女王蜂転生〜 色彩の書 〜

獅月 クロ

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別ルート

四十三話 最終話

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此の世界で生きていく為に、俺は“人間性“を捨て
愛する者から離れ、一人の魔王と生涯を共にする約束を交わす

「 ……殺そうと思ってたけど、あんたって哀れだね 」

『 片目の無い奴には言われたくないな 』

「 この片目より哀れだよ 」

俺の髪を解く働き蜂の使用人の横で、サイドテーブルに腰を掛け、手に持っているネックレスを触るジャックは、前髪の半分を伸ばし、右目が見えなくした髪型へと変え、髪型はどこか彼奴の髪を伸ばした時に見える

此処に来たときよりも美形になって…
本当、コイツを見てると重ねてしまう

『 好きに言えばいい 』

今日はネイビーと結婚式を挙げる日

魔界の結婚式は人間界とは違って白く派手な印象はなく、どちらかと言えば“契約“に似ている
契りを交わし互いの血を交換する、そんな契約だからこそ見に来る者は少なくこの城にいる、幹部と一部の者のみ
それでいい、多くの者に見られたくもないからな

「 …ボクはどちらかと言えばあのそっくりさんと仲良くなって欲しかったよ 」

『 何故だ? 』

宝石が施されたシルバーのティアラに、黒いベールが付けられた俺は薄く透ける程度のベールからジャックを見れば、彼は俺の放置していたネックレスを自らの首に掛け、リングへと触れた

「 なんとなく、理由は分からないけどさ 」

『 可笑しな奴だな 』

「 それはボクも思うよ 」

ふっと笑い、服の中へとネックレスを入れた彼から視線を外し鏡へと視線をやれば、着飾れた自分の姿は余りにもみっともない
目元は晴れ、唇は切れ、身体の所々に傷は残り、レースチョーカーをした首筋には何度も咬まれた痕が残る

他でもない、此れから夫となる者にされた傷だ

『 俺が、彼奴の妻になれば…御前の命の保証はない。其をやるから…逃げろよ 』

「 ……逃げないよ 」

『 は? 』

視線を落とし、宝物だと渡したネックレスを託して逃がすことを考えていて、其を承諾したのはジャック本人だ 
だが“ 逃げない “と言った彼の言葉に驚き視線をやれば、彼奴に良く似た表情で微笑んだ

「 気紛れでも助けてくれたあんたの傍に、ボクは居るよ。例え、十二回の拷問の後に殺されようが、それが運命だ 」

似すぎる程の言葉と容姿に、心は締め付けられ
黙っていることさえ出来ず、椅子から立ち上がりその身体へと抱き締めていた

『 っ……ジャック…… 』

「 強いフリして弱いよね。ボクが殺す必要ないぐらい、弱いのに無理するからだよ 」

勇者として魔物に捕らえられ、そして慈悲を与えただけで、忠犬のように気持ちを返してくれる
こんは俺に味方で居てくれる彼を、俺は守りたいと思った

『 ……それでも俺は、女王蜂だ。国の為にこの身を犠牲にすることなんて苦ではない 』

「 それが本心なら、いいけどさ 」

見透かすように青い瞳は俺を捉え、頬に触れる手はベールを動かし、僅かに顔を晒せば彼は頬へと口付けを落とす

『 !! 』

「 ……最後まで傍に居るよ。守ってくれたこの命、貴方に捧げる 」

だから、俺じゃない……そう言おうとしてもウィンクをしたように左目を閉じて笑ったジャックを見ればなにも言えなくなった

俺に必要な、守ってくれる存在は今はきっとジャックなんだろうな……
気持ち的にも彼が居てくれるだけで安心感がある

引きずる程に長い黒のゴシック衣装はまるで、繁殖場に行く時に着せられる服と良く似ている

雄を誘惑する為であり、この姿を美しく見せる為
俺自身のメリットなんてどこにもない
強いて言うなら、背中が開いてるから羽に圧迫感が無いだけだが、この羽も必要ないからな……
飛べないと実感すれば、この羽は重りでしかない

