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7話 ダンジョン

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「え、誰?」

 俺はその女の子を眺める。かなりの美人だ。白く長い髪を腰まで流していて、まるでモデルさんみたいだ。

 その美人の女の子の手には白い刀が握られていて、その刀にはゴブリンの血がべっとりと付いている。


「助けてあげたのにお礼も無いの?」

「あ、え、ありがとうございます!!」


 俺は反射的にお礼をした。そうか、俺はこの女の子に助けて貰ったのか。

 少し落ち着いたら、安心したのか腰が抜けてしまった。


「大丈夫!? というか君、一般人だよね? 何でこんな所に居るの?」

「え?」


 どういう事だ? 俺は一般人だが、それでもここに居ておかしな事は無いはずだ。

 まさか、さっきのゴブリンと何か関係があるのか?


「僕はすぐそこの家に住んでいるのですが、コンビニに行こうとしていたら開いてなくて…………。仕方ないから自販機でおしるこを飲んでいたら、あのゴブリンみたいなやつに追いかけ回されたんです。何か知ってませんか?」

「え、ここに住んでる?」


 その女の子は少し考え込んだ様な仕草をし、すぐさま俺に質問をし始めた。


「君、まさかこの数ヶ月ずっと家の中に居た?」

「あ、はい。ずっと家に居ました。」

「その間ニュースは?」

「見てないです。」

「やっぱり。」


 女の子は納得した様な顔をしたが、俺は1ミリも納得出来ない。


「じゃあ、この数ヶ月でこのに起きた事を教えてあげるわ。」


 それから女の子は話し始めた。


「まず、数ヶ月前、世界各地に謎の塔が現れたの。今はその塔のことを飽和迷宮ダンジョンと呼んでいるわ。この名前で察したかもしれないけど、その塔の中にはモンスターが住んでいたの。そして、さっきのゴブリンはその塔から出てきたものよ。」


 まさか…………。俺はその現実味のない話を聞いてそう思ったが、さっきゴブリンにあった事や、謎の箱の存在等がその話の信憑性を高めた。

 女の子は話し続ける。


「政府はその塔に自衛隊を送ったの。そうしたらとんでもない事実が発覚した。それはモンスターには銃火器が効かないって事。そのせいで、送られた人の半数がそのモンスターに殺されたらしいわ。」


 俺は唾を飲んだ。さっきこの女の子が助けてくれなければ俺も自衛隊の人たちのようになっていたかもしれない。そう思うと膝が笑いだした。


「モンスターとの戦いは絶望的だと思われたけど、人類側にも希望は残されていた。それはよ。」


 スキル。その言葉を聞いてドキッとした。

 何故ならスキルという言葉には聞き覚えがあるからだ。

 今までずっと箱を開け続け、手に入れ続けたスキル。その事を言われたからだ。

 箱によるスキルが俺だけのものでは無いのかもしれない。そう思うと不安でならなかった。


「スキルはまず最初は何でもいいからモンスターを一体でも倒せばランダムに入手出来るわ。人によって手に入るスキルは違うけど、殆どが有用なものよ。その後は途方もない数のモンスターを倒せば手に入るけど、まぁ、取れている人は少ないわ。」


 良かった。どうやらスキルは俺ほど簡単に取れるようなものでは無いらしい。それなら箱を持っている俺の優位性は保持される。


「スキルによって強力な戦力を得た人類はモンスターを塔の中に閉じ込めたのだけど、ここのように政府の手が行き届いていない場所ではモンスターが塔の外に出てしまって居るの。だからここの人達は避難しているはずなのに…………君はどこに住んでいたの? 警察の人が避難するようにって言って回ってたのに来てないの?」

「あ。」


 俺は気づいてしまった。

 多分俺は箱を開けるのに集中しすぎて警察の人が来たことに気付か無かったんだ。

 しかも、音も立てずに日々を過ごしていたからモンスターも来なかったって訳か。


「僕はえっと…………。引きこもりでして、警察の人が来たことに気付かなくて避難できなかったのだと思います。」

「え、君、引きこもりなの?意外。引きこもりってもっと太ってる陰キャ見たいな人だと思ってた。君みたいな感じの引きこもりも居るんだね。」

「え?」


 この子は何を言ってるんだ?


「僕は引きこもりの鏡見たいな見た目してますよ? デブだし、不細工だし。」

「えー?その容姿でデブで不細工だったら全国の男の子の殆どがデブで不細工になっちゃうよ!」

「そんな訳…………。」


 俺はそこでひとつの事を思い出し、すぐそこにある家のガラスに反射する自分を見に行った。


「嘘だろ?」


 そこには、かなりのイケメンが映っていた。

 髪の毛は少々ボサっとしているが、それでもイケメンだ。と言うか、かなり若々しく見える。

 俺はもう20代後半だが、どう見ても今の俺は高校生くらいにしか見えない。

 こうなった理由は1つ心当たりがある。

 それはスキルだ。

