9 / 123
8話
しおりを挟む午後も特に変わったことはなく、大荷物を持って孤城を後にするミーナの後ろ姿を窓から見送ってホッと息を吐いた。
サリーが部屋に来て、一体ミーナが何をしでかしたのか尋ねてきた。どうやらミーナが自分で「もうここには居られないことをしてしまった」とサリーに頭を下げたみたい。
私が「さぁ?」と首を傾げると、サリーは眉を下げて「そうですか」と答えた。
サリーは私が魔女に体を乗っ取られる前から、私の側で働き続けてくれている。非人道的な悪女街道まっしぐらだった私を見ておきながら、どうしてメイドのままでいてくれていたのか分からないけど、魔女もサリーは楽だったようで、サリーのことをよく呼びつけていた。
サリーは淡々としていて、顔色もあまり変えないクールなメイド。歳は私より5歳ほどお姉さんだ。
そんなサリーが、眉を下げている。
「どうしたの?サリー」
「‥‥‥いえ、その‥。まるで、昔の皇女様に戻られたようで‥」
「‥‥‥え?泣いてる??」
「ま、まさか。泣いてなどおりません」
サリーはそう言って、顔の前でブンブンと手を横に振った。
本当は、魔女に体を乗っ取られていたのだと言ってしまいたい。でもそれは賭けだ。お父様の耳に入れば、『前皇帝が嘘の宣言をしたと言いたいのか』なんて言われてしまうかもしれないし、魔女が入り込んでいた不吉な体なんて、やっぱり魔女狩りと称して殺されるかもしれない。
「‥‥‥‥‥長い反抗期が、終わったのかもね」
そう言って笑ってみると、サリーの瞳からは堪え切れずにポロっと涙が溢れ落ちた。こんな私の為に泣いてくれる人がいるんだ‥、と心が温かくなる。
リセット魔法が使えても、どれだけの死を回避してどのくらい長く生きていられるかは分からない。でも、生きていられる限り‥もう2度と周りの人達を悲しませたくない。
「‥‥‥‥‥明日王宮に行き、新しいメイドを送ってもらえるように手配します。今日のところは、ごゆっくりとお過ごし下さい」
「わかったわ。ありがとう」
昼までのやり直しのために2回もリセット魔法を使ってしまう程、怒涛のスタートだった。そりゃあ魔女もこの体を投げ出すわ、と自虐的に笑ってしまう。
でも、私の為に泣いてくれる人もいる。ミーナのように、向き合える人もいる。‥魔女が行ってきたことを無かったことにはできないけど、今まで傀儡だった分‥‥‥これからは必死に生きたい。また魔女の過ちに押し潰されて心が折れることもあるかもしれないけど、やっぱり生きていたいよ。
この日の夜、私は古い置き時計が8時を差したのを見て心臓がドクンと跳ねた。
夜8時。ここからは10年間‥私の知らなかった世界。
扉のノック音と共に、騎士のテッドの声がした。
「‥皇女様、今日の奴隷はギデオンです」
まるで日課を告げているかのような、淡々としたテッドの声。確かに意識が飛ぶ時間帯、毎日こんな声を聞いていたような‥。
たぶん私の意識が飛ぶタイミングは魔女の匙加減だったんだと思う。奴隷が部屋に来る前に意識がなくなることも多かったから‥。
勝手に来るパターンなのか‥と扉の方を見ると、水色の髪をしたギデオンが控えめに私を見ていた。
「‥私、今日具合が良くなくて‥」
テッドにもギデオンにも聞こえるようにそう言うと、テッドは直ぐ様かしこまりましたと頭を下げた。
「テッド‥」
「はい、なんでしょうか」
「‥‥明日も、奴隷は呼ばなくていいわ」
ミーナのことは解決したし、今日はきっとこのまま無事に眠りにつけるはず。明日は奴隷たちと接触を図って、いつ爆発するか分からないノエルと向き合いたい‥。
テッドがいつまで経っても返答をしないから、思わず眉を顰めてしまった‥‥んだけど、テッドは明らかに怪訝そうな顔をしていた。
え、私‥何かおかしなこと言った?
「‥明日は満月の夜ですので‥もちろん奴隷を送りはしません」
‥‥満月だから奴隷を送らない??何故?!
「‥‥テッド。私ね、毎晩お酒に酔っていて‥」
「満月の日の約束は、皇女様が飲酒される前から続いていましたよね」
ええっ。
なによその満月の日の約束って‥‥!!!
「‥‥‥‥」
「‥5年前から、満月の日には干渉するなと仰っていたではありませんか。夜絶対に皇女様の部屋を訪れてはいけないというのがルールでしたのに‥一体どうしてしまったのですか」
一見洒落て見える丸眼鏡を携えて、テッドは呆れたように呟いていた。
5年前‥。なかなかに歴史があるけど、私は10年前からの10年間、夜間の意識なんてない。
満月の日の約束って‥一体なんなのよ‥。恐怖からか余計なことを考え過ぎて、体を取り戻してから迎える始めての夜はなかなか寝付くことができなかった。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる