最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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29話

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 数日後、早速またピアノを演奏する機会が舞い込んだ。もちろん今度の依頼主は王宮ではなく公爵。
 王宮にいる筈の首謀者は、私が懲りずにもまた覆面をつけてピアノを演奏することを知った時、一体どんな顔をするんだろう。命を狙われているのに外に出ることを馬鹿だと笑うだろうか。それとも、公爵邸での暗殺未遂を物ともしなかったことに苛立つだろうか。

 王宮には王族だけじゃなく、王宮で働く人たちが大勢いる。なかなか首謀者に辿り着かないと思うけど、この覆面での演奏がお父様との再会に繋がるのなら出来る限りのことがしたい。

「‥‥巷で噂のキャットマスク、ね‥‥」

 先日の演奏の記事が載った新聞をぎゅっと握ったノエルは、怒りからか声を震わせていた。ノエルは未だに公爵の提案に反対らしい。

「ルイーズ嬢のパーティーの参加者たちがそう名付けたみたいよ」

 キャットマスクと呼ばれることになった張本人の私だけど、どことなく他人事のように話してしまう。実際自分が“キャットマスク”と呼ばれている実感なんてない。

「‥‥皇女様。もっと緊張感のある顔をしてよ!!」

「そ、そんなこと言ったって‥。これが私の顔なのよ」

「いや、違うね。緩んでるよ」

 ノエルに反論できなくなった私は、ほんの少し口の先を尖らせた。そんなつもりないのに‥という私なりの反論のつもりだ。

 首謀者がいる限り暗殺は続くし、魔女の悪事のせいで他にもの恐怖は迫っているかもしれない。
 それでも、私の周りには心強い理解者がいるうえに、ここ数日は命の危険すら感じていない。
 魔女から解放されて“自分の時間”を過ごしている安心感。自覚はなかったけれど、それが私の表情を緩ませていた要因かもしれない。

 そもそも魔女に乗っ取られる前は、素晴らしい皇女でいられるよう常に気を張っていたし‥魔女に乗っ取られている時は欲にまみれた表情をしていたことだろうし‥、もしかしたらノエルの言う通り、今が一番緩んでいるのかもしれない。

 ‥命を狙われているのに緩んでいるなんて、ちゃんちゃらおかしい話なんだけど。

「‥‥‥貴方たちのおかげよ。私を理解して、守ってくれる人たちが身近にいるんだもの。たまには気を抜いてもいいじゃない」

 私の目の前に座るノエルはムッとしながらもこめかみを掻き、扉側に立つバートン卿は小さく微笑んでいた。テッドは今日も丸眼鏡を押し上げながら、無表情で窓の外を見てる。

 この間の公爵邸でテッドの様子がおかしかった理由は今もハッキリは分かっていない。‥でもあの話の流れを鑑みればある程度の予想はできてしまう。

 公爵が魔女狩りのことを“無駄な大量殺人”と言った時、テッドは苦虫を噛み潰したような顔をしてしいたし、私に魔女が取り憑いていたことを知った時、すごく動揺しているように思えた。

 ーーーテッドの大切な人が、魔女狩りの被害者なんじゃないか。

 テッドの様子を振り返り、私はそう思うようになった。

 魔女に体を乗っ取られていた当の本人がこうしてのうのうと生き続けているのに、大切な人を魔女狩りで亡くしていたとしたら‥私の側にいることはどれ程苦痛だろうか。

 今朝テッドと2人きりになる時間があった際、「私の近くにいるのは苦痛でしょ。私の護衛外れてもいいわよ」と声をかけたけど、テッドはやるせ無さそうに遠くを見ながらも、首を横に振った。

「皇女様の命令ならば離れますが、そうではないのなら私は私の任務を全うするだけです」
 
 あくまでも割り切っているテッドに、それ以上声をかけることはできなかった。
 事情を知ったうえで守ってくれることは私にとってこれほどまでに心強いことはないけど、テッドの心に負担はかけたくない。
 テッドが辛いなら、近いうちに私から遠ざけてあげないとな‥。

 公爵邸で演奏をしたあの日以降、バートン卿とノエルとテッドとはほとんどの時間を共に過ごしてる。メイドのサラやベルタは、男遊びをやめたと言っていた私が今度はこの3人を特に気に入って近くに置いていると思っているかもしれない。まぁ‥そう思っていてもらった方が、少々都合が良かったりもするけど。


 ”キャットマスク”の2度目の公演は明後日。
ーーー公爵の領地で行われるお祭が今度の舞台。

 明後日の公演の際、また暗殺者が現れるかもしれないと心構えをしていた私は‥翌日に命の危機が迫っていることを知る由もなかった。

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