この世界に2人ぼっち

えだ

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第8話

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 蒼くんはジッと私を見た。私はただならぬ緊張感を感じてごくりと唾を飲んだ。蒼くんはたまに目が死んでるし、結構失礼なところもあるけど‥『いただきます』とか『ありがとう』とか言えるし、意外と頼り甲斐があるし、わりとカッコいいといえばカッコいい。つまり、私たちの関係が『恋人』だと言われても、私は許容範囲なわけです。

「‥‥」

「‥‥」

 蒼くんが神妙な面持ちをしながら2本目のとうもろこしを手にした為、私は思わず蒼くんを制した。

「ちょっと!!」

「なんだよ」

「まず答えてよ!自由かよ!」

「自由じゃん。俺らしかいないんだよ、この世界。
もっとゆるく自由に過ごそうよ」

 た、たしかに‥と無表情のまま小さく頷いた私を見て、蒼くんは今度こそとうもろこしを手に取った。あれ、私ちょろくない?このままでは一生はぐらかされる気がするわ。ここは直球で聞いてしまおう‥

「‥‥恋人、なの?」

 質問しながらふと思った。恋人だったら一生はぐらかすわけなくない?絶対恋人じゃないわコレ。

「は?」

 ほらやっぱり‥。

「じゃーなんなの?兄弟?友達?!」

 私が頬を膨らませながらそう言うと、蒼くんは少し意地悪そうに笑った。

「恋人だよって言ったらチューしてくれんの?」

「ほ?!」

 思わず声が上擦ってゴリラみたいな声が出てしまった。
何を言ってるんだこの人は。

「‥冗談に決まってんだろ。
誰がお前なんかとするかよ」

 そう言って笑いだす蒼くん。なんなのこの人。喧嘩売ってんのかしら。

「あーそうですか。とうもろこし返してもらっていいですか?」

「なんでだよ、これは俺のだよ。ほらみろよ俺の歯形」

「茹でたのは私!収穫したのも私!」

「苗植えたのも育てたのもリカじゃないぞ」

「た、確かに‥」

「‥腐れ縁だよ、掛け合いで何となく分かるだろ」

 急に答えが飛び出してきて、答えを言われたのだと気付くのに少し時間がかかった。なるほどね、腐れ縁ね。すごく納得だわ‥。

「小中高一緒の幼馴染とか?」

「小中高どころか家お隣さんね。ちなみに高校は別」

「お、お隣さん‥?!」

「あー、甘い。とうもろこし」

 なるほどねー、お隣さんの腐れ縁か。そりゃ気心知れた感じの雰囲気になるはずだわ。

 ただ予想通り知り合いだとなると、疑問がひとつ。

「ねぇ、なんで最初嘘付いたの?知り合いじゃないって言ってたじゃん」

「忘れられてたのが腹立ったんだよ」

「あーそう」

 でもさ、普通腐れ縁でも記憶喪失だなんて分かったもんならもっと心配しない?‥なんか蒼くんって‥

「血も涙もないよね」

「は?」

 蒼くんがとうもろこしを頬につけたまま、眉間にシワを寄せた。
 いやどう考えても優しくないよ‥うん。よかった、蒼くんが恋人じゃなくて‥。

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