最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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85話

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 ジュンさんがバートン卿の手当を終わらせてくれた頃、入り口の方から聞き慣れた声がした。

 ぶっきらぼうな印象を植え付ける、幼い女の子の声‥。

「なんだい客がいたのか珍しい」

 ばっと振り返った私たちは、その姿を捉えて固まった。

 ーーーーー魔女の母。

「フェリシテ様!!」

 ジュンさんは今までよりも1オクターブ程高い声を出していた。魔女の母と会えたことを喜んでいるみたい。

 フェリシテ‥様‥?

 その見慣れた姿を見て思わず身構えたけど、先程までと身につけているものも、纏っているオーラも全然違う。

 どこか凛としている瞳は、曇りのない太陽のような明るさを持っていた。毒気が全く感じられず、自然に浮かんでいる笑顔からは人の良さまで感じられそうだ。

 魔女の母の名前は‥フェリシテというんだ‥‥。
恐らくレオンすら知らなかった名前。長い年月の間に無くしてしまった名前だったのだろう。

 私たちが知っている魔女の母とはあまりに印象が違う為、思わず不自然な程に凝視してしまっていた。

「私の顔に何かついてるかい?」

 魔女の母はそう言って目を細めた。どことなく戯けてみせているようにも見えるその素振りに、ますます目が離せなくなる。

「い、いえ‥、ついてません!」

 私がそう言うと、魔女の母はケタケタと可愛らしい声をあげて笑った。

「なんでそんなにカチンコチンなのさぁ~!さては私の噂を聞いてたんだな!想像していた“魔女の母像”とは違ったかい?私はもうずぅーっとこの子供の姿なのさ。ふふ、ヘンテコだろう?」

 あ、明るい‥!それに、なんだろう‥言い表せない“優しさ”が言葉と態度の端々から滲み出ているように思う。

 あぁ‥なんて言うんだろう‥。そうだ、博愛‥。とにかく人が好き、といった感じ‥。初めて見る私やレオンやバートン卿のことも、もう好きだと思っていそう。そう言っても過言ではない程の、人懐っこさ。

「‥‥俺たちはあんたに会いにきたんだ」

 レオンが難しい顔をしたまま小さく口を開いた。レオンもまた、いまの魔女の母の姿との違いに戸惑っている様子だ。

「魔法でも授けて欲しいのかい?ちょうど魔力が余ってる。あんたたちの中で1人だけなら力をやってもいい」

 魔女の母はそう言うとニカっと爽やかな笑みを見せた。

「‥‥‥俺と‥‥‥皇女様はもう魔法が使える」

「「レオン!!」」

 まだ何ひとつ作戦を練ってないのに勝手にカミングアウトをしたレオンに、私とバートン卿の焦りの声が重なった。

「はぁ‥?魔法が使える‥それに、皇女様だって??何言ってんだあんた‥」

 案の定魔女の母は口をあんぐりと開けて首を傾げてる。コロコロと表情が変わる、本当に明るく気さくな人だ。

「この怪我をしている人は、むしろあんたに呪いをかけられた」

 レオンは動揺する私たちを尻目に、次々と暴露していく。
バートン卿の吸血鬼の呪いのことを、レオンは猫だったから知っているんだ‥。にしても、一体どこまで話すつもりなのかしら。

「レオン、一旦やめましょう」

 私がそう言ってレオンを止めようとすると、レオンは首を横に振った。

「こいつは俺たちが知るあいつとは違います。説明すれば、むしろ協力者になってくれるかもしれない」

「え‥?」

 確かに、私たちが知る魔女の母とは全く異なっているけど‥いくら今の彼女が良い人に見えても、何も対価なく協力してくれるだろうか‥。
 それに“魔女狩り”の話を聞いたら逆上して今すぐにでも王宮を襲ってしまうかもしれない。

