前世は勇者の母だった(完)

えだ

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第8話

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 広い中庭のベンチの木陰。
歴史書に目を通すノアを見ながら、ティーカップに口を付ける。

「‥‥なんかここ、いつも違和感あるんだよね」

「なにがだ?」

 ノアは正直頭も良い。記憶力がいいのだろうな。

「人類は人類を守る為に魔族と共存することにした‥‥って、おかしくない?」

「上から目線なところか?」

「うん。普通に協定結んだとも思えない」

 ノアの見解は正しい。歴史書によると、魔族と共存を始めたのは私が死んですぐあとのこと。
 あんなにも『打倒!魔王!』を掲げていたオズバーン家は、私が死んだあとに衰退してこの世から消えた。今では分厚い歴史書の中に一行書かれているかどうかほど。
 つまり‥

「私が思うに、オズバーン家の内部抗争が原因だと思う」

「勇者一族のオズバーン家?内部抗争があったなんて書かれてないけど」

 そう。歴史書には”過去に魔王に立ち向かう勇者の一族があった”という文章しか書かれていない。

「‥後世まで伝わる偉大な一族が、何の罪を犯したわけでもなく勝手に没落するわけないだろう」

「それこそ‥魔王がオズバーン家を皆殺しにしたんじゃないの?」

「魔王が直々に脅威を丸潰しにしたのなら、何故その後わざわざ人間と共存する道を選ぶんだ」

「確かに‥」

 私は生まれ変わるまでに悠久の時を経たわけでもない。
それなのに、オズバーン家やグレイディ家についての歴史はほぼ残っていないのだ。まるで意図的にそうさせてるかのように。

「オズバーン家は誇り高き勇者の一族。皆、勇者を守るために剣の道を極める。しかし‥中には『何故自分が勇者じゃないんだ』と傲慢な奴もいた」

「‥‥それ何ページに書いてあるの?」

「‥どこかで聞いた話だ。とにかく、そういった裏話を踏まえれば全貌も見えてくるってことだ」

 大方‥私の首を魔王に差し出したのではないか。
私の死の直後についての出来事は私にも分からない。ただ‥私が死ねば勇者は勇者の力を得られない。つまり魔王の脅威は消えたのだ。交渉する為の条件にはなり得るだろうな。

「‥‥なんで辛そうな顔をするの?アデル‥」

 私の視界いっぱいにノアが映り込んでいる。今日も天使だなぁお前は。

「辛そうな顔などしていない」

「‥歴史書を見てるといつもそんな顔になるよ、アデルは」

「そんな顔とはどんな顔だ。
だいたい、歴史書は薄っぺらい内容のものばかり。他の視点のものはないのか」

 ウルフ家にある歴史書も街角で市販されている歴史書も中身は大して変わらない。私が知りたい情報はなかなか書かれていないのだ。

「なら他の視点のものを買えばいいじゃん」

「‥なに?」

「魔族に伝わる歴史書だよ!それを見れば別角度でわかるじゃん!」

 なんと‥。その手があったか。
ノアに言われなければずっと気付けなかったかもしれない。

 しかしいくら魔物と共存している世界とは故、魔物が集まる露店の地域などは危なすぎて近寄れるわけもない。ジェフとダンもただの成人男性、2人に任せるのも危険だった。つまり、気付いたものの手に入れることは困難な代物なのだ。
 13歳の誕生日プレゼントに、と父にお願いしてみた為、父も血眼になって探してくれていることだろうし‥とりあえずその時が来るまで待つことにした。



 私とノアは常に共に過ごした。
古代魔法をノアに教え込んだり、剣術を教える際には2人きりでないと都合が悪いのだ。
 父と母は私たちが2人きりで過ごしているのではなく、ジェフとダンが近くに控えていると思っているが‥勿論2人は人避けとして活躍してもらっている。彼らはとうの昔に買収済みだ。

「聞いてもいいか?」

 ノアが額の汗を拭いながら尋ねてきた。

「なんだ?」

「なんでアデルは古代魔法が使えるんだよ」

 部屋の中にキューブ状の魔障壁を張った中で私たちは魔法の訓練をしていた。キューブの中で魔法を使う分にはキューブの外に魔力が漏れることはない。

「勤勉な結果だ」

「どの本にも書いてないだろ。俺はアデルのおかげで古代魔法使えるようになったけど、こんなのみんなできないでしょ」

 それはそうだ。何故かこの世から古代魔法に関する書物が片っ端から消え失せていたのだから。年配者に聞けば分かるかと思い道行く老人に尋ねれば皆が「はて?」と首を傾げる始末。意図的にこの世から消され、その上知ってる筈の年代の人々は皆記憶操作をされているのだろう。私はその前に死に、全てを覚えているまま生まれ変わったのだ。

「何度も言うが、私の前以外で古代魔法を使うなよ」

「分かってるけど‥実践しないならいつ使うんだよ」

「‥まぁ、時が来たら使うんだよ」

 今この世にある魔法は細々と魔法陣を描いたり、読むのが億劫になるほどに長い詠唱を唱えるもの。
 古代魔法はあらかじめ精霊と契約しておき、使いたい魔法を精霊に伝えるだけなのだ。まぁ精霊と契約する為には契約呪文が必要で‥その契約呪文がまるまるこの世から消し去られているのだ。

「アデルって秘密ばっかりだよな。
全部言ってくれたっていいだろ!」

「今はまだ言わない」

「ふんっ。可愛くないやつ!」

 ノアは頼られてないと感じてつまらなく思っているのかもしれないが‥僅か8歳の少年に可愛くないと言われても吹き出してしまうだけだ。

「何笑ってるんだよ!!おい!!」

 おやまぁ真っ赤な顔して怒っちゃって。


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