最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

文字の大きさ
12 / 123

11話

しおりを挟む

 ノエルはぽつりぽつりと言葉を落とし始めた。

「ーー小さい頃の皇女様と、様子が随分違かったから‥‥皇女様も俺と同じで、きっと苦しくて辛い思いをしたことで何かが弾けたのかと思ってた。皇女様は、すごく楽しそうに俺に触れてたから。ーーーーーーだから俺、そんな皇女様に救われていたのに」

 眉間を険しくさせながら、ぽろぽろと涙を零したノエルを見て、私の肝は一気に冷えた気がした。

 救われていたのにーー。その言葉が、私の心臓をグサグサと刺す。ああ、失敗したのか。ノエルはを求めている‥

「ごめ」
「ごめんなさい、皇女様!!」

 咄嗟に謝ろうとした私の声に、ノエル謝罪が重なった。え?とノエルを見ると、ノエルは眉を八の字に下げて心から申し訳なさそうな顔をしていた。
 返り血をべっとりつけて恍惚としていた昨日とは大違いだ。

「ノ、ノエル‥?」

「俺、皇女様がそんな目に合っているなんて気付きもしないで‥。皇女様は長い間苦しんでいたのに、俺はその間、皇女様に溺れるように甘えてた‥。どうして俺だけを見てくれないのって、そればっかり。他の人を部屋に招いてるのも嫌だった。でも、それも全部‥魔女のせいだったんだね。皇女様が求めていたことじゃなかったんだね。あぁ、ごめんなさい‥。ごめんなさい、皇女様‥。俺、皇女様の体、その、気付かなかったとはいえ、その‥あ、というか、気付かなかったことが罪‥か。ほんと、ほんとに‥ごめんなさい‥」

 あまりにも昨日と違うノエルの姿に、私はただただ口をぱくぱくと動かすしかなかった。昨日のリセット前のノエルは、私にという絶望から、皆を殺してしまった。
 魔女に乗っ取られていたという言葉も、最初は俺から逃げる為でしょと疑っていた。

 状況が違うと‥こんなにも、結果が違うんだ‥。

「ノエルは何も悪くないわ。‥それよりも、私を責めないの?貴方を救っていたのは魔女なんでしょう?」

 私がそう問うと、ノエルはふりふりと頭を横に振った。いまのノエルは毒気など全くなく、ただただ純粋な天使のようにしか見えない。

「‥‥初恋だった皇女様が、俺を求めてくれていたことが嬉しかった。でも、本当の皇女様は苦しんでいて、魔女が皇女様の体を弄んでいたのなら、話は別だよ‥。俺は自分が不甲斐ないよ。自分が一番可哀想って思ってた。愚かだよね。一番可哀想なのは、皇女様だ」

「そう‥理解してくれて、ありがとう‥」

「‥‥それにしても、どうして俺だけをここに残して、そんなに大切な話をしてくれたの?‥ま、この話を聞く前の俺が解放されたら‥やっぱり狂っちゃってたと思うけど」

 ノエルはきょとんと首を傾げた。魔女のことは話せても、リセットのことまでは流石に話せない。きっと信じられるものでもないだろうし。

「‥‥他の奴隷たちと違って、ノエルは幼い頃に出会っていたでしょ。昔の私の姿を知っているノエルなら、私の話を信じてくれるんじゃないかなって思って‥。みんなにはこんな話できないからさ、誰かにこの苦しみを聞いてもらいたかったのかもしれないわね」

 誤魔化し半分、本音半分。
王宮と直に繋がりがある人にこそ、距離の近い人にこそ、魔女に乗っ取られていたことはそう簡単には話せない。
 まぁ、ノエルにも口止めをしなくてはいけないんだけど。

「‥‥皇女様‥。メイドたちにも話せないの?」

「もちろんよ。大好きなお父様にもね」

「‥‥っ。‥なんでよ!話せばみんなわかってくれるよ!悪女っていうレッテルなんて、すぐに吹き飛ぶ筈だよ」

「そんなわけないよ。だって魔女を狩尽くしたって宣言したのはお祖父様だし、仮に信じてくれたって、また魔女に取り憑かれるかもしれないこんな不吉な体なんて、処刑されてしまうかもしれない。それに、散々しでかしてきた悪事を誤魔化すための嘘だって思われるかもしれないわ」

「そんなぁっ」

 ノエルはまるで大きく深い悲しみの奥底に突き落とされたようだ。その声は、押しつぶされるような苦しさを纏っていた。

「だから、ノエルが聞いてくれてなんだかスッキリしたわ。ありがとう。殺されちゃうかもしれないから‥この話は秘密にしてね?」

 お願いっと両手を顔の前で合わせると、ノエルは悔しげに口を結んだ後に首を縦に振ってくれた。

「ねぇ皇女様‥。この話をするために俺をここに残してくれたんだよね」

「え?‥えぇ」

「俺のこと、もう解放するよね?奴隷を欲してたのは魔女だもんね」

 ノエルの言葉に、私の体がきゅっと固くなった。
昨日とはまるで違ってノエルは今の私の理解者になってくれたし、きっと豹変したりはしないでしょう。でも、昨日のノエルを豹変させたキッカケはだったから、やっぱり怖い。

「‥‥‥そうね。ノエルには、自由になってほしい」

「‥‥‥俺、皇女様のこと、守りたいんだけど、だめ?」

「‥‥守る?」

「うん。俺、こう見えて結構強いからさ。魔女の悪事のせいで、皇女様きっとこれからも苦労するでしょ。俺、守りたいよ」

 ノエルはこの孤城内の騎士たちをも、昨日殺してしまっていた。だから、ノエルが強いのはわかるけど‥。
 正直‥ノエルの深く病んだ姿を思い出せば恐怖しかない。

 言葉が出てこない私を見て、ノエルはしゅんっと眉を下げた。

「奴隷風情が何言ってるんだって感じだよね。それに‥俺を見ていたら魔女に好き勝手操られていたこと、思い出しちゃうかな?」

 どうしよう‥。ノエルがと言ってくれるとは思っていなかった。

「‥‥す、こし、考えさせてくれるかな、何日か‥。あ、いや、牢から出たいよね」

 ノエルは柔らかく微笑んで、首を横に振った。

「大丈夫だよ。忠誠を誓いたいから、その証明のためにも牢にいる。何日でもいいから、よく考えて」

「‥‥ありがとう、ノエル」

 ノエルが私ににっこりと笑いかけてくれたのと、テッドが私を迎えに来てくれたのは同じタイミングだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...