47 / 51
番外編
純白
しおりを挟む金の髪は今日のこの良き日にもアンナに整えてもらいました。純白のドレスはマーメイドラインのもの。裾は大量のレースとシルクオーガンジーでふわふわになっています。
ボリュームのあるドレスもいいと思いましたが、ジュリアのウェディングドレスが非常にボリュームのあるプリンセスラインのドレスでした。その為、ボリューミーなドレスは少しお腹いっぱいというわけです。
先日のジュリアの結婚式‥ジュリアは前髪と後ろ髪を全て綺麗にまとめ上げ、上品なデザインのティアラは頭をぐるっと囲っていました。
ジュリアの小顔が際立ち、それはもう本当に本当に綺麗で息を飲んでしまうほど‥
「アレクサンドラ様?!ど、どうして泣いているのですか?!」
アンナの声に我に返りました。
「‥‥欠伸をしただけよ」
私の体にパウダーを塗っていたスーザンが、白けた目で私を見ております。
「‥‥‥アリー様。ジュリア様の花嫁姿を思い出して泣くのはもうそろそろ終わりにしてください」
「な!‥何を言っているのかわからないわ。そんなくっだらないことで泣くわけないじゃない!」
鏡に映る私はなんだかばつが悪そうな表情を浮かべていました。
‥認めるわけにはいかないもの。ジュリアの花嫁姿に心を打たれただなんて、絶対に周囲に知られたくないわ!!そんなの恥ずかしいもの!
スーザンは何も言わずに私の目にハンカチを当てました。なんだかんだ言いながらも、私の頬を流れた涙をそっと拭ってくれたようです。
「さぁ、アリー様。そろそろ行かなくてはなりません」
「‥‥わかってるわ」
「扉の向こうにレックス様がおりますので」
「‥‥もういるの?早すぎじゃないかしら」
レックス様というフレーズを聞いただけで心がそわそわしてしまう。
人生一度きりの花嫁姿、変じゃないかしら。‥レックス様はどんなお姿をしているのかしら。
そんなことを思うと一瞬で全身の血が沸騰してしまいそうになります。
ジュリアの結婚式の時、ジュリアの花嫁姿を見たマティアス様は感動して涙を流していました。そんなマティアス様を見て、改めてジュリアのお相手がマティアス様で良かったと心から思ったのです。
レックス様は私を見て、どんな反応をしてくれるのでしょうか。
「至って時間通りですよ」
「‥‥そ、そう」
扉が開かれるのをまじまじと見つめながら、なんとか心を鎮めようとしましたがもちろん静まるわけもありません。
どこかスローモーションのように、レックス様の姿がゆっくりと露わになりました。
ぱぁっと顔を上げることもできず、レックス様の白い靴の輝く爪先をジッと見つめました。
ど、どんな姿なのかしら。普段から無駄に端正だから‥きっと今日も素敵なんでしょうね。わ、私の姿を見てどんな顔をするのかしら‥?!
バクバクと鳴り響く心臓が痛くて、私はぎゅっと目を瞑りました。
「‥‥アリー‥」
レックス様の声が聞こえたので恐る恐る目を開けましたが、レックス様の足元を見ていた筈の私の視界には薄水色のドレスが映っていました。
ーーーえ、薄水色‥‥?
「アリィィィイイイイイイ!!!!!!」
「‥‥お、お、お姉様‥‥‥?!」
ジュリアが肩で息をしながら顔を真っ赤にして、滝のように涙を流しています。
なんというか、色々と混沌としています。あれ?いま私、レックス様との感動のご対面の瞬間だったのでは‥‥?
「アリー、アリーッ‥‥‥!綺麗だよぅ‥綺麗だよぅ‥!!」
ジュリアは今‥きっと人生で一番興奮していることでしょう。彼女の鼻からは鼻血がツーっと流れ出ています。側に控えていたライラがジュリアの鼻血を素早く拭き取ると、ジュリアは細長く息を吐いていました。
「‥‥‥お姉様、なぜここに‥」
レックス様はにっこりと微笑んだまま固まっています。
まるで一生に一度の感動の場面を打ち消されたような、そんな笑顔です。ええ、そのままの意味ですが。
「あのね、私ね、どうしても‥どうしてもいち早くアリーのウェディングドレス姿を見たかったの‥」
庇護欲をそそられるような泣き顔を見せられましても。
「‥‥‥どうしましょう。言葉が出ませんわ」
「私も!!アリーの花嫁姿がね、素敵すぎてね、全然言葉が出ないの!」
「出てますわ。お姉様。この場にいる誰よりも、間違いなく」
「あぁぁ、純白のアリー‥あぁぁぁ、」
おっと‥
呆気に取られてしまいましたが、私がいま対峙すべきはお姉様じゃありません。
「レ、レックス様。すみません、こんなことになってしまって」
レックス様はジュリアを視界に入れた後に小さく笑っていました。セットされた黒髪に、吸い込まれそうな瞳。何度見たって慣れないけど、今日はまた一段とキラキラしています。
「‥‥いや、許可したのは俺だから‥」
「‥‥え、許可?」
「うん。ジュリアさんに頼まれたんだよ。お願いだから一刻も早くアリーの花嫁姿を見せてくれと」
な、なんですって‥‥?
まぁ無許可だったらいまこの場にジュリアはいないのでしょうけど‥‥わざわざ事前に許可取りをしていたなんて‥
「‥‥何故、お許しになられたんですの?」
私がそう尋ねると、レックス様はくしゃっと可愛らしい笑顔を見せました。不覚にも胸がキュンと高鳴ります。
「許可しなかったらジュリアさんに一生恨まれるだろうからね」
そう言って笑うレックス様を見て、私はこの人と結婚できて良かったと心から思いました。
私たちの姉妹の理解者でいてくれるレックス様に、一生添い遂げたいと改めて思ったのです。
「‥アリー‥‥本当素敵だよぅ‥」
「ふふっ‥‥もう‥仕方ありませんわね。一生に一度しか見せませんから、その目にしっかりと焼き付けてくださいませ」
「うんっ!!」
ーーーこの日から数年経っても、顔を合わせるたびにジュリアはこの日のことを興奮しながら話すのです。目に焼き付けてと言ったことを後悔したのは言うまでもありません。
0
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
【完結】ちょっと待ってくれー!!彼女は俺の婚約者だ
山葵
恋愛
「まったくお前はいつも小言ばかり…男の俺を立てる事を知らないのか?俺がミスしそうなら黙ってフォローするのが婚約者のお前の務めだろう!?伯爵令嬢ごときが次期公爵の俺に嫁げるんだぞ!?ああーもう良い、お前との婚約は解消だ!」
「婚約破棄という事で宜しいですか?承りました」
学園の食堂で俺は婚約者シャロン・リバンナに婚約を解消すると言った。
シャロンは、困り俺に許しを請うだろうと思っての発言だった。
まさか了承するなんて…!!
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さくら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!
山田 バルス
恋愛
王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。
名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。
だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。
――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。
同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。
そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。
そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。
レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。
そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる