82 / 123
81話
しおりを挟むレオンが作ってくれた寝床と、密着するレオンの熱で凍えることなく夜を過ごした。
二重に重ねたマントの中は、2人から発せられた熱が籠っている。その熱を逃がそうとマントの中から壁側の腕を出すと、体は一気に冷たくなった。
レオンを意識して眠れないんじゃないかと思ったけど、長旅の疲れが溜まっているのか意外にも眠りは深かった。
「っくしゅっ」
自分のくしゃみで目を覚ますと、空はもうだいぶ明るい。
「‥‥大丈夫ですか?」
レオンがそう言って、私が剥いでいたマントをかけ直してくれた。
まだ脳が目覚めてなくて意識は虚だけど、レオンの些細な気配りや優しさが胸に沁みる。
ありがとうと伝えなきゃ‥と思いつつも重い瞼が上がってくれない。
「‥‥‥甲斐甲斐しい」
ぽつりと溢れた言葉は、私がここ数日レオンに対して抱いていた印象だった。もしやいまの言葉は口から出てた‥?と一気に目が覚める。
「‥‥‥‥ぷっ、くっくっ‥‥‥なんですかその寝ぼけ方」
「っ!!!」
ーーどうやらばっちり聞かれていたらしい。
ありがとうの代わりに甲斐甲斐しいと言ってしまうなんて、なんて間抜けなのかしら。あまりにも恥ずかしくなった私はそのまま寝たふりをしてやり過ごすことにした。起きてから何か言われてもしらばっくれてしまおう。
「‥‥寝てるふりを続けるんですか?頬真っ赤ですし瞼ピクピクしてますよ」
「っ!!」
堪らずに瞼を開けるとレオンが目を細めて笑っていた。可愛らしく跳ねているレオンの寝癖が視界に入る。距離感がおかしすぎて目眩がしそうだ。
「‥‥おはようございます、皇女様」
「‥‥‥‥おはよ」
この旅ではもちろん化粧をしてくれる人も髪を整えてくれる人もいない。
離宮にいる時とは違う、この自然体すぎる姿を見られることにはやっぱり抵抗がある。
寝起きの顔をあまり見られたくなくて、私は寝床から外に這い出た。
ーーー朝日が眩しい。
「寒っ」
マントを着なきゃダメだわ、と寝床を覗き込むとちょうどレオンも外に出てきた。
「火が消えてますね。今付け直します」
そう言ってレオンは私にマントを被せてくれる。
私がくしゃみをしたせいでレオンのことも起こしてしまったのに、全く嫌な顔をせずに直ぐに動き出せるなんてすごいわ。
やっぱり、レオンは甲斐甲斐しい。
ちなみに初めて2人で宿に泊まったときに、レオンが髪を結ってくれようとしたことはあった。でも髪に触れられるのが照れ臭くて自分で結うことにしていた。スカーフを巻くから、正直適当でもなんとかなってしまうのだ。
冷たい川の水で顔を洗う。既に目は覚めていたけど更にシャキッと目が覚めた。
「レオン!川の水、すごい冷たいわ!」
「雪が降る前に果実が見つかるといいですね」
軽く冗談を言い放ったレオン。でも私はその冗談を間に受けてしまった。
「‥‥そんな時期まで山暮らしはさすがに無理よ‥。凍え死んじゃうもの‥」
「あはは。その前に必ず魔女に見つかりますけどね」
そうね、冬の寒さも問題だけど、一番の問題は魔女の母だわ‥。
「こうしちゃいられないわ。早く探しにいきましょう!」
「まぁ、まずは朝食でも食べましょう。スープとパンくらいしか用意できませんが食べないよりはマシです」
そう言うとレオンはテキパキと朝食の準備を始めた。レオンの生活力に心底感心する。
ーースープは体の芯を温めてくれた。ハーブや香料で味付けされた優しい味。
「レオンは何でもできるのね」
「そんなことないですよ。できないことだって沢山あります」
「例えば?」
「んー‥‥。皇女様のことをこのまま攫ってしまう、とかですかね」
「へ?」
予想外の言葉すぎて思わず変な声が出た。
攫うって‥。いま“幸せな未来”の為にこんなに頑張っているのに‥?
「‥冗談ですよ。ちゃんと皇女様の幸せを考えてるから、こうしてサバイバルをしてるんじゃないですか」
動揺する私とは打って変わって、レオンは涼しげな表情のままだ。
「‥‥‥私の幸せを考えないなら、私を攫いたいってこと‥?」
「そういうことになりますね」
言葉がまるで出てこない。何故‥?という怪訝な顔の私を見て、レオンは小さく吹き出すようにして笑った。
「なんていう顔してるんですか。‥‥皆が幸せになればいいって勿論俺だって思いますよ。でも、俺、正直皇女様がいればそれでいいんですよね」
「‥‥私を救いたいとか、なんとか、言ってたじゃない‥」
「はい。だからいま全力で力になってるつもりですけど」
「‥‥‥‥過去に戻れたら、離れ離れになるかもしれないから‥?だからそんなことを言ってるの?」
レオンは伏し目がちに口角を上げた。なんとなく寂しげなその表情を見ていると、胸がギュッと苦しくなる。
過去に戻るという魔法が、どんな効果をもたらすものなのかがわからない。
過去をやり戻した時、奮闘している今の記憶があるのかわからない。
魔女狩りなんてない幸せな未来を作れた時に私たちの今の記憶がなければ、私はただ皇女として平凡に過ごすだろうし、レオンは騎士にすらならないかもしれない。
「‥‥わがままなんですよ、実は俺。でも大丈夫です。皇女様の想いを優先させますから。‥‥俺、もう猫じゃなくて貴方の騎士ですし」
離れ離れもなにも、そもそも私たちは男女の関係じゃない。想いが通じ合ってるわけじゃない。それなのに‥
「やり直した未来でも、私の騎士になってよ」
私はそんなことをレオンに言ってしまった。誰かに何かをお願いすることなんて、今まで殆どなかったのに。
魔女とか猫とか、そんなしがらみを取っ払った状態で出会えたら‥きっと素直に好きだと伝えられるんだろうな。
「‥‥俺だって騎士になりたいですけど‥そんなこと言われても保証なんて‥」
「私も貴方と一緒でわがままなのよ、実は」
ふんっと強めに言い切ると、レオンは数秒経ってから小さく笑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる