前世は勇者の母だった(完)

えだ

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第15話

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 古代魔法を教えている時よりも、剣の技を教えている時よりも。
比べ物にならない程のあの真剣な表情。

ーー俺も、アデルを愛してるから。

 頭の中で木霊となって離れない。あの表情も、台詞も。

 何故だ?私も初めて言われたからか?
思いの外よっぽど嬉しかったのかもしれないな!愛息子の気持ちが!

「アデル」

「わっ」

 不意に名を呼ばれて、私は肩を竦ませた。

「‥‥アデルってなんでも知ってるじゃん?」

 宿屋のソファに腰をかけ、ノアが突然そんなことを言い出した。
なんだ?何か悩み事か?

「まぁ、知ってることなら答えられるが。何だ?」

「‥魔王って強い?」

「なに?‥魔王、だと?」

 なんと。いずれ吹っ掛けなければと思っていたが、ノア自らが魔王に興味を持ってくれるとは。

「うん。魔王。どれくらい強いんだろ」

「‥‥昔々に存在していた勇者たちは、それはそれは強かった。だが、魔王には及ばず命を落としたり‥魔王に勝てたとしても封印することしかできなかった。魔王の首を取れた勇者はいないのだ」

「‥ふーん‥‥じゃあ相当強いんだな。
(なんでそんなことまで知ってるんだよ)」

「そうだな。まぁ、ノアも日々強くなっていってるし、安心しろ!
ノアなら‥いつの日か魔王を討てると信じてる」

 私が力強くそう言うと、ノアはやるせ無さそうにため息を吐いた。
まさか魔王退治は気乗りではないのか‥?まぁ普通に考えて嫌だよな‥

「いつの日か、じゃ嫌なんだよなー」

「ん?」

「出来ればすぐ倒したいんだけど」

 私は驚いて飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。両手で唇を押さえ込み、なんとかそれを阻止する。

「ごほっ、ごほ‥‥‥‥はぁ‥お前は‥バカなのか?」

「いや、真剣だよ。今すぐにでも倒しに行きたい」

「何故だ。死にに行くようなものだろ。
第一魔王の居場所なんて誰も知らないんだ。長い旅をして見つけるしかないんだよ」

 私がそう言うと、ノアはきょとんとした表情を浮かべたあと、小さく咳払いをした。‥どういう反応だったんだ?今のは‥。

「とにかく、俺は早く倒したいの!
じゃないと手が出せないんだよ!」

「ん?‥手?」

「はっ!!いや、いや、違うんだ。何でもないんだ」

 よく分からないが、ノア様突然のご乱心である。
顔を真っ赤にして立ち上がったり座ったり。私を見たり、見なかったり。

「よく分からないが‥とにかくお前が魔王を倒したいという熱意は伝わったぞ、ノア」

「うっ。まぁ、そういうことだ」

 落ち着きを取り戻したのか、ノアは腕を組んで小さく頷いた。
一体何を慌てていたのだろう。

「まぁ魔王を倒す前に、まず四天王を倒してみて己の力量を測るしかないな。四天王全員倒せたら、魔王に挑んでみてもいいかもしれない」

 まぁそれでも魔王は圧倒的強さを誇るだろうから、四天王を倒せたからといって魔王を倒せるわけではないだろうが。
 あと数年したら“勇者の力”をノアに託し、四天王に挑戦させるのも悪くないな。

「四天王‥か。そいつらはどこにいるんだ?」

「え?あ、あぁ。東西南北の地域にそれぞれ魔塔と呼ばれる塔が立っていて、そのテッペンにいる筈だ。その塔の中にもびっしり魔族が詰め込まれてるらしいぞ」

「ふぅーん‥。じゃあこの西の地域にもいるんだな」

「あぁ。まぁ今はまだ手は出せないがな」

 もう少し冒険させてやってもいいのだろうか。
しかし四天王など、勇者の旅路の後半に出てくる最強の魔族。やはり今の時点で挑ませるわけにはいかない。
 ノアは現時点で相当強い。魔力は底知れぬし、体の動かし方も素晴らしい。きっと勇者の力を手にしたら、素晴らしい勇者になってくれるだろう。

 だが‥もう少し、もう少しだけ。まだ危険な場所に行かないで欲しいのだ。子離れできてないと笑われるかもしれないが‥

 ノアを失えば人類の光はなくなってしまう。
‥それに、ノアがいなくなったら私はどうやって生きていけばいいのか想像もつかないのだ。


ーー私たちもすっかり宿の生活が板につき、メイドや使用人力を借りずとも身の回りのことができる。勿論今は旅装束で、ドレスを着飾っているわけではないというのが大きな理由の1つでもあるが。長くて量のある紫色の髪はセットせずに、一本に纏めているだけだ。

 この日も慣れたように客室のベッドに入った。私は今日一日を振り返り、何故かまた不整脈に襲われながらも深い眠りについたのである。

 おやすみ、と挨拶を交わし合った筈のノアが血だらけで覆い被さってくるまでは。

「な、な、な?!‥ノア?!」

 ノアをベッドに寝かせ、灯をつける。
なんだ?!こいつ、夜中にひとりで修行してたのか?!

 大慌てで回復魔法を唱えると、ノアがやっと気がついたようだった。

「なにしてるんだ!馬鹿!!」

 夜中にひとりでなど、危険すぎる。
ここまで帰って来れなかったらどうするつもりだったんだ‥。

「あれ?‥疲れ過ぎて、寝落ちしちゃってた‥」

「は‥?」

 回復魔法を唱えている私を制するように、ノアが片手をあげる。

「大丈夫、全部返り血だから」

「な‥なんだって?‥‥一体魔族をどれだけ倒せば装束がここまで赤く染まるんだ」

 日中のノアは魔族の血飛沫を浴びないように巧みに体を動かしているのだ。それなのに今は何故こんなに‥

「西の地域の四天王、倒してきたよ」

「‥‥へ?」

 ノアは屈託なく笑っていた。
そして、ノアの手には魔王が四天王に送る魔宝石という宝石が握られていた。

 ノアは、勇者の力を頼らずして‥ひとりで魔塔を制覇し、四天王のひとりを倒してしまったのだ。

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