最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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53話

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 手のひらに汗がじわりと滲んだ。

 苦しくて辛かった分、心を強く持って生き抜いてやろうと思っていた。でも私自身が魔女だったのならそんな未来を夢見ること自体が罪。
 だってこの国ではもう数え切れないほどの女性が魔女狩りによって殺されてきたんだから。私だけが許されるわけがない。皇女としての仕事さえできていないのに、私だけが特別に生き続けて良いわけがない。
 それに私は、多くの犠牲を出した“魔女狩り”を始めた皇族の一員。


 目を瞑り小さく息を吐く。ーーこれ以上私のように苦しむ人がいないよう、魔女の母は討ちたい。

 魔女の母はきっと皇室に相当の恨みを持っている。それは自分が力を授けた魔女たちが沢山殺されたせいだと思う。皇室への復讐、それは魔女の母が抱いて当然の感情。

 魔女の母もまた、私と同じように理不尽な苦しみを味わったのだと思う。

 ーーそれでも、お父様やロジェを守りたい。きっとお父様やロジェも魔女の母の復讐の対象だと思うから、2人のことを守り抜きたい。

 ‥魔女の母を討つことができたら、その時は死のう。せめて、潔く。

「ーーーーーー死なせませんからね」

 突然響いた冷たい声。

「‥え?」

 声の持ち主はテッドだった。必死な顔をしたテッドは何故だか泣き出しそうにも見える。

「‥‥魔女がなんだっていうんですか。じゃあ皇女様は誰かを傷付けましたか?痛ぶりましたか?殺しましたか??散々魔女狩りで沢山の人が死んだのだから自分は死ぬべきだと思ってますよね?違いますよ、それ。間違ってる!!魔女狩りという悲劇を、また繰り返すのですか!!」

「‥‥テッド‥でも、」

 ここまで感情を昂らせているテッドは初めて見たかもしれない。テッドの目が微かに潤んでる。

 テッドは家族を魔女狩りで亡くしたんじゃないの‥?私なんて恨むべき対象なんじゃ‥

「ーーーー私の母と姉は魔女でした。15年ほど前に死にましたが、その頃にはまだ以外にも僅かに生き残りの魔女がいたんです‥」

「えっ?」

 魔女と疑われて殺されたのではなく、本物の魔女だったの‥?

「‥よくおどけていたお茶目な母、男勝りで笑ってばかりだった姉‥。どこにでもある幸せな家庭でした」

 家族の話をしている最中のテッドは、どこか懐かしそうに目を細めていた。

「‥‥‥母は魔力を込めて薬を調合するのが得意でした。人々を救っていたんです。母の力を生まれながらに引き継いだ姉も同じ‥。男性だからか、私はそんな力を授かりませんでしたが」

「‥‥人々の為に力を使っていたのね‥」

「‥はい。‥‥でも魔女狩りは有無を言わさずに母の命を奪いました。‥幼い私の目の前で容赦なく斬りつけられたのです」

「‥‥‥っ‥」

 テッドは私よりも少しだけ歳が上だと思う。それでも魔女狩りが行われていた頃のテッドの年齢は、きっとかなり幼かったはず。どれほど辛い思いをして生きてきたんだろう‥。

「たまたまその場にいなかった姉は助かりましたが‥心を病んで自害しました。私はそこから天涯孤独‥。母たちに助けられていた筈の人々は魔女狩りを境に手のひらを返すようになり、私は孤児院で育てられました」

「‥‥そうだったの‥‥」

 なんて声を掛けるのが正解なのか分からない。テッドは本来、魔女狩りを始めた皇室を相当憎んでいるんじゃないの‥?

「何度も孤児院を抜け出していましたが、そんな時にたまたま通りがかったレオンに声を掛けられたんです。レオンが世話になっていた剣の先生の家で私も面倒を見てもらうことになり、そのツテで騎士になったんです。今思えば不思議な縁ですね」

 レオンという言葉を聞いて思わず体が小さく反応した。
テッドはレオンとそんなに昔から知り合いだったの‥?

 その経歴から皇族の騎士に上り詰めるなんて凄いことだけど‥もしもレオンが精神魔法で周囲の人々を操作していたのならあり得ないことではないわね‥。

「‥‥テッドは魔女狩りを進めていた皇族を恨んでいるでしょ?それなのにここの騎士でいるなんて苦しくないの‥?」

「‥正直苦しかったです。でも必死に生きていたらいつのまにかここにいました。‥ただお恥ずかしいことにやる気が満ちることはなかったんです」

 情け無い話ですが、とテッドは伏せ目がちに言った。
生きる為には働かなくてはいけない。必死に行き着いたのはここだったけど‥守るべき対象の私は魔女に乗っ取られて散々な暮らしをしていた。

 そりゃやる気なんて生まれないわよね。

「当然のことよ」

 私が笑うと、テッドも笑った。

「ですが今は違います。皇女様を全力でお守りしたいのです。‥私は2人が死ぬべき命だったなんて思えません。一生納得なんて出来ない。‥皇女様の死は、2人の死を肯定することになるんです」

 テッドの大切な家族。
魔女という理由だけで殺されたお母さん。その現実に打ちひしがれて亡くなったお姉さん。

 せめて私が魔女狩りを始めた皇室の一員でなければ、すぐに生きると決断できたかもしれない‥。
 魔女でありながら生きるということは魔女狩りから逃れる為にここから去るということになる。お父様ともロジェとも会えないうえに、温室しか知らない私がひとりでに生きていける自信なんてない。
 まぁ、魔女であると知られなければ‥逃げる必要はないのだろうけど‥。

 そこまでして私だけが生きることを乞うのは正解なの‥?


「‥‥テッド、覚えてる?」

「なんでしょうか‥」

「私がまた魔女に操られたら、テッドは私を仕留めるっていう役割があるのよ?」

 テッドは「うっ」と言って固まった。
そんなテッドの様子が面白くて思わずクスッと笑ってしまう。

 ーーレオンの防御によって魔女からの魔法がテッドに効かなかったのだとしても、魔女が何度もテッドを誘おうとしたということは、防御の効果は継続的ではなく一時的なものであるということ。

 だから私が再び体を乗っ取られた時に、テッドが必ずしも魔女の毒牙にかからないとは言い切れない。約束なんてテッドの重荷になってしまうだけね‥。

「‥皇女様が再び魔女によって苦しむのであれば、その時は私が貴女を斬ります。‥‥しかし魔女に勝って自由を手に入れた際は、どうか生きてください」

 普段クールなテッドの瞳は、まるで炎のように熱が籠っているようだった。

 生きてください、か‥
その生きた先では、お父様とロジェと決別しなくてはいけない未来があるかもしれない。私にとって2人の存在が生き抜く為の強い希望になっているのに、2人と決別した未来で生きていけるのかな‥‥。生きようと、思えるのかな‥。

「‥‥考えておくわ」

 命はひとつしかないのにどうしようもなく重すぎて、体が地面に沈んでしまいそう。しがらみが多すぎて、“魔女を討つ”という目標以外に決断できる未来がないよ‥。


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