にとっては生まれたての魔物だろ
残りの寿命は遥かに多く、ネイビーが少しの期間だけサタンになるよりずっとマシだと言う

寿命で王座を決める、そんな事でいいのかと疑問になるが、もう俺がサタンである事には変わらない

「 嗚呼、魔界の為だ 」

『 魔界の為、か……もう、俺の、のは言ってはくれないんだな 』

ひねくれて重い奴みたいな言葉だな、と自分でも思う
敢えて国と強調した彼に、少しふてくし告げればネイビーの紺色の瞳は俺を写す

「 俺に…何を求めているんだ? 」

『 ……さぁな 』

求めたところでそれは気付いたときには失っている
サタンが死んだことに、彼等は心を痛めない
俺だけが、もう少し話したかったと後悔してる位に胸が痛む

「 ……心を彼奴(アラン)に与えたくせに。俺までも求めるのか?俺はもう、御前を諦めたと言うのに…… 」

『 諦めた……?へぇ、あーそうか…… 』

聞きたくないと耳を塞ぎたくなる
身体や血を求めてきたのに、単純に俺の身体が目当てなのか……

「 何が言いたい? 」

『 ……御前等、魔物は女王蜂の肉だけ欲しいんだろ。心なんていらないか 』

言いたくないのに口から出るのは皮肉だけ
ネイビーが向けてくれていた思いから、手を振り払ったのはこの俺自身なのに……

コイツのせいにしてる……

自分の性格の悪さに呆れる

「 そんなにサタンになりたく無かったのなら、何故断らなかったんだ! 」

『 御前が俺を指名したからだろうが!なんで俺にしたんだ。なんで他の奴じゃないんだ!! 』

立ち上がり唸るように怒鳴った声は、玉座の間に響く
ネイビーの瞳が僅かに揺れ動いた

「 御前以外がサタンになれば、御前を守るものはいなくなる。前サタンは御前の父であり、御前を愛していた。だから手を出すことは無かったが……もし、他の者がサタンになれば、御前は…その瞬間から性奴隷となっても可笑しくは無かった。俺はそんな御前を見たくもないし、そう告げる奴に従いたくもない 」

『 っ……じゃ、ネイビーが……サタンになればよかったじゃないか…… 』

「 俺がサタンになれば、御前を自分の物にしたくなる 」

権力を使い、俺を自分のものにしたい
そう告げるネイビーの言葉にやっと理解が出来た

諦めた…そう言った彼の本心は反対なんだ

本当は諦めたくない、なのに俺がアランを優先したから感情を押し殺し、サタンとしての権力を使うのを止め、只傍で守ることにしたのか

「 身体だけでも、俺と行為をしてくれるなら其でいい。俺は、御前の傍に居ることを幸せとだと思う 」

女王蜂の肉が欲しい訳じゃ無かったのか
そんなの……今更、知ってもサタンと部下から代わることなんて出来ないのに……

『 遅いんだよ……何もかも、遅いんだ…… 』

「 嗚呼、もう…全て遅いな。御前は婚約し彼奴を夫として選ぶと良い。クロエがそうしたように、俺達は孕む為の只の雄だ 」

好意がないのは俺の方か……

いつしか聞いた言葉が頭に過り、あの日のようにネイビーの表情は悲しげであり、口調共に冷めていた

雄として、そこに“彼“と言う固定の者はいない
この魔界に住む雄の一匹として告げた言葉は、俺に対する壁を造ったようにもみえた

吐き気がするほどに、胸が締め付けられる

『 もういい……下がれ 』

「 我が主の御命令のままに……失礼します 」

深々と頭を下げた彼は、ひらっと黒いマントを靡かせその場を立ち去った

誰も居なくなった玉座の間は、冷たく凍り付くようにただ寒かった

「 サタン様、この人間をどうしましょう? 」

「 妻だけでも助けてくれ……道を間違えただけだ!魔界に入るつもりはなかった!!本当だ! 」

「 貴方……どうかサタン様。嘘では御座いません 」

女王蜂と違い、サタンは裁判も行う

国への不法侵入者、戦の相手、サタンとしての立場を狙ってきた者への処分 

俺はあの日を境に“ 慈悲 “すら与えることの無い、冷血非道なサタンになる事にした

『 ……殺せ 』

「「 御意 」」

「「 !!! 」」

話を聞けば商人が道を間違え程度、殺すこともなく人間界に返せば良かったのだが
そんな手間すら面倒で、手を振り下ろした時には二人の衛兵は彼等の首を刎ねた

涙で濡れた醜い顔は、俺を睨み恨んでいた
それでいい……それがサタンだろ

『 アラン、ジャックはまだ目を覚まさないのか 』

「 ……はい。傷が深いので 」

『 御前と言う医師がいながら、まだ子供一人助けることが出来ないなんてな 』

アランの背後で夫婦が残した血痕を拭く者がいるなかで、コイツを呼び来させたのは俺だ
サタンになり、好き勝手に動けなくなった為に話があるならいちいち玉座の間に来させなきゃならない

この玉座から見下げる、彼との距離は余りにも遠く見える

片膝を付き、頭を下げているアランに向ける言葉は冷たく感情がない
彼が一生懸命に世話をしてることは想像出来るのに、俺が褒めることは無い

『 ……“ この世 “から、二人とも去るか? 』

「 なっ……!なんで、そんな話になる、んですか!? 」

ポツリと呟いた言葉に、頭を下げていたアランの顔は上がり、俺を見上げる瞳は焦りが交じる

『 今の俺なら、人間界に御前とあの餓鬼を戻すことは出来る。魔界が合わないのだろ?だから、選択肢を与えてるだけだ。此処に残るか、人間界に行くか……どちらがいい? 』

裁判後だった為に、此処にはネイビーやハクすらいる
彼等はアランの選択を待つように、視線を向けていれば此方を向いていた彼の瞳は揺らぎ、鼻先を赤く染め涙を流した

「 君は、なんて酷いんだ……。俺が、君の元から離れることが出来ないのに……そんな事を言うなんて…… 」

『 御前が前サタンと交わした契約は、破棄出来る。俺を守る必要もない 』 

「 そうじゃない……!そんな契約どうでもいい、俺が言いたいのは…… 」

きっと、俺の存在がアランを苦しめているのだろう
それなもう、俺の元にいない方がコイツの為になると思ったのに……それを拒むのか

『 俺はもう、御前を愛してはない 』

「 !! 」

魔物として堕落するのならば、どこまでも堕ちて行こう

その方が、俺には合っている……

告げた言葉に、もう一つ付け足した

この国で必要な、生きる為の条件だ

『 二人目を産む気がない雄は必要ない。よって、御前を人間界に追放する 』

「「 !! 」」

御前は魔界には似合わなかった
この世界に馴染むことが出来なかったアランをずっと置いておく事は出来やしない
 
サタンが与えてくれた魔法が使える今、俺は彼を助けることが出来る

誰もが驚く中で、俺は片手を前に向け魔方陣を発動させた
紫色に光る、その魔方陣を見たアランの表情は涙で濡れ声を上げ、俺に向け片手を伸ばした

「 待って!やだよ、俺は君がいないと生きていけないの!!なんで、いつも話をせず置いていくの!!ルイ、ルイ!!! 」

『 サヨナラ……アラン。もう二度と、御前は魔界に堕天することはない 』

“ 別れましょう “

あの日のように、もう二度と会うことが無いように

俺と御前は、合わなかったんだ

出会うべきでは無かった

だから……永久にサヨナラをしよう

俺は魔王、そして御前は人間だ

『 もし、次に生まれ変わった時は……別れるべき相手では無ければいいな…… 』

「 やだよ……瑠衣!!! 」

俺は最後まで、御前に嫌われることを望んだのに

御前は最後まで、俺を愛してくれたんだな

紫色の光が消えたとき、アランの姿は目の前には無かった

そして膨大な魔力を失ったと同時に、俺の意識は其処で途切れた

「( そんな……こんなの、あんまりだよ…… )」

アランが失ったのは魔力
けれど、魔物としての命はそのままの為に
彼は人間界で三千年近くを生きることになる

只、簡単には死ぬことが出来ない身体のまま
一人で死に行く者を見ていくだけの傍観者となった

サタンが与えたのは、人間界への片道切符と、
彼の心を奪ったことによる“呪い“だ

『 やらかした、ジャックを送ることを忘れていた…… 』

「 魔力が戻り次第、考えましょう。貴方は馬鹿をしましたね……命を削って魔力を使うなんて 」

『 短命上等。御前等と同じさ 』

永く生きるつもりはない、だからいいんだ

この世に生きると選択したのなら
この世で生きる者達も同じ時間のみ
生きていればいい

俺の残り時間は千年も無い
 
その間に、次の雌を産ませなければな
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