死者が蔓延る美しい世界で

えだ

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第一話 配信者

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【12/1 AM10:15】


 10分間の休憩の合間に、フロアの無料自販機で珈琲のボタンを押した。カップに注がれる様子を見ながら片手でスマホを取り出す。流れるようにすぐさまSwitterと呼ばれるSNSを確認したのは、つい先程変な噂を耳にしたからだ。

『なんか薬かなんかやっておかしくなった配信者がね、配信中に例の鼠を生きたまま食べたんだって』

 休憩に入るため席を立ったその時、面識のない他の派遣社員同士の会話が聞こえてきたのだ。

『Switterで今めちゃくちゃ話題になっててさ、なんかやばいの』

『えっ、鼠を食べたの?!例の鼠って、最近話題の緑色のやつ‥?!』

『そうそう、でね、その配信者‥隣にいた彼女に噛み付いて殺害‥‥したらしくて』

『えっ?!』



 ーーーなんて物騒な話なんだ。と思ったのと同時に、聞こえてきた会話を頭の中で繰り返してみても何ひとつ理解ができなかった。その為、もう少し情報を得ようとSwitterを開いてみたのだ。


【やばい、寄岡よりおか終わったんじゃね?】


 寄岡とは、東日本に位置する地方都市だ。市民の数は100万人を越え、都市部は繁華街や綺麗なオフィスが建ち並ぶ一方で、海や山などの自然も豊か。

 そしてなにより、私、笹山 十和ささやま とわがいま居る場所こそ寄岡市の中心部である。

 ーーー終わったって、なにが?!

 スクロールする指も、忙しなく上に下にと動く瞳も、溢れんばかりの情報を得ようと必死だった。


【え、これ寄岡なん?】

【寄岡駅前、死者多数】

【やべー、まじだ。なにこれテロ?】

【なに、え、広がってるってこと?感染症?!】

【鼠食うとかまじありえない、配信者の男キショすぎ】

【まって、本当だ、蘇ってる】

【グロすぎ。最近のAIほんとすげぇな】

【閲覧注意!寄岡駅前でゾンビ発生!!逃げろ!!】


 ーーーーは?



 呆然としながら、数多の呟きと到底信じることの出来ない動画の数々を再生していく。フロアの一角にある自販機スペースにいるため音を出してはいない。だが、見慣れた街並みの中で必死の形相で逃げ惑う動画の人たちは、きっと耳を劈くような悲鳴をあげているのだろう。そういう顔をしている。

 肝は冷え、指先は微かに震えていた。みんなで一斉に同じようなAI動画を投稿する壮大なドッキリ企画でもしているのだろうか。

 私が勤めているのは有名オンラインストアのお客様サービス、つまりカスタマーセンターだ。派遣社員としてここにきた私が気軽に話を共有できる人はいない。事実なのかデマなのか分からない話を、上の人にしていいものなのかも分からない。

 スマホと珈琲を持ちながら、だだっ広いフロア内を見渡してみる。窓の外を見れば外の様子がわかるだろうか。でもここは寄岡駅からは徒歩10分ほどの距離がある。動画上にある駅前の真偽がここで確認できるわけではない。

 オフィス内は休憩中以外スマホに触れることが禁じられている。テレビなどもない。休憩に入る時間はそれぞれバラバラであるため、オフィス内はいつも通り凪いでいた。


 もう休憩時間も終わってしまう。とりあえず席に戻るべきか‥。迷いながらも足を前に出したその時だった。


「ーーーや、まじで?!」


 フロアの責任者たちの並びから大きな声が上がった。視線を集めたのは佐々木さんという中年男性。私服通勤がOKな為、随分とラフな格好をしているが役職はかなり上の人だ。

 注目を集めた佐々木さんは臆すことなく言った。


「ゾンビだって、ゾンビ!」


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