8 / 41
第一章 俺とお嬢様
7 星の夜祭 ②
しおりを挟む「これでよしっと……」
俺は朝早くに起きて着替えをして、鏡の前で寝癖がついてないかどうかチェックをした。カーテンを開けるといつもは朝日が差し込んでくるが、いつもとは違い、外は真っ暗でだった。朝日差し込む代わりに星の輝きと月明かりがほんのり部屋へと差し込む。『星の夜祭』の日はこうやって朝、昼、夜関係なく1日中真っ暗で1年を通して1番綺麗に星が見える。
俺は少しだけ胸を弾ませながら、そのまま公爵邸のお嬢様の部屋へと向かった。
コンコンコン
「おはようございます、お嬢様。ノアでございます」
俺がノックをして声を掛けると中から「どうぞ~」とお嬢様の声が聞こえた。
「あ、ノア!どう?これ似合ってる?」
中へ入るといつものドレスとは違い、レイラ様の瞳と同じ水色のワンピースのような町娘の服を着ているレイラ様がいた。レイラ様は何を着ていても可愛らしい。
『星の夜祭』はなかなか規模が大きい祭りの為、街には様々な人間が集まる。その中に如何にもいいところの貴族のお嬢様な格好をしていくと何かしら事件に巻き込まれやすい為、こうやってお忍び風にして毎年祭りへと出掛けているのだった。
「ええ、可愛らしいですよ。お嬢様」
俺がそう答えるとレイラ様は少しだけ頬を染めてふふっと微笑んだ。
「ノアも……その、いつもの執事の服じゃないから新鮮ね」
「ありがとうございます。え、それ褒めてますか?」
「ほ、褒めてるのよ!」
「お嬢様、褒めるの下手って言われません?」
からかうようにレイラ様にそう言うと、横から肘で物凄い勢いでド突かれた。
「ノア、お嬢様に失礼よ」
俺は負傷した右腕を抑えつつ隣を見ると、お嬢様専属のメイド、ララが俺を睨み付けていた。いつも冷めたような目付きをしているが、今日は一段と冷たい……というか、痛い……
「ラ、ララさん痛いっす……」
「貴女がお嬢様に失礼を働くからでしょ。まったく……お嬢様、ノアがお祭りでも何か失礼を働いたら直ぐにお申し付け下さい。きっちり教育し直しますので」
「ええ、分かったわ。是非ともそうしてちょうだい」
レイラ様はそう言ってクスクスと笑った。
「それじゃあ、お祭りに行きましょ。ノア」
「かしこまりました。お嬢様」
「あ、お祭りのときはお忍び風なんだから『お嬢様』って呼ばないでよね!レイラよ!レイラ!」
「……わかってますよ」
そう。毎年祭の日はそうなんだが、主従関係でもあるし呼び慣れていないのもあり、好きな人の名前を呼び捨てで呼ぶのはなかなか恥ずかしいものがあった。俺が少し渋っていると、隣でララがクスクスと笑った。
「祭りの日限定よ、ノア」
「わ、わかってますってば!」
「ふふっ、ではお嬢様。いってらっしゃいませ」
「ええ、ララ。行ってくるわ!」
お嬢様がそう言うとララは深く頭を下げた。
******************
「わぁ~相変わらず、毎年すごい人ね!」
「本当ですね」
街へ行くと沢山の屋台が出回っており、建物や街中がキラキラとした飾りで飾られていた。
「前世でもね冬に『クリスマス』って言ってこうやって街中を飾ったり、大切な人とケーキを食べたりプレゼントを送り合ったりして過ごしていたのよ」
「プレゼント、ですか?」
「ええ!1年良い子にしていた子供達へ寝ている間に『サンタクロース』からプレゼントが贈られるの。まあ、『サンタクロース』はおとぎ話みたいなもので、正体は子供達の親なんだけどね!あとは……大切な人同士でプレゼントを贈り合ったりしていたわ」
「へぇ……前世の世界ではそんな風習があるんですね。ところでなんですが、私達は今何処に向かっているのですか?」
俺がそう訊ねると、前を歩いていたレイラ様はくるっと後ろを振り返りニコッと笑った。
「噴水広場よ」
「噴水広場……そこで『いべんと』が起こるのですか?」
「ええ!殿下はよく城下の外へ抜け出しているでしょう?『星の夜祭』のときもね、毎年抜け出しては遊びに来ているの。で、広場ではサーカスや音楽隊の人達が来ているでしょ?それを見に行こうとして広場に行った時にヒロインと出会うの!それでね……!」
「興奮するのはいいですけど、周りをよく見て下さいね。人が多いんですから」
「だ、大丈夫よ。子供じゃないんだかr……きゃっ」
「っ……おいおい、いってぇなぁ……」
おいおい、言ったそばから人とぶつかってるじゃないですか。いや、でも今のは向こうからぶつかって来たような気もしたが……見ると如何にもチンピラな若い男が2人立っていた。
「あ、ごめんない!!」
レイラ様は直ぐに頭を下げ謝罪をした。が、チンピラの男達は互いに目を合わせて、ニヤニヤと下衆な表情を浮かべ口を開いた。
「あーいてて。こりゃあ骨が折れてんなぁ」
「それはまずいっすねぇ。なぁ?嬢ちゃん、どうしてくれるんだ?これは治療費がかかるかもしれねぇなぁ?」
「……治療費、ですか?」
「あぁ。なぁに、払う金がねぇっつうなら……お兄さん達がいいとこ教えてやるよ」
1人の男はそう言ってニヤニヤと下衆な表情を浮かべたままレイラ様の腕をガシッと掴んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~
sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。
ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。
そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる