今日も姉の物を奪ってやりますわ!(完)

えだ

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侯爵家の令嬢として!!

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 何度思い返して叫び声をあげたことでしょう。少し冷静になる度に羞恥心から目が潤んでしまいます。その度に私は布団を被り、ベッドに頭をのめり込ませてしくしくと泣きました。慌てる侍女たちに「大丈夫よ」と声を掛け、ソファまで戻り‥また羞恥心から叫び声をあげて布団に戻る。その繰り返しです。断言致しましょう。私が泣くのは恐らく10年ぶりですわ。

 布団に篭ったままでは心配掛けてしまう、と起き上がるのですがもう既に異常な程に心配を掛けてしまっているでしょう‥。

「‥‥アリー様、気分が安らぐ紅茶をご用意致しました」

「‥‥‥ありがとう、スーザン‥‥」

 また叫び声をあげそうになったその時でした。扉がノックされ、ジュリアの声が聞こえたのです。

「‥‥アリー‥‥アリー、大丈夫?」

 きっととても大きい声を出してしまっていたのね。

「大丈夫と伝えて‥」

 スーザンにそう伝えると、スーザンは頷いて扉の方へ向かいました。ジュリアにこんな情け無い姿を見せるわけにはいきません。本来ならばもちろん侍女たちにもこんな姿は見せたくないのですが。

 スーザンがジュリアに伝えてくれたようですが、ジュリアは引き下がりませんでした。扉の隙間から私の姿を確認すると、「あぁっ!!」と大きな声を出したのです。

「泣いてる?!な、泣いてるのアリー?!」

 あ、見られたわ。というか廊下で大声を出さないでほしいわ‥!私はこの人生史上一番の失態を大ごとにしたくないのよ!

「アリー‥」

 スーザンが私を見ました。「引き下がりませんよ」という目です。私もこのままでは沢山の人に泣いてることがバレると思いました。はぁ‥部屋に入れるしかないわね‥。スーザンにコクリと頷いて合図すると、スーザンがジュリアを部屋に招き入れました。

「アリーっっ!!」

 ジュリアが眉を下げながら私のところへ駆け寄ります。心配そうな、泣きそうな顔。

「お姉様、心配をおかけしてすみません」

「一体なにがあったの?!」

「先程両目の眼球に蜂が止まったのです」

「ええっ?!」

 素直に理由を話せるわけがないじゃない‥。
惚れ薬だと信じ込んで、あろうことかドヤ顔で問い詰めて自爆したのよ‥?それに、惚れ薬云々はレックス様がまだジュリアと婚約中の話だもの。横恋慕みたいなものじゃないの。ジュリアには絶対言えないわ‥。

「でももう大丈夫ですの。目の痛みはなくなりました。あまりの恐怖だったので、思い返す度に叫んでしまいましたが‥」

「そ、そうだったんだ‥怖かったね‥刺されなくてよかった‥」

 ジュリアがホッと息を吐いています。相変わらずチョロいです。

「だからもう安心してくださいませ」

「‥うん。‥さっきまでレックス様が来てたでしょ?だからレックス様絡みでなにかあったのかと思って‥‥」

「何で私がレックス様のことで心を乱さなくてはならないのですか?そんな心配いりませんわ!私、レックス様に興味も関心もございませんので!!」

「‥‥」

 ジュリアが生意気にジト目をしていますわ。そういえばジュリアは、私がきっとレックス様のことを好きになるとかなんとか言ってたわよね‥?
 え‥‥私、ジュリアに予言されていたということなの‥?チョロいジュリアに予言されるなんて、私‥もっとチョロいじゃないの‥。

「さ、お姉様。私はもう寝ますわ。心配してくださってありがとうございました。レックス様は無関係ですので。蜂のせいですので。おやすみなさい」

「‥あ、うん‥」

 私はジュリアを半ば強引に部屋から追い出しました。


 ジュリアが来てくれてよかったわ。おかげで少し冷静になれました。
‥ジュリアとレックス様の婚約が解消されましたけど、レックス様は公爵家嫡男。きっとまたすぐに縁談が決まることでしょう。
 私は勝手に自爆して相当恥をかきましたが、ジュリアと婚約を解消したからにはノーランド家とレックス様の繋がりもなくなる筈です。

 認めましょう。私は惚れ薬と勘違いしてしまう程に、知らないうちにレックス様に惚れていたのでしょう。
 しかし、私たちの関係性はまだあまりにも浅く、レックス様のことも深く知っているわけでもありません。

 私が一方的に想いを抱き、そしてそれを無意識に告げて瀕死になりました。私にとっては負の思い出でしかないのです!!
 ジュリアの予想通りに恋するのも、一癖も二癖もあるレックス様に惹かれていたのも、全て癪なのです!!!!!

 人の想いは1から100まであるのです。
私はまだ“無意識に惚れてた”段階。ですから!私は!!この気持ちなんてすぐに掻き消して、レックス様を脳内から消去致しますわ!!

 だって!!あのレックス様に片想いだなんて癪でしかないもの!!
プライドが許さないわっ!!


「アリー様‥また何か厄介なことを考えているんじゃ‥」

「厄介ってなによ厄介って!侯爵家の令嬢としてこれ以上恥をかかないように決意したの。当然のことよ!」

「‥‥(絶対厄介なこと考えてますよね‥‥)」

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