前世は勇者の母だった(完)

えだ

文字の大きさ
20 / 26

第20話

しおりを挟む

 では善は急げだ!と父が何やら部屋を飛び出して行ったが、私は内心それどころではない。

「‥‥ノア‥その、結婚‥‥というのは、」

 どう切り出せばいいのか分からずに、言葉をぶつ切りに落としていく。

「結婚に抵抗があるの?」

 ソファに座り、いつの間にか長くなった足を組むノア。ノアはまだ14歳だが、この世界では14歳から結婚できる為法的には問題はない。

「‥‥ノアは、私を‥女として見てる、のか」

 質問しようとしたのだが、いやそうなんだろうな普通に、と脳内で解決してしまった為、語尾はハテナではない。自分で口に出して勝手に納得した形だ。

「‥‥‥」

 ノアが氷の視線で私を見ている。美少年の無言の怒りとは、怖い物だな、うん。ガタガタ震えてきたぞ。

「あ、そのっ、いや、なんというか」

 ここまで狼狽える自分に驚きだ。ノアの顔を見れないまま、ずっとノアの足首を見ている。視線を上げたら喰われる気がするのだ。大蛇に睨まれた野うさぎのような感覚だな。

「アデルは、俺を男として見てないと?」

 ひっ。声が、声が氷点下だ。ちなみにもちろん私の視線は足首のままだ。

 男として‥ではなかった。うん。間違いなく。だって私は愛息子と思って見ていた。歳の差4歳を考慮して百歩譲ったとしても愛弟子だ。

「そ、その、だな。好きだぞ。間違いなく。この世で一番好きだし、愛しているし、信頼している」

「‥‥‥」

 ノアが発していた冷気が少し収まった気がする。

「お、お、お、男、というのは。つまり、男性と、いうことか?」

「は?馬鹿なの?」

 冷気が復活した。

「‥‥その、ノアが言っているのは、れ、れ、恋愛、か?」

 言った瞬間にボシュンッと顔から湯気が出た‥気がする。

「‥‥恋愛ですけど?」

 あ‥。ノアの口調が、ほんの少しだけ弱くなった。いや、おそらく他の人は気付かないほどの些細な変化。表情は見てないけど、たぶん少し口を尖らせていることだろう。怒りの中に、寂しさが混ざっている。

 きゅぅっと、心臓が痛くなった。私まで眉が下がりそうだ。いや、恐らく下がっている。

「‥‥‥‥私は、恋愛を知らない」

「人妻だったのに?」

「‥それは前世だ。前世はオズバーン家に嫁ぐことは宿命だった。恋愛という感情は必要なかったのだ」

「‥‥‥俺は」

「‥ん?」

「‥‥‥俺は、同じ気持ちを持ってるんだと思ってた」

 ノアの声色に、もうほとんど怒りはない。
あるのは寂しさと悲しみだ。流石に視線をノアの顔に向ける。

 しゅん、と眉を下げているノアがそこにいた。

「その‥。私はお前とずっと一緒にいたいし、本当に好きなんだ。ただ、家族愛や恋愛の気持ちの違いが分からないだけなんだ」

「‥‥ドキドキするかどうかじゃない?」

「ドキドキ‥?」

「例えば‥自分の父や母にハグされて、もし唇にキスされたらどう思う?」

「‥ハグはまだしも、キスは‥気が触れたのかなと」

「じゃあ俺は?」

 そう言ってジッと目を見つめられると、途端に毛細血管が騒つく気がする。何故だ。ハグは、どうだったかな‥この間。謎に号泣した時なんかは、そんなことを意識する余裕がなかったな。その少し前にハグした時はどうすればノアの顔が乳に埋もれないかを考えていたし‥
 キ、キ、キ、キスは。うん。したことがないから分からないな。

 結果、ほんのり顔を赤らめながらも「さぁ?」と首を傾げてみせた。
ノアはあからさまにイラッとした。そんなに怒らなくてもいいじゃないか。最近思春期真っ盛りだなお前は。

「‥ちょっときて」

 ソファで足を組みながら、ノアは私を呼ぶ。ちょっと傲慢じゃないか?何故行かねばならないのだ。‥と思いつつも腰をあげる。

 ノアの前までついた。

「なんだ」

 腕を組んでそう言うと、ノアはパッと立ち上がるなり私の腕を引いた。

「うぉっ?!」

 すっぽりとノアの腕の中に収まる。
あ、これは‥初めてかもしれない。理由付けのないハグ。

 母の愛を伝える!でもなく、泣いてる私を抱き締める、でもなく。
ただただ、ノアに呼ばれて抱き締められている。

「‥‥暴れないで」

 耳元でボソッと落とされた言葉。

「あ、暴れてなどいない!」

 少し動揺しただけだ。
あと、耳元で話さないで欲しい。くすぐったいし、息が止まるし、心臓が痛い。おかげでまた不整脈だ。

 私の額はちょうどノアの鼻あたりの高さなのだが、ノアが顔を少しズラしたせいで、瞼に何かが触れた。たったそれだけで、全身の毛が逆立ったような気がした。ノアの、唇だ。

 恐らく、ノアはキスを落とそうとしたわけじゃない。顔をズラしたらたまたま触れたのだ。たぶん。
 その証拠にノアの白い肌は真っ赤に染まり、ドクンドクン、と大きな鼓動が私の耳にまで聞こえてくる。私も、打ち付けてくる心臓があまりにも痛くて、でもなにも発言もできなくて、ノアが解放してくれるのを待つしかなかった。

 瞼が疼いて、熱を持って、そして、それから‥

「ドキドキ‥する‥」

 

 私はこの日、自分の感情が知らぬ間に進化していたことにようやく気付いたのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました

由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。 巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。 今日も黙々と床を磨いていたら―― 「お前の磨いた床は、よく眠れる」 恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。 見た目は完全にラスボス。 中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。 勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。 光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。 戦争よりも、まず床。 征服よりも、まず対話。 これは、世界最強の存在に溺愛されながら 世界平和を“足元から”始める物語。 甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...