長い廊下を歩き、時より溜め息を漏らしていれば
目についた青年の姿に笑みは浮かぶ

『 見に来ないと思っていた 』

「 ……本当は、来たくは有りませんでした 」

『 そうだろうな 』

コイツの事だから何か言いたいのだろう
アランの一件があってから、言葉を交わすことが無かった青年は、目線を足元に落としてから俺を見詰めた

「 本当にネイビー様を選ぶのですか!?自分は…アラン様と共に過ごしていた、貴方の方が好きです! 」

『 ……もう彼奴はいないし、俺はネイビーを選んだ。シヴァ…これは俺が選んだ道なんだ 』

「 そんなの嘘に決まっている!アラン様と喧嘩して、離れてから貴方の笑顔は消えた。あんなに楽しそうに過ごしていたのに……… 」

意見を言う事が珍しい
イエスマンと思うほどに、聞いたことしか返事をしなかったシヴァが、今は自身の思いを俺に伝えている
こんなにもハッキリと言う奴だっただろうか
不器用に花を贈ってきたり、楽しげに笑って任務の報告をしていた彼は、今はいない

あの笑顔を奪ったのも……俺なんだ

『 全ては過去の話だ。此れからは、サタンとして…女王蜂として、この国の為に必要なネイビーと過ごすんだ。父さんのように…… 』

「 それは貴方の意思ですか?本心ですか?前のサタンと貴方は違うのに…何故、抗わないですか! 」 

今の俺は、逃げている
何もかも逃げて、死にたくないのに、さっさと死のうとしてる
女王蜂としての役割を破棄したくて、サタンとしての立場を捨てたくて仕方無い
でも、それが出来ないんだ……
出来ていればこんなことになってはない

『 シヴァ……それ以上言うなら、御前を地下牢にぶちこむぞ 』

「 構いません。此所でも、地下でも、貴方の笑顔が見れないのならば……自分は死んでもいい。どうぞ、気が済むのでしたら殺して下さい 」

その場で片膝をつき、頭を下げたシヴァの言葉に胸は張り裂けそうに傷んだ
 
好きです、と笑った笑顔は今はなく
俺に向ける思いは一途なのに呆れてるようにも思える
もう、誰の顔も言葉も嘘にしか聞こえない気がして
吐き気がする 

『 っ……御前に時間を使ってる暇はない。行くぞ 』
 
「「 はい 」」
 
使用人に声を掛け、シヴァの横を素通りすれば彼は奥歯を噛み締め立ち上がり、此方を向くことなく告げた

「 好きです、ルイ様! 」

『 !! 』

それはまるで、過去の俺に言ってるように聞こえ
鼻先は痛くなり、視界はぼやけた 
俺は一人だと思っていたが、そんな事は無かったんだ…

まだ、大丈夫……俺は歩いていける

「 ネイビー様を選びましたか 」

『 ……それが御前の望みだろう? 』

結婚式の会場である、玉座の間に繋がる扉の前で
最後まで変わることの無かった人物に笑ってしまう

「 えぇ、魔界の繁栄の為に一番魔力が強いもの同士が交じり合うこそが…私の望み 」

『 本当……清々しい程にブレないよな。そんな御前が、気に入ってるよ 』

「 ふふっ、それでは…皆が御待ちですので…… 」

片手を差し出せば、最後に付けられるブレスレットを嵌められ、それを見てから扉は彼によって開かれる
左右に立つ魔物達の前を歩いていき、玉座の前にある階段の前で待つネイビーの元に行く

「 流石、女王蜂……お美しい 」
 
「 なんと綺麗なんだ 」 

結婚しよう、そう笑った彼奴の顔が頭から離れる事が出来ない
忘れないとならない

子を守る為に強い雄が必要だからこそ、
ネイビーを敵にする訳にはいかない

それが俺と未熟な子供達の幸せだからこそ、

過去を振り払い、未来を歩む

「 一段と綺麗だな 」

『 ネイビーもな…… 』

彼の横に立てば、深くフードを被った魔物の使用人は黒く分厚い本を持ち、言葉を告げる

「 それでは、契りの義を執り行う 」

まるでガチョウが首を絞められたような声に笑いそうになり、クスリと笑った俺に目の前にいる使用人の口元は密かに口角を上げた

『( えっ? )』

笑った?使用人が?
いや、笑うものか……だが、なんとなく違和感を覚えながら、使用人が告げる言葉を聞いていれば

忘れていた、前世の記憶が甦る

“ ねぇ、瑠衣。俺の得意な事はなーんでしょ? “

“ えっ、なに?バスケ以外にあんの? “

“ あるよー、ちょっとハマってたら得意になってね “ 

“ 勿体ぶらずにいえよ “

“ ふふーん、俺ってね。声真似が得意なんだ!瑠衣の好きなキャラでもなーんでも、してあげるよ? “

“ あ、じゃ。新撰組の~ “
 
“ ゴメン嘘、そんなイケボは無理。どちらかと言えば独特な動物キャラとか “ 

ふっと、そんな事を思い出して
懐かしいと微笑んでいれば、目の前に立っていた使用人は本から視線を外し胸元から出した装飾をされたナイフを差し出す

「 それでは互いの薬指を切り、血を交わす契約を 」

『 ……痛そう 』

「 貸せ、俺からやってやる 」

『 ついでに俺の指も切って 』

「 嗚呼…… 」

気持ちが高ぶって手の平に剣が刺さった時とは違う
自分で切る勇気なんて無くて、ネイビーにナイフを渡せば彼は躊躇無く自らの薬指を切り、俺の手首を掴めば薬指へと刃物を当てた

痛そうだと視線を外して、一瞬目を閉じていれば、僅かな痛みを感じ、薬指から熱が伝わる

「 では、互いの血の交換を…… 」

「 ルイ。此からも御前を守り続ける 」

『 うん 』
 
俺は何も言えなかった
宜しくとも、ありがとうとも言えずに
只、御互いの手首を掴み薬指へと口元を寄せた

ネイビーのものになる……

初めて出会った日からつんけんしてたが、それでも優しくしてくれて気遣って、プレゼントすらセンスがない
誰よりも独占欲も嫉妬もあった……

夫として申し分無いのに……俺の心には、彼奴の顔が浮かぶ

あぁ、ほんと……彼奴は鬱陶しいよ
 
「 っ……なんのつもりだ? 」

気付いた時には手を振り払っていた

『 ごめん、ネイビー……やっぱり、俺は御前の妻にはなれない 』

「 俺を夫にしなければ、御前の身の保証は無いぞ 」

自分に嘘をつくには限界がある
目線の先を見ればルアナもジャックもいて、彼等を助けれなくなっても、俺はもう…嘘をつきたくはなかった

『 それでも、俺が愛してるのは…。この世で只一人、アラン・ド・ヴォルフ…だけなんだ! 』

仲間を作るのが上手くて、その先頭に立つことが似合う狼の階級である、トップの“ α “と呼ばれていたアラン 
唯一、αの傍にいることを許された前世の俺が懐かしく思うほどに彼奴のフルネームは牡牛なんてものよりも、ずっと格好いいものだった

『 身体はくれてやっても、心は彼奴だけと決めている 』

「 チッ、ふざけんな!この世に及んで戻ってこない奴の事なんて考えるのか! 」

自分で引き離したのに可笑しな話だと思うが
結局……アランの読みは当たっていたんだ

『 確かに俺が追放したが、俺はどうもアランが好きで仕方無いらしい。もし今此所で殺すのなら…俺は彼奴の元に行くだろう 』    
  
他でもない、彼奴の元に……

薬指から垂れる血が止まり、傷口がほんのり薄くなったことで痛みは薄れる
それと同時にハッキリ言った言葉にスッキリして、吐き気や胸の靄は晴れていく

「 ……この俺がどれだけ、愛してるのか知ってて彼奴を選ぶのか…… 」 

『 嗚呼、選ぶ 』

ネイビーの事は確かに好きだった 
好意を求めて、この世界の心の支えでもあった
だが、それは恋愛感情に似て全く違っていた

まるで兄を慕うように、兄のようなネイビーが好きで仕方無い
彼氏やら夫と考えたときに、一番はアランなんだ

『 ごめんな、ネイビー……俺はアランが好きだ 』
 
「 っ……! 」

揺らぐことの無い気持ちを真っ直ぐ向ければ、ネイビーは腰にぶら下げていた剣へと手を掛けた

その瞬間に聞こえてきたのは、あの時の声だ…… 

「( 母さん、後ろに避けて )」

『( んっ?なっ……!! )』

聞こえてきた声に反射的に後ろへと下がれば、白いマントは視界の端で揺れ動き

そして、背中に当たる感触と剣が重なる音が響く

『 えっ……? 』

「 いつまで聞いてんの父さん 」

「 いやー、二回フラれてるからね。その分、聞いてたくてさ 」

俺を抱く相手を見上げれば、ジャックは片手に剣を持ち
そして、先程まで進行をしていた使用人の声は聞き覚えがあり
深く被ったフードが外れれば、そこには金色に揺れる髪が見えた

「 チッ、戻ってきていたのか!! 」

「 うん、自害して堕落してきた。俺ってしつこいから、ごめんね?ジャック、母さんを頼むよ 」

「 はいよ、父さん 」

『 なっ、えっ?どういう…… 』

「 その話は後で、母さん。少しじっとしてて 」

『 っ!? 』

なんでアランが此処にいるんだ!?
人間界に追放した……って、てか、自害!?

意味が分からずパニックになった俺に、ジャックは当たり前のように母さんと呼び、そして軽々と荷物のように肩に担げば此処から離れるように後ろへと逃げた

「 くそ、そいつを離せ!! 」

「 おっと、ネイビー。それは出来ないね。君には挑みたいからさ 」

「 なにをだ!? 」

ネイビーが来ないように剣を動かし、前を防いだアランはその剣先を向けてはいけない、彼へと向けた

「 俺と勝負しよう。勝ったら、ルイを妻にする権利を貰うよ。この世界は強者こそ、全てでしょ?軍事責任者である君に拒否権はないよ 」

「 勝てると思っているのか。魔力も無い御前に…… 」

「 それはやってみなきゃ分からないし……言わなかったけ?俺、堕落してきたんだよ? 」

「「 !! 」」

何故アランの魔力が分からなかったのか

それは今やっと理解した

彼は剣を横へと振り払えば、その姿は真っ黒の烏のような羽を生やし、狼の尻尾に尖った耳を持つ“堕天使“へと姿を変えた

「 犬野郎……牛の方が可愛いげがあったが……いいだろう。小僧一匹程度、相手になってやる 」  

「 猫が何言ってるんだか…。俺、大切な人を守る為なら、容赦ないからね 」

堕天使とは言えど、堕落した時点で魔王階級になったアランと軍事責任者の魔王であるネイビーは互角だろう 
寧ろ経験豊富なネイビーに勝てるとは思えずに止めようと振り返ろうとすれば、ジャックは笑って剣を動かした

『 うわっ!? 』

「 口を閉じてないと舌を咬むよ~。ルアナ!いくよ! 」

「 あい!! 」

「「 レーヌアベイユを離せ!! 」」

グラッと動いたのはジャックが他の連中の攻撃を避けてるからなのかって……

俺を降ろせ!!俺を!!

いったい御前等は何がしたいんだ!と文句を言おうと思っても、舌を噛みそうで口を閉じた
大きなペガサスの姿になったルアナはこっちに来て、横へと来ればジャックは鬣を掴んでから背中へと跨がり、そして俺を前へと乗せれば走り出す

「 父さん!終わったら来てね!! 」

「 はーい!ちょっと離れててね 」

「 くそ、黙ってまともにやれ!! 」

「 やってるよー? 」

だから、説明しろ!!

窓を割り、外へと飛んでいくルアナは楽しげに笑って
後ろから飛んでくる衛兵達を見ればジャックは背後を振り向き告げる

「 やっぱり上空戦になるかぁ…… 」

『 御前、飛べるのか? 』 

「 飛べるよ。手術したの、誰だと思ってるの? 」

『 ……アランか? 』
 
「 そう、父さんは……僕に飛ぶための羽をくれたから 」

俺の手に鬣を掴ませた彼は、その場で立ち上がってから上着を脱いだ
背中が開いた、その背を見れば飛び降りると同時に大きな黒い翼は広がった

それは……前のアランが持っていたものだ

羽を広げ、剣を持ち衛兵達へと向かって上空戦をするなかで、城にある玉座の間から聞こえてくる破壊音と砂煙に驚く
 
いったい何をやらかしてるんだ?

そうルアナに聞こうとすれば、目の前に広がる城より離れることに焦る

『 まて、ルアナ!俺はこれ以上行けない!! 』

「「( 行けるよ )」」

『 へ? 』

頭に直接響くような声に驚いた
それは、遠くに離れているジャックとアランのものだ

「( 行ける。前のサタンとの契約は破棄されているって君が言ってたじゃん )」

「( 前を向いて、好きな所に行けるんだよ。母さん )」

『 俺は……飛べるのか…? 』

「「( 飛べるよ )」」

この世に止まる必要もないのか……

そうか、そうか………

『 なら、帰ろう。家に…… 』

「「( うん )」」

父さんが与えてくれたこの魔力と魔法は、
この先の未来を知ってたのかは分からないが

それでも俺は、力を使うことにした

『 俺と我が家族達の魔力と引き換えに、人間界へ…… 』
 
ハーレムの女王蜂もよかったが、

俺は魔界より人間界の方が好きだ

光が暗い世界を包み込み

誰もが眩しさに目を閉じれば

次に開いたときには、

そこは住んでいた魔界では無くなっていた

「 おかえり、瑠衣 」

『 っ……ただいま、アラン!! 』




~女王蜂転生 完結 ~

番外編  →
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