今日も姉の物を奪ってやりますわ!(完)

えだ

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姉妹に振り回されてます*レックス視点

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 社交パーティーから数日後のこと。

 俺は要領も良くて覚えも早かった。人付き合いのコツも早々に掴んだから、波風立てずに無駄な苦労もせずに、楽に楽しく生きてきた。
 他人の為にめちゃくちゃ頑張るとか、誰かの為に必死になるとか、自分が代わりに犠牲になるとか、そんなの無縁でしかなかった。
 他人に必要以上に興味を抱かなかったし、執着もしなかった。感謝されたって何も感じなかったから本当サラッと生きてきたんだ。それでも十分人間関係は築けていたから。

「‥また姉妹の話?」

 手に入れた情報を伝えてくるブライ。ジュリアさんと婚約しているからか、その近辺の情報がかなり多いな。

「ええ。やはりアレクサンドラ嬢はジュリア嬢のものを散々奪っているようです」

「へぇ」

 そうは見えないんだけどなぁ。どちらかというと、これを使いなさいよ!と押し付けてそう。

「それと‥‥申し上げにくいのですが」

 ブライが気まずそうに咳払いをした。

「‥なに?」

「‥マティアス殿下がジュリア嬢と手を繋いで走っていたそうです」

「あー‥あの時ね‥」

 猿と格闘した後に2人は一緒に来たもんな。大方、猿を探す殿下とアレクサンドラ嬢を探すジュリアさんがタッグを組んだって感じか。
 というかあの時、アレクサンドラ嬢の姿をジュリアさんが追いかけ出したから俺も走ったのに、ジュリアさんはずっとぐるぐる回ってたんだよな。あれはなんだったんだろう。俺はアレクサンドラ嬢の叫び声を聞いてそっちに走っていったからその後は分からないんだけど。

「あまりショックではなさそうですね‥」

「まぁ政略結婚だからね」

 俺もジュリアさんも、気持ちがあるわけじゃない。ただ‥もし殿下がジュリアさんに惚れてしまっていたらちょっと厄介だ。略奪愛で婚約破棄って、ドレイパー公爵家にも傷がつくし、それこそ噂好き達がこぞって喜ぶぞ。そうなったらジュリアさん、恰好のネタになってしまうだろうな。

「‥‥それと、もうひとつ申し上げにくいことが‥」

「まだあるのか‥」

「‥‥アレクサンドラ嬢がレックス様に熱烈に恋をしているそうです」

「ぶはっ」

 俺は見事にお茶を吹き出した。気管にまで入り込んで暫く咳き込む羽目になった。

「ですので‥これらの噂をひっくるめて考えますと、恐らくジュリア嬢は妹の為に身を引こうかと傷付いて苦しんでいる中、マティアス殿下がジュリア嬢に手を差し伸べたのではないかと推測できます」

 ブライが自信満々にそう言い切った。その鼻はエッヘンと言いたげだ。

「‥‥はぁーーーーーー。‥‥世間にそう思わせる為だよ」

「え?」

「最後のはアレクサンドラ嬢自身が流した噂だ」

「えぇ?!まさか。なんの為にですか!」

「ジュリア嬢を守る為だろ」

 ブライは暫く黙り込んで、また首を横に振った。どうしても信じられないらしい。俺も心からそう思う。何やってるんだ、と。

「だ、だって、アレクサンドラ嬢はジュリア嬢のこと‥」

「大好きなんだよ、馬鹿みたいに!!平気で自分を犠牲にするってことだろ‥はぁぁぁ‥‥」

「えぇえ?!なんですかそれ、ただのツンデレじゃないですか!」

 俺は久しぶりに項垂れた。ここ最近この姉妹に振り回されすぎてる。

 特にアレクサンドラ嬢。誰かの為に必死になるなんて嫌だったのに、彼女の代わりに猿と格闘して咬み傷まで負った。人に感謝されても何も思わなかったのに、顔を真っ赤にして感謝をする彼女に心が弾んだ。

「あぁーー、もう‥」

 今だってそうだ。アレクサンドラ嬢が勝手に自分でそんな噂を流したんだから、落ち着くまで無視すればいいんだ。それなのに、今すぐにでも動きたくて仕方がない。

「レックス様‥大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない。明日ノーランド侯爵家に行く」

「え、えぇ?!急ですよ」

「仕方ないだろ、明後日は仕事なんだから」

 ブライは散々文句を言っていたけど、文句を言いたいのは俺の方だ。
猿を追いかけようとしたあの時もそう。あんなにツンケンしてるくせに自分のことを顧みない。もう少し自分を大切にしてもらわないと。‥ってどうして俺がこんなに苛立ってるんだろう。‥‥あーー、振り回されてる気がする。それも、俺が勝手に。

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