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61話
しおりを挟むーー翌日ーー
テッドは昼頃に離宮に戻ってきた。結構な長旅だったようで、クールな表情をしていても旅の疲れが顔に出ていた。
テッドの家庭事情は詳しく分からないけど、祖母の家があるのに孤児院で育ったということは、おばあちゃんは亡くなっているけど家だけが残されているのか、おばあちゃんや親族たちは生きているけどテッドを育てられなくて施設に預けたのか‥
どちらにしてもテッドには体力面だけではなく精神面でも負担をかけてしまったに違いない。
「皇女様、母の手記を見つけたので持ってきました。どうやら母は結婚をして実家を離れる前に魔女になっていたようで‥この手記には多くの情報が残されていました」
「‥そう‥。ありがとう、テッド」
魔女狩りでは、女性たちが沢山殺されてしまったけど‥その際同時に家に火を放たれることも多かった。テッドのお母さんの手記は魔女狩りの際に住んでいた場所ではないところに保管されていたから無事だったみたい。
今日も私の部屋で4人でソファに座っている。レオンは一晩中警備を行っていたみたいだから、恐らくいまは仮眠中。どちらにしても壁は厚くて盗み聞きもできない筈だから万が一声が漏れても大丈夫ね。
テッドから渡された手記を見る。みんなが見えるよう、テーブルの上で広げながら文字を読んだ。
丁寧で品のある素敵な文字が並んでいる。テッドのお母さんは自身が魔女化して分かったことを綺麗にまとめていた。
『魔女の母の言いつけを守って、魔法を使い込んだ。おかげでどうやら魔力はちゃんと体に残ったみたい。この力を使って、病や怪我に苦しむ人たちを沢山救いたい』
ーーー魔法を使い込むことで魔力が残る?‥魔法を使わなければ魔女になれずに人間に戻ってしまうということかしら。‥それなら、体を解放されて直ぐにリセット魔法を使わなくてはいけない場面が多くあったのも納得だわ‥。私を魔女にする為に、その環境を作っていたのね。
ページを捲っていくと、その日に起こった出来事や、どんな薬でどんな人々を救えたのかが書かれていた。
テッドのお母さんは沢山の人々に手を差し伸べていた。‥テッドが言うように、決して殺されるべき人間なんかじゃない。
‥‥どうして皇室は魔女狩りなんて始めたんだろう‥。
『練度が上がってきたのか、今日は瀕死の人を救える薬を作ることができた。このまま魔法の練度を上げてもっと上級の魔法が使えるようになれば、もっと沢山の人々を救えるはずね』
その文章を読んだ私は「えっ」と声を上げながら顔を上げた。3人も同じように驚いた表情を浮かべている。
「‥‥テッド‥これ、どういう意味かわかる‥?」
生前に何か聞いていたりしないかしら‥。
「いえ‥。私はまだ当時幼かったうえに自分だけ魔法が使えなかったので、母や姉が作る薬には無関心で‥」
「そう‥」
練度を上げれば上級の魔法が使えるって‥それは私にも当てはまるのかな‥。
「‥‥‥皇女様、試す価値はあるかと思います」
私の考えを読んでか、バートン卿はそう言った。ノエルもぶんぶん首を上下に振っている。
「そうだよ皇女様。魔女が何だっていう話だよ。使えるもんは最大限使わないと」
「‥そうよね、正々堂々と戦えるような相手でもないんだし‥」
魔女の母は魔女の中でも明らかに特別な存在だから、魔女の母と比べても意味はないんでしょうけど、自分が持っている系統の魔法を増やせるのなら‥。
私は時間に関する魔法‥なのよね?恐らく。それなら、現状では戦いの場面で回避としてしか使えないリセット魔法とは違って、戦いを優位にできる力を手に入れることができるかもしれない。
でも問題は、一体どうしたら練度を上げることができるのかよね。それに、いつもは右手の中指と親指を鳴らすことでリセット魔法を掛けてたけど‥他の力を使いたくても指を鳴らせばリセットされてしまうんじゃ‥?
確かめようにも1日に3回までしかリセット魔法はできないし‥。うーん‥。
手記はその後何ページも続いていたけど、それ以上の目ぼしい情報は見つけることができなかった。
今すぐここで試してみるのも有りね‥。いつもと違う左手で指を鳴らしてみようかしら?呑気にもそんなことを考えていたその時だった。
扉の向こう側からサリーの叫ぶような声が響いた。
「きゃああ!!何なんですか貴方たち!!!」
その声が響いた途端、バートン卿とテッドとノエルは直ぐ様立ち上がって臨戦態勢になった。
ノエルとテッドが私の前で構え、バートン卿が警戒しながらも扉の直ぐ側まで走っていく。
ーーー何が起こったの‥?
戦いの知識がない私でさえカシャンカシャンという多くの音を聞いていれば、相手が大人数であるということは理解できた。
きっと鎧に身を包んだ人が大勢いるんだわ。‥今までの少人数での暗殺とはわけが違う。
扉が開かれて鎧の騎士が姿を表した。その途端、扉の影にいたバートン卿が先頭にいた鎧の騎士の首に右腕を押し当て、後続の騎士たち共々廊下側へと押し倒した。
直ぐ様立ち上がったバートン卿は騎士たちに向かい剣先を向けている。情け無い私は、僅か数秒の間に起こった出来事についていけずに狼狽えることしかできなかった。
「貴様らどういうつもりだ」
久々に聞くバートン卿の恐ろしい声。いかに最近のバートン卿が柔らかく穏やかだったのかを思い知らされた。
「ーーーー我々はレッドメイン家の者です。大人しくご同行頂きたい」
バートン卿に倒された騎士ではなく、廊下の奥から聞こえてきた声。恐らくこの騎士たちの指揮官のような存在なのだと思う。
ーーレッドメイン家。‥お義母様の生家だわ。
「‥ご同行?何を言っているんだ貴様は。皇后だけではなくレッドメイン家全体がよほど罰を受けたいのだと見える。そんなに死に急ぎたいなら今ここで死ね」
バートン卿はそう言って長い髪を後ろへと掻き上げた。テッドもバートン卿の元に駆け寄ると、2人は扉付近で激しく乱闘を始めた。
向こうの方が数が多いけど、扉を挟んでいるせいか数分は持った。‥けど、やはりちょっとした隙を縫って大勢の鎧の騎士たちがあっという間に部屋の中に突入してきてしまった。
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