俺のお嬢様はおとめげーむ?の『悪役令嬢』らしいです

杏音-an-

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第一章 俺とお嬢様

7 星の夜祭 ②

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「これでよしっと……」

 俺は朝早くに起きて着替えをして、鏡の前で寝癖がついてないかどうかチェックをした。カーテンを開けるといつもは朝日が差し込んでくるが、いつもとは違い、外は真っ暗でだった。朝日差し込む代わりに星の輝きと月明かりがほんのり部屋へと差し込む。『星の夜祭』の日はこうやって朝、昼、夜関係なく1日中真っ暗で1年を通して1番綺麗に星が見える。
 俺は少しだけ胸を弾ませながら、そのまま公爵邸のお嬢様の部屋へと向かった。



 コンコンコン

「おはようございます、お嬢様。ノアでございます」

 俺がノックをして声を掛けると中から「どうぞ~」とお嬢様の声が聞こえた。

「あ、ノア!どう?これ似合ってる?」

 中へ入るといつものドレスとは違い、レイラ様の瞳と同じ水色のワンピースのような町娘の服を着ているレイラ様がいた。レイラ様は何を着ていても可愛らしい。
『星の夜祭』はなかなか規模が大きい祭りの為、街には様々な人間が集まる。その中に如何にもいいところの貴族のお嬢様な格好をしていくと何かしら事件に巻き込まれやすい為、こうやってお忍び風にして毎年祭りへと出掛けているのだった。

「ええ、可愛らしいですよ。お嬢様」

 俺がそう答えるとレイラ様は少しだけ頬を染めてふふっと微笑んだ。

「ノアも……その、いつもの執事の服じゃないから新鮮ね」

「ありがとうございます。え、それ褒めてますか?」

「ほ、褒めてるのよ!」

「お嬢様、褒めるの下手って言われません?」

 からかうようにレイラ様にそう言うと、横から肘で物凄い勢いでド突かれた。

「ノア、お嬢様に失礼よ」

 俺は負傷した右腕を抑えつつ隣を見ると、お嬢様専属のメイド、ララが俺を睨み付けていた。いつも冷めたような目付きをしているが、今日は一段と冷たい……というか、痛い……

「ラ、ララさん痛いっす……」

「貴女がお嬢様に失礼を働くからでしょ。まったく……お嬢様、ノアがお祭りでも何か失礼を働いたら直ぐにお申し付け下さい。きっちり教育し直しますので」

「ええ、分かったわ。是非ともそうしてちょうだい」

 レイラ様はそう言ってクスクスと笑った。

「それじゃあ、お祭りに行きましょ。ノア」

「かしこまりました。お嬢様」

「あ、お祭りのときはお忍び風なんだから『お嬢様』って呼ばないでよね!レイラよ!レイラ!」

「……わかってますよ」

 そう。毎年祭の日はそうなんだが、主従関係でもあるし呼び慣れていないのもあり、好きな人の名前を呼び捨てで呼ぶのはなかなか恥ずかしいものがあった。俺が少し渋っていると、隣でララがクスクスと笑った。

「祭りの日限定よ、ノア」

「わ、わかってますってば!」

「ふふっ、ではお嬢様。いってらっしゃいませ」

「ええ、ララ。行ってくるわ!」

 お嬢様がそう言うとララは深く頭を下げた。



 ******************




「わぁ~相変わらず、毎年すごい人ね!」

「本当ですね」

 街へ行くと沢山の屋台が出回っており、建物や街中がキラキラとした飾りで飾られていた。

「前世でもね冬に『クリスマス』って言ってこうやって街中を飾ったり、大切な人とケーキを食べたりプレゼントを送り合ったりして過ごしていたのよ」

「プレゼント、ですか?」

「ええ!1年良い子にしていた子供達へ寝ている間に『サンタクロース』からプレゼントが贈られるの。まあ、『サンタクロース』はおとぎ話みたいなもので、正体は子供達の親なんだけどね!あとは……大切な人同士でプレゼントを贈り合ったりしていたわ」

「へぇ……前世の世界ではそんな風習があるんですね。ところでなんですが、私達は今何処に向かっているのですか?」

 俺がそう訊ねると、前を歩いていたレイラ様はくるっと後ろを振り返りニコッと笑った。

「噴水広場よ」

「噴水広場……そこで『いべんと』が起こるのですか?」

「ええ!殿下はよく城下の外へ抜け出しているでしょう?『星の夜祭』のときもね、毎年抜け出しては遊びに来ているの。で、広場ではサーカスや音楽隊の人達が来ているでしょ?それを見に行こうとして広場に行った時にヒロインと出会うの!それでね……!」

「興奮するのはいいですけど、周りをよく見て下さいね。人が多いんですから」

「だ、大丈夫よ。子供じゃないんだかr……きゃっ」

「っ……おいおい、いってぇなぁ……」

 おいおい、言ったそばから人とぶつかってるじゃないですか。いや、でも今のは向こうからぶつかって来たような気もしたが……見ると如何にもチンピラな若い男が2人立っていた。

「あ、ごめんない!!」

 レイラ様は直ぐに頭を下げ謝罪をした。が、チンピラの男達は互いに目を合わせて、ニヤニヤと下衆な表情を浮かべ口を開いた。

「あーいてて。こりゃあ骨が折れてんなぁ」

「それはまずいっすねぇ。なぁ?嬢ちゃん、どうしてくれるんだ?これは治療費がかかるかもしれねぇなぁ?」

「……治療費、ですか?」

「あぁ。なぁに、払う金がねぇっつうなら……お兄さん達がいいとこ教えてやるよ」

 1人の男はそう言ってニヤニヤと下衆な表情を浮かべたままレイラ様の腕をガシッと掴んだ。




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