今日も姉の物を奪ってやりますわ!(完)

えだ

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クール侍女と甘える侍女(コメディ無し)

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 朝の支度を終えたアンナはアレクサンドラの部屋へと向かうが、部屋の手前でスーザンと顔を合わせた。

「‥‥目の下にクマができているぞ」

 スーザンの言葉にアンナは少し肩を振るわせる。ジュリアの侍女たちは皆アレクサンドラの侍女達に警戒心を抱いている。ジュリアにキツくあたるアレクサンドラを、何故か心から慕っているからだ。そのうえスーザンは氷のような冷たさを持つ美人だ。震えたくもなる。

「‥‥歓迎、されていないのでしょうか‥」

 アンナは勇気を振り絞ってスーザンに尋ねた。もし歓迎されていないと言われれば、ジュリアに助けを求めるつもりだった。臍の匂いがする枕など、嫌がらせに決まっている。

「‥歓迎されていなかったら何だ?これは仕事。アリー様が要らないと言わない限り私たちはアリー様の侍女だ」

「し、しかし‥」

 いくら仕事とはいえ、ジュリアに泣きつくことで元に戻れるならば直ぐにそうしたい。ジュリアの温かくて柔らかな部屋に戻りたい。アンナの心は既に折れかけていた。

「いいじゃないか。例えガラクタでもプレゼントを頂けたのだから」

 そう言って、スーザンはアンナが凍るような笑顔を見せた。

「あ、あんなプレゼントなど‥」

「私はプレゼントなど一度も貰ったことはない」

 スーザンは間違いなくアレクサンドラの右腕だ。ジュリアの近くからスーザンを見ていても、彼女はいつ見ても完璧だった。

「そ、そうなんですか‥」

ーーーアレクサンドラお嬢様、ケチなのかしら‥。

「何が欲しいか聞かれたことはあるが」

「えっ?」

「私はここだけの話、アリー様を尊敬しているし、アリー様に誠心誠意尽くしたい。アリー様は親友のように接してくださるし、私たちはとても深い絆がある。でも、それはアリー様がそういう雰囲気を作って下さっているからできること」

 それはもちろん、侍女側が親友のように仲良くしましょう!と働きかけるものではない。
 アンナがどう答えていいのか分からずに言い淀んでいると、スーザンがまた口を開く。アンナはスーザンの口数が意外と多いのだと初めて知った。

「主人と侍女はお友だちではない。私はアリー様を敬っているから、そんなアリー様から易々とプレゼントなど受け取れない」

「‥っ」

 ここに来てアンナはやっと、スーザンが話しているのはジュリアとアンナのことなのだと気が付いた。

「日々努力を重ね、意識を高め、彼女の侍女に相応しくあろうと心掛けている。だがまだ足らない。アリー様を完全に支えるには私はまだ力不足だ。だからこそ、そんな私がアリー様からプレゼントを頂くなど恐れ多い」

「‥っ、で、でも、主人の方から与えられるのであれば受け取るのが筋では‥」

「私は主人に甘やかして貰うために侍女をやっているわけじゃない。
ご褒美が嬉しくて働いているわけじゃない。ましてや強請ねだるなど、その神経が信じられない」

「‥‥‥」

「‥これはあくまでも私の意見。アンナの考えを全て否定するつもりもないし、アンナが自分の行動が正しいと思うなら続ければいい。ただ自分たちの行動が、主人の評価に繋がっていくことだけは忘れるな」

 スーザンはそう言って、アレクサンドラの部屋に入っていった。
アンナは暫くそこから動けなかった。

 私だってジュリア様を心から尊敬しているし、大切に思ってる。
ジュリア様は優しくて、いつだって私を気遣ってくれた。それは、侍女の仕事をちゃんとやってるから、だからそう評価してくれたんだと思ってる。
 カタログを見て欲しいなぁと呟けば買ってくださる。ジュリア様はいつも笑顔で、私たちを認めてくれる。

 だけど、なんでだろう。
なんで私、今こんなに恥ずかしいんだろう。

 人によって物事の捉え方なんて違うし、主従関係だって色々ある筈だし、ジュリア様お付きの他の侍女たちだって、私がジュリア様におねだりしても別に何も言ってこなかったし。

 それに、主人の評価って‥どう考えたってジュリア様の方がアレクサンドラお嬢様よりも世間からの評価はいい。むしろ雲泥の差だと思うわ。

 そう、そうよ。私は間違ってないわ。

 だけど、あのスーザンさんがどうしてアレクサンドラお嬢様をあそこまで敬っているのか分からないし、『恥ずかしい』と感じた私の気持ちも分からなかった。

 だから、歓迎されていないのかもしれないけど‥もう少しだけ逃げ出さずにアレクサンドラお嬢様の侍女をやろうと思う。


 そして、アンナもやっとアレクサンドラの部屋に入ったのだった。





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役不足→力不足に訂正致しました!ご指摘ありがとうございます!
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