前世は勇者の母だった(完)

えだ

文字の大きさ
5 / 26

第5話

しおりを挟む

 夕食の時間となり食堂へ向かう。もちろん私の隣にはノアがいる。
あんなに抵抗していたのが嘘かのように、ノアはメイドや使用人たちの視線を拒むようにおとなしく下を向いて歩いていた。

 物珍しいものを見るかのような視線が私たちを襲う。そりゃあそうだろう。堂々と奴隷を連れて歩く令嬢がいるはずない。しかも私はまだ10歳なのだ。
 それに、ノアの容姿が天使すぎるのもこの視線の原因なのだろう。まぁその容姿を利用しないわけにはいかない。

「ア、アデル?!その少年は‥!なぜここに連れてきた!」

 食堂に着くなり、父が驚きの声をあげる。おっとりしている母ですら「まぁ!」と大きな声を上げた。

「素敵な誕生日プレゼントをありがとうございます、父上」

「貴方‥娘へのプレゼントが少年‥ですの?」

 笑顔の私とは裏腹に母の顔が思いっきり引き攣っている。

「な、南国の王族に人気らしいんだよー!」

 私が以前言ったハッタリを懸命に母に伝えているが、そんな台詞じゃ母が納得するわけないじゃないか。本当に商人なのか?父よ‥。

「母上。彼の名はノアといいます。
ノアは南国の王族が求めているという稀少な血を継ぐ子供。このような天使のような容姿を持ちながら、魔力や体力に優れて高い戦闘力を持ち、その上非常に従順‥主人となった者を死ぬまで守り通すとも言われている程なのです」

 嘘も方便ということだ。こうして事実を織り交えながら伝えれば、真実味も増すというもの。

「ま、まぁ‥」

 母の表情が変わった。まるで私も欲しい‥と言わんばかりの目の見開き‥。まぁ当然の如く容姿と戦闘力以外はハッタリなのだが。ノアを私と共に行動させる為にはここまで言わなければ許されないだろう。

「ノアの魅力、伝わりましたか?
私は父上と母上の血を継ぐウルフ家の長女です。ウルフ家を守っていく為にも優秀な側近が欲しい。‥裏切りという一番の恐怖を考えずに済む側近が。
ノアと兄弟のように幼少期を過ごしながら、時が来たら彼には護衛もできる側近になってもらえれば‥。そう思っています」

 悪徳商家などいつ潰れたって構わない。ウルフ家に誇りなんて持っていないのだからどうなってもいいのだ。ただ愛娘にこう言われれば落ちない親はいないだろう。
 爵位の高い家からまだしも、奴隷商を営む子爵家。ここまでのハイスペックな人材だと伝えれば奴隷を身近に置くことへのハードルも下がるだろう。
そのうち父や母の方から「娘の護衛」なのだと周囲に言うようになるかもしれないな。

「‥ノアです」

 ノアは父と母の表情を探るようにしながら小さく呟いた。その愛らしい姿に母は一瞬で心を奪われたようだったが、内心私は驚いていた。この幼さで、奴隷としてウルフ家に買われたという境遇で‥何故この場で挨拶ができるのだろう、と。勇者一族が故の流石の順応力‥とでも言うべきか。

「ど、どうやら必死に探しただけあってその苦労に見合う価値があるみたいだなぁ。ま、まぁ知ってたんだけどねー‥。もっと探そうかなー‥」

 ノアの将来性を印象付けたせいか、ノアの代わりに父がドヤ顔をしている。そしてそんな父に対して「素敵だわ」と褒め言葉を落としてあげている母は今日も煽て上手だ。

「本当に稀少な血ですから、他にいるかどうか」

 そう言う私の横で、ノアが口角を上げた気がした。
ーー笑った、のか?‥何故?自分が貴重なんだと知って嬉しくなったのだろうか。それにしては嬉しそうな表情には見えなかったのだが。嘲笑うような、それでいて蔑むような‥。

「そ、それもそうだなぁ!この世は魔族との共存の世界‥。
悪い商売を企てる人間たちも多いことだし、ノアには頑張って貰わなくてはいけないねぇ!」

 悪い商売をしているあんたが言うのか、父よ。
それに、私は魔族との共存の世界だなんて認めていない‥。まぁ、私ひとりが抵抗したところでこの世は1ミリも姿を変えないのだが。

「それにしても、父上はどこでノアを見つけたのですか?」

「そ、それがー‥、いつもやりとりしている取引先がいるんだけど、その人が急に寄越したんだよ」

「‥‥いつもやりとりしている取引先‥?」

 私の眉根に皺が寄った。
そんな身近なところに勇者の一族がポン、と現れるものか‥?

「貴方、アデルちゃん。ノアちゃんの前で話すには不躾なんじゃないかしら?ノアちゃん、一緒にお夕飯を食べましょう!」

 母の一言で私はハッと我に返った。
確かにノア本人の前で話す内容でもなかったな。ノア本人は特に気にもせずに食事に気を取られているけど‥。この話は今度父と2人の時に詳しく聞こう。

 ノアは先ほど菓子を散々食べたことを忘れているのかと思うほどに大量に食事を摂っていた。あまりの食べっぷりに見入ってしまうほどだった。
 父と母があまりにも娘を信頼してくれているお陰ですんなりとノアが受け入れられた気がするな。土台はうまく作れたようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました

由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。 巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。 今日も黙々と床を磨いていたら―― 「お前の磨いた床は、よく眠れる」 恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。 見た目は完全にラスボス。 中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。 勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。 光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。 戦争よりも、まず床。 征服よりも、まず対話。 これは、世界最強の存在に溺愛されながら 世界平和を“足元から”始める物語。 甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...