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一章 聖獣への道のり編
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しおりを挟む「 レナは生きてる? 」
『 ……そうだな、元気そうだった 』
「 良かった…… 」
小さい頃から見てるのなら、レナを家族だと言ったファルクの言葉の意味がやっと分かった
檻の中へと入り、近付く俺に気付き視線を向けた彼は安堵し、自らの太股へと手を当てる
其を見ては自然の動作で、横に倒れ太股へと顎を乗せ横たわれば彼は頭を撫でては爪で軽く掻く
それがまた心地良いと耳を下げ目を閉じていれば、優しげな声で話してくれた
「 レナは皆のお母さんみたいな存在で頭の母親…… 」
『 母親? 』
「 頭の父親が昔、この盗賊団の頭だったんだけどその母のパートナーがレナ。レナは母親みたいなもの。両親も亡くなってさ…。尚更、頭にとってレナは大切なんだよ 」
自分の母親の傍にいた金狼が、母が亡くなった後はパートナーであり形見として傍にいるのか
それならあの怒り方は、当たり前なのだろう
大切にしてて家族が、急に現れた狼に噛み殺されそうなら怒りを覚えるものだ
「 頭が腰に巻いてる、あの狼の毛皮は父親のパートナーであった純銀狼のもの…… 」
『 そうだろうな、あの毛皮は他の者より質がいい 』
「 質って……。そうな、レナはその銀狼の、最初の娘なんだ 」
父親が拾った、銀狼は雌だったらしい
それが猟犬と交配し、先祖帰りをした金狼のレナが生まれた
レナは母親のパートナーになり、そこから彼等の一族の銀狼は増えていった
狼が繁殖するように、この盗賊も徐々に人数を増やしたのなら、各地に散らばっている奴等もどれぐらいの人数なのか検討が付かないな
少ないのか、多いのか、それは見てみない事には分からない
戦争に役に立てる数か、そうでないかは……
「 俺は羨ましかった。兄も銀狼がいるから…… 」
『 居なくとも仲間に違いないだろ 』
「 そうなんだけど、もう、そうとは行かないんだ……。戦争に手を貸すためには、銀狼に頼るから 」
やっぱり、ファルクは戦争に参加する為に聖獣召喚をしたのか
兄が戦争に力を貸すことを知って、自分だけ隠れてるのが嫌なのか
正義感が強いのは、ルイスから変わらない意思に少しだけ嬉しくなる
『 移動手段も、力も貸す。御前のやりたいことをするといい。俺はずっと傍にいる 』
「 ありがと、ロルフ…… 」
聖獣召喚には膨大な魔力を使う
今まで使い慣れて無いのなら魔力の消費をしてることすら気付いてなく、眠くなってるのだろう
例え俺に、名をくれたとしても
俺の方へと自動的に流れ込み、与える魔力は謂わば"餌"と同じ
その質と量で、聖獣はその分動けるのだ
ルイスの時より、ファルクは魔力が強い事が分かるからこそ
俺の空腹感は全くなく、寧ろ神の庭にいた時より満腹感を感じる
人の世界に行きたいと望む聖獣がいることに、少しだけ共感する
食べて寝てるだけで強くなるなら、此処の方が楽で仕方ない
『( まぁ、食い過ぎないように寝ててやるが…… )』
ルイスの時と同じように出来るだけ寝ようと思い、目を閉じて眠りにつく
シロの事は気になるが、戦争になってもファルクを守る事を優先したいから
今は、忘れて目の前の事に集中しよう
翌朝に、檻へ差し込む光と小鳥の鳴く声に目を覚ました
それと同時に聞こえてくる足音に気付き、俺は姿を消す
「 ファルク起きろ!頭が呼んでいる 」
「 んっ、わかった…… 」
「 御前、檻の中で寝るとかどんな精神してんだ。相当図々しいぞ 」
「 いや~なんか、眠くてさ 」
目を擦りながら起きたファルクは、ガタイのいい男に連れられ外へと出た
寝癖のある髪を舐めて整えたい俺は、少しだけ疼きながら見ていれば
彼等は夜に話した、中央へとやって来る
其処にはあの頭が座り、待っていた
近くに金狼の姿がないのなら、まだ起き上がれる程じゃ無いのか
起きたときに謝ろって思う
「 ファルク、檻の寝心地はどうだ? 」
「 おはようございます。んー、そこそこっすね 」
「 爆睡してたくせに 」
ポツリと呟いた、男の言葉に頭の眉がピクリと動いたところで俺の体は動きそうになるが
まだ襲ってくる様子がないから我慢をする
「 ほぅ、反省する気はないと? 」
「 反省はしてるけど、眠気には勝てなくて、はは 」
俺の機嫌を損ねないように笑って誤魔化そうとしてるファルクを見れば
此処で喧嘩すれば、彼の居場所が無くなることは少なからず分かる
本能を押さえ付け、理性を止める俺に、彼女はファルクへと睨む
「 ファルク、御前…抜けろ 」
「 えっ? 」
それは周りの者達もざわつく程に突破的な事だった
「 仲間を傷付け、禁忌を犯しても反省の色すらない者を置いておく気はない。出ていけ 」
「 頭、それでは…… 」
「 そっか、分かりました 」
彼女の言葉に、リカルドは止めようとするも
少し考えてた様子のファルクはにこやかに笑って、もう一度頷いた
「 俺は、抜けます。認められなかったら意味がない……。じゃ、荷物を纏めるので、これで 」
「 ファルク!!っ、お頭!! 」
リカルドは望んで無かったのだろう
だが、それでもファルクの思いが揺るぐことはなく彼は荷物を纏めるべくその場を離れた
誰一人、言葉を掛けることも出来ず
頭も顔を背け此方を見ることは無かった
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