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第21話
しおりを挟むこの日、私たちは少し旅に出ると言って家を出た。1週間ほど北の方にと言っておいた。だが本当は違う。
「ここだよ、この森」
ノアが私の手を引く。この間「ドキドキする」と言ってしまって以降、ノアはふたりきりの時には私の手を取って歩く。独占欲の塊のような男。
ハグもあれからされていないし、キスも勿論していない。この間の瞼へのキスはもちろん事故だし、特段甘い雰囲気になるわけでもない。
気持ちが通じ合ったことでノアはとても幸せそうだが、猛獣のように襲ったりはしてこない。未だにずっと同じ部屋で寝ているが、いつも通りの毎日だ。
それもこれも、ノアには私には告げていない秘密があるそうだ。
そして、これからそのケジメをつけたいらしい。
「この森に何があるのだ?」
ウルフ領の端。何処にでもあるような森だ。
「正確に言うと、この森だけじゃなくて他の森にもあるんだけど」
「へー」
果物や山菜などのことか?薬草の可能性もあるな。
森に入って暫く歩く。しかし、ノアは果物にも山菜にも薬草にも興味を示さなかった。
なんなのだ‥?一体‥
「あ、あった。魔の沼地」
ノアはそう、ハッキリと言った。
その沼地を見てみるも、何の変哲もないただの泥水だ。
そもそも魔の沼地とは、勇者が長い旅路の末に見つける魔王城への入り口。しかもコロコロと場所が変わるらしく、1世代前の勇者が使った魔の沼地は次の世代の時には同じ場所に存在しなかったりする。こんな風にポンとあるわけがないのだ。
「冗談を言うようになったんだな」
なかなか面白いぞ、と笑ってやると、ノアもにっこり微笑んだ。
‥なんだその反応は。
「魔の沼地は、この世に数え切れないほどある」
「‥は?魔の沼地は一箇所だけだ」
「沢山あることを、魔族や半魔族は勿論勇者に教えない」
「‥‥ノア?なにを‥」
「だからなんとか情報を拾い集めた結果が、アデルの解釈なんだろうね」
ノアの眉が少し下がっている。不安そうな、そんな表情だ。
「ずっと言えなくてごめん」
「え‥」
「俺、半魔族なんだ。父親が魔族で母親が人間」
「う‥そ、だろ‥?」
目玉が飛び出してしまいそうだ。だってノアの体は“半魔族”の要素が何処にもない。
「本当だよ。引いちゃった?」
引くも何も、子どもは親を選べない。ノアにはどうしようもないことだ。それよりも‥
「引くわけないだろ。ノア、今まで辛くなかったのか?
散々魔族を倒してきて、同士討ちをさせられているようなものではないか‥」
「やめてよあんな獣や化け物と同じにしないで。それに、人間同士だって争ったり殺しあったりするでしょ。別にそこら辺はなんとも思ってない」
「‥‥わ、私がそう思わせたからだよな‥魔族を討つよう、私がそうやってずっとお前を育ててきたから」
「あのねー、はぁ‥もうぶっちゃけていい?」
「あ、ああ」
これ以上のぶっちゃけがあるのか。
「俺人間も魔族も半魔族もどーだっていい。どっちが勝ってどっちが死んでも何でもいい。アデルといたいから戦うの。もしアデルが魔族なら人類滅ぼしてるよ今頃」
ノアはそう言って柔らかく笑った。ノアの言葉に、私はやっと緊張が解れて肩の力を抜いた。
「ということはあれか」
「ん?なに?」
「私たちの子どもはクォーターということになるな」
「‥私たちの」
ノアがぽそっと反復し、少し頬を緩ませた。可愛い。
「というか今気付いたんだが、魔の沼地に入るつもりか?」
「え?うん」
「‥‥‥普通、こんな日常な感じのまま突然魔王倒しに行くか‥?」
「まぁ実家みたいなものだし、日常でいいでしょ」
「‥‥実家とは」
なんだか嫌な予感がする。
「俺、魔王城のなかで生活してたんだよね。アデルの元に行くまで」
「‥‥まおうじょう?何故」
よっぽど強い魔族の子どもだったのだろうか。だからノアはもの凄く強いのか?
「魔王の息子なんだよね、俺」
「ひゅっ」
呼吸音が漏れた。そして、暫く思考停止だ。ぐるぐるぐるぐると脳内にノアの言葉たちが、駆け巡っている。ぐるぐる、ぐるぐると。
「あ、でも安心してね。俺、魔王討つ気満々だから。一回しか見たことないし、なんの情もないから」
「ノア‥‥お‥まえは、魔王と‥勇者一族の‥ハーフ、なのか」
「そういうことになるね。あ、ていうか俺がグレイディ家の子孫だって気付いてたんだ」
「気付くも何も‥初めからわかってたよ。髪と目の色で‥
だから勇者の力を授けようとしたのだ‥」
「あ、なるほどね」
異常な強さの理由はわかった。ノアが裏切るとも思えないし本当に戦ってくれるつもりなんだろう。だが何だろうこの釈然としない感じ。
ーーーー誇り高き勇者の血、今ここに現る!!
というよりも‥魔王と魔王の息子のお家騒動!!感があるんだが。
ノアが勇者の力を受け取ってくれていれば、まだ勇者感強かったのかもしれないが‥‥
私の目の前には、前世の誇り高き勇者一族たちとまるでかけ離れた、最強(最凶?)の勇者(?)がいた。
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