前世は勇者の母だった(完)

えだ

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第6話

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「寝ている間に間者に殺されたらどうするんですか!」

「アデルを狙う間者なんて何処にいるっていうんだよー‥」

「私は!ウルフ家の一人娘なんですよ!」

「大切な一人娘だからこそ少年と同室で寝かせるなんて言語道断と言っているのであってー‥」

 父と私は寝巻き姿で言い争っていた。傍にいるノアは眠そうに目を擦っている。

「ノアはまだ幼いんですよ?何を心配しているんですか」

「変な噂が立ったら将来の婿探しにも支障がでるかもしれないし‥それにノアはまだ幼いからこそ、間者がもし来たってやっつけられないでしょ」

 うっ。父の癖に正論を‥‥!!
普段間抜けだと認識している父に言いくるめられるのだけは避けたい。愛しい娘のこんな胸中を両親が覗いたら、どれほどまでに驚愕するのだろうか。
 だが、私がこう思うことも仕方ないことだと思う。今世ではまだ10歳。前世の両親と暮らした年数の方が長い上に‥前世は誇り高きロザリー家だった。ロザリー家の両親はどちらも非常に厳格で、誇り高い人たちだった。
 今の両親は‥なんというかその‥。2人ともぽわんとしすぎているのだ。まぁ愛情は、正直今世の方が感じているのだが。

「父上、確かに今のノアにはまだ力がないかもしれません」

「それなら、この話はおしまいで」

「でも‥父上の仕事は人から恨みを買う仕事‥いつ私がその恨みを向けられるか分からないのです‥」

「うっ!」

「父上もご存知の通り、私には魔力もあります。自分の身は最低限自分でも守れるでしょう‥」

「そ、それならやっぱりノアは同室じゃなくたって‥」

「私は毎日‥今日襲われるかもしれない、と不安になりながら眠ればいいのですか?‥そんな時に心の癒しが近くにいればどれほど救われるでしょうか。この少年は近い将来私の最強の矛と盾になるのだと思える人がすぐ近くにいたら‥どれだけ安心できるでしょうか‥」

「うぅ!」


ーー数分後、私の部屋には私とノアの姿があった。

「勝った」

 心の中でガッツポーズを決めると、ノアが大欠伸をしながら首を傾げた。説明するのも恥ずかしい程の父との言い争いだった為、私はそのまま口を閉ざすことにした。

 天蓋付きの私のベッドの隣に、使用人用の小さなベッドが置かれた。これがノア用のものか。今日まで奴隷だったのであれば、この仕打ちに驚くのでは‥?

「‥‥俺ここで寝ていいの?」
 
「あ、あぁ。‥ふかふかだろ」

「うん‥‥すぅ‥‥」

「‥?!」

 むにゃ‥と即眠りについたノアを見て私は思わずきょとんとしてしまった。普通‥もっと興奮しないか?それともこちらが思っているほどの酷い暮らしはしていなかったのか‥?はたまた反応をする余裕すらないほどに眠かったのか‥?なんとも不思議なやつだな‥。



 カーテンの隙間から陽が差してきた。
恐らくもう少しでメイドのマリアナがドアをノックしにくる時間だろう。少しずつ目を開けて周囲を見渡して一瞬隣を見て驚いた。ーーそうだ、私はノアを手に入れたのだった。

「おはよう、ノア‥」

 そう言ってベッドの中から手を伸ばし、ノアの髪を触る。ふわふわで、サラサラでなんとも言えない心地よさだ。純粋無垢な表情で眠りにつくノアに、思わずため息が出るほど。

「朝から美しいな‥」

 ノアの髪を撫でた手を元に戻そうとした際にノアの耳に手が当たった。ノアの耳はふわふわの髪の毛に隠されているのだが、想像していたよりも随分と硬い。
 魔族が蔓延るこの世界では、魔族と人間の間に生まれた半魔人も少なからず居る。半魔人はツノが生えていたり、尾が生えていたり、爪が鋭利であったり‥と、人間と容姿が異なる部位がある。中には肌の色が緑だったり、唾に毒が含まれているという例も。
 私は口を一文字に結んだまま、暫く動けなくなった。昨日浴室でノアの体を見た時には、ノアの体に異変は見当たらなかった。でも、髪のせいで耳は確認できていない。緊張感からか呼吸を止め、ノアの髪をめくり上げた。

「‥‥‥‥はぁ」

 ノアの耳は正常だった。もし長く尖っていたら‥
もし、ノアが半魔人だったら。“勇者”になってくれるはずがないのだから。
 私は前世を強く意識しているせいもあって、魔族との共存なんて理解不能だ。魔族と結婚することも考えられない。だって私は魔族を淘汰するための家に嫁いだのだから‥。
 だけど世の中はいつのまにか変わってしまっていた。ノアの近親者にもし魔族がいたら‥ノアが魔族に対して友好的だったら‥私の願いは叶う筈もないのだ。

 だからこそ、四六時中‥ノアと共に過ごし、ノアの考え方を私色に染め上げなくてはならない。私と離れている間に魔族に心を許されては困るのだ。

「‥‥すごい顔‥」

「え」

 ハッと我にかえる。どうやらノアはしばらく前から起きていたらしい。

「ずっと鬼みたいな顔だったよ」

「‥‥そうか。
ノア、お前はここに来る前はどこにいたんだ?」

「えー‥普通にお家にいたよ」

 なんと。普通の家庭の息子だったのか‥?
それならグレイディ家の血筋を辿れるのでは‥

「お、お、お父さんとお母さんはいたのか?!」

「‥‥母ちゃんは死んじゃってる。父ちゃんはほとんど見たことない」

 そうか。母君は亡くなられているのだな‥。悪いことを聞いたな。
貧しくて売られてしまったのか‥?父君をほとんど見たことがないのなら一体誰がノアを育てていたのだ‥。

「‥そうか、‥申し訳ない」

「覚えてないから大丈夫」

 平然とそんなことを言ってのけるノアに、心が押し潰されそうになる。

「そうか‥。こ、ここでは私を母と思っていいからな」

 なんていったって、私は元勇者の母!そしてこれからお前を育てあげる女だ!!

「‥‥母?アデルが‥?姉ちゃんじゃなく‥?」

 うっ。

「‥‥よし、朝だ。起きようか」

「‥」

 ノアはどうして売られたのか。
どうして身近なところにいたのか。どこでどんな暮らしをしてたのか。

 これは早いうちに調べる必要がありそうだ。
家庭で過ごしていたなら、グレイディ家の血を追えるからな。

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