最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

文字の大きさ
62 / 123

61話

しおりを挟む

 ーー翌日ーー


 テッドは昼頃に離宮に戻ってきた。結構な長旅だったようで、クールな表情をしていても旅の疲れが顔に出ていた。

 テッドの家庭事情は詳しく分からないけど、祖母の家があるのに孤児院で育ったということは、おばあちゃんは亡くなっているけど家だけが残されているのか、おばあちゃんや親族たちは生きているけどテッドを育てられなくて施設に預けたのか‥

 どちらにしてもテッドには体力面だけではなく精神面でも負担をかけてしまったに違いない。


「皇女様、母の手記を見つけたので持ってきました。どうやら母は結婚をして実家を離れる前に魔女になっていたようで‥この手記には多くの情報が残されていました」

「‥そう‥。ありがとう、テッド」


 魔女狩りでは、女性たちが沢山殺されてしまったけど‥その際同時に家に火を放たれることも多かった。テッドのお母さんの手記は魔女狩りの際に住んでいた場所ではないところに保管されていたから無事だったみたい。

 今日も私の部屋で4人でソファに座っている。レオンは一晩中警備を行っていたみたいだから、恐らくいまは仮眠中。どちらにしても壁は厚くて盗み聞きもできない筈だから万が一声が漏れても大丈夫ね。

 テッドから渡された手記を見る。みんなが見えるよう、テーブルの上で広げながら文字を読んだ。

 丁寧で品のある素敵な文字が並んでいる。テッドのお母さんは自身がして分かったことを綺麗にまとめていた。


『魔女の母の言いつけを守って、魔法を使い込んだ。おかげでどうやら魔力はちゃんと体に残ったみたい。この力を使って、病や怪我に苦しむ人たちを沢山救いたい』


 ーーー魔法を使い込むことで魔力が残る?‥魔法を使わなければになれずに人間に戻ってしまうということかしら。‥それなら、体を解放されて直ぐにリセット魔法を使わなくてはいけない場面が多くあったのも納得だわ‥。私を魔女にする為に、その環境を作っていたのね。

 ページを捲っていくと、その日に起こった出来事や、どんな薬でどんな人々を救えたのかが書かれていた。

 テッドのお母さんは沢山の人々に手を差し伸べていた。‥テッドが言うように、決して殺されるべき人間なんかじゃない。

 ‥‥どうして皇室は魔女狩りなんて始めたんだろう‥。

『練度が上がってきたのか、今日は瀕死の人を救える薬を作ることができた。このまま魔法の練度を上げてもっと上級の魔法が使えるようになれば、もっと沢山の人々を救えるはずね』


 その文章を読んだ私は「えっ」と声を上げながら顔を上げた。3人も同じように驚いた表情を浮かべている。

「‥‥テッド‥これ、どういう意味かわかる‥?」

 生前に何か聞いていたりしないかしら‥。

「いえ‥。私はまだ当時幼かったうえに自分だけ魔法が使えなかったので、母や姉が作る薬には無関心で‥」

「そう‥」

 練度を上げれば上級の魔法が使えるって‥それは私にも当てはまるのかな‥。

「‥‥‥皇女様、試す価値はあるかと思います」

 私の考えを読んでか、バートン卿はそう言った。ノエルもぶんぶん首を上下に振っている。

「そうだよ皇女様。魔女が何だっていう話だよ。使えるもんは最大限使わないと」

「‥そうよね、正々堂々と戦えるような相手でもないんだし‥」


 魔女の母は魔女の中でも明らかに特別な存在だから、魔女の母と比べても意味はないんでしょうけど、自分が持っている系統の魔法を増やせるのなら‥。

 私は時間に関する魔法‥なのよね?恐らく。それなら、現状では戦いの場面で回避としてしか使えないリセット魔法とは違って、戦いを優位にできる力を手に入れることができるかもしれない。

 でも問題は、一体どうしたら練度を上げることができるのかよね。それに、いつもは右手の中指と親指を鳴らすことでリセット魔法を掛けてたけど‥を使いたくても指を鳴らせばリセットされてしまうんじゃ‥?
 確かめようにも1日に3回までしかリセット魔法はできないし‥。うーん‥。


 手記はその後何ページも続いていたけど、それ以上の目ぼしい情報は見つけることができなかった。


 今すぐここで試してみるのも有りね‥。いつもと違う左手で指を鳴らしてみようかしら?呑気にもそんなことを考えていたその時だった。

 扉の向こう側からサリーの叫ぶような声が響いた。

「きゃああ!!何なんですか貴方たち!!!」

 その声が響いた途端、バートン卿とテッドとノエルは直ぐ様立ち上がって臨戦態勢になった。
 ノエルとテッドが私の前で構え、バートン卿が警戒しながらも扉の直ぐ側まで走っていく。

 ーーー何が起こったの‥?

 戦いの知識がない私でさえカシャンカシャンという多くの音を聞いていれば、相手が大人数であるということは理解できた。

 きっと鎧に身を包んだ人が大勢いるんだわ。‥今までの少人数での暗殺とはわけが違う。

 扉が開かれて鎧の騎士が姿を表した。その途端、扉の影にいたバートン卿が先頭にいた鎧の騎士の首に右腕を押し当て、後続の騎士たち共々廊下側へと押し倒した。
 直ぐ様立ち上がったバートン卿は騎士たちに向かい剣先を向けている。情け無い私は、僅か数秒の間に起こった出来事についていけずに狼狽えることしかできなかった。

「貴様らどういうつもりだ」

 久々に聞くバートン卿の恐ろしい声。いかに最近のバートン卿が柔らかく穏やかだったのかを思い知らされた。

「ーーーー我々はレッドメイン家の者です。大人しくご同行頂きたい」

 バートン卿に倒された騎士ではなく、廊下の奥から聞こえてきた声。恐らくこの騎士たちの指揮官のような存在なのだと思う。

 ーーレッドメイン家。‥お義母様の生家だわ。

「‥ご同行?何を言っているんだ貴様は。皇后だけではなくレッドメイン家全体がよほど罰を受けたいのだと見える。そんなに死に急ぎたいなら今ここで死ね」

 バートン卿はそう言って長い髪を後ろへと掻き上げた。テッドもバートン卿の元に駆け寄ると、2人は扉付近で激しく乱闘を始めた。

 向こうの方が数が多いけど、扉を挟んでいるせいか数分は持った。‥けど、やはりちょっとした隙を縫って大勢の鎧の騎士たちがあっという間に部屋の中に突入してきてしまった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...