「お前ら!いい加減にしろよ!!フェリシテ様が誰かに呪いをかけるだと?!喧嘩を売ってんなら上等だ!!あたしがボコボコにしてやる!!表に出ろ!!!!!」

 ジュンさんが本気で怒っている。どうやら魔女の母を相当慕っているようだ。

「ジュン落ち着け。また頭に血が上りすぎて鼻血が出るぞ。ーーあんたたちの話、詳しく聞かせてくれ。正直私にはあんたたちが何を言ってるのかさっぱり分からないんだが」

 魔女の母はそう言いながら困ったように頭をぽりぽりと掻いていた。

 レオンはまるで「信じろ」と言わんばかりに私の目を力強く見ていた。うまく誤魔化す言葉も見つからないし、ここまできたらもうレオンの話力を信じるしかない。
 若夫婦から服を買い取った時をはじめ、レオンはなかなか交渉に長けたところがあるし‥

「単刀直入に言う。俺たちは“過去に戻る”魔法で未来から飛んできた。俺たちが生きている未来では、魔女狩りが行われて多くの人が死んだ。当然あんたはブチギレて自棄になって暴れるし、あんたも俺らもみんな不幸だ。だから俺たちは過去をやり直しにきた。あんたの力を貸してくれ、魔女」

 交渉とかじゃなく‥正真正銘の‥単刀直入だわ‥。

 私は額を押さえてヨロヨロとよろめいた。
果実を死ぬほど食べたけど、自分の体の中にどれだけの魔力が残っているのかもわからない。
 もしこの時代で何か失敗しても、やり直せるかわからないのに‥。レオン、思い切りが良すぎるわよ‥!!

 あ、でも‥元々通常のリセット魔法では朝に戻った時に魔女の母も記憶を持ったまま朝を迎えていた。
 ーーいまの魔女の母が私たちの存在を知らなかったということは、魔女の母も記憶を持ったまま昔に戻っているわけではないってことね。
 1日以上前に戻ったから?それともこの時代の魔女の母にはそういった力が働いてない‥?そこらへんも全然分からないわ‥。

 分からないのに、レオンったら‥。


「ぷははは、なんだよその話!!なんていう悲劇だよあははは」

 魔女の母は腹を抱えて笑っていた。本気でツボに入ったのか、目尻に涙まで浮かべている。

「レオン、お前!!」

 堪らず声をあげたバートン卿に対し、レオンは真剣に言葉を落とした。

「‥‥俺の予想が当たってれば、この方法しかないんです」

 ーーレオンはやっぱり何か考えがあるのかもしれない。

「‥現皇帝のアルフレッド皇帝陛下が崩御されたあと‥アロイス皇帝陛下の時代に魔女狩りは行われます」

 ここで笑い話になって話を流されて、中途半端に“魔女狩り”という暗いワードを植え付けるくらいなら‥信じてもらったほうがまだマシかもしれない。

 いつまでもゲラゲラと笑い続けていた魔女の母に対し、私はこの帝国の歴史を伝えて信憑性を与えることにした。

「はぁ?あんたら本当に何を‥」

 ーー魔女の母が訝しげにそう言い放った時のこと。
私の体が突然雷にでも打たれたようにバチバチと光を纏った。
 いや、私だけじゃない。レオンと、バートン卿も‥。

 もしかして私の魔法の効果で‥‥?
え、もう元の世界に戻ってしまうの‥??

 何もできてないじゃない!と焦った私は、魔女の母に向かってなんとか最後の一言を告げようと口を開いた。

「フ、フェリシテ様!!」

  ーー何故か魔女の母の名を呼んでしまった。

 そのことに驚きながらも、体に衝撃を受けてしたのだと察した‥のだけど。


「レオン‥バートン卿‥ここは?」

「んー‥どこか郊外の街でしょうか。アロイス皇帝陛下万歳、という旗を見る限り‥時代は進んだみたいですが」

 レオンは首を傾げながらそう言った。

「ーーレオン、わかっていることを話せ」

 バートン卿がそう言うと、レオンはコクリと頷いた。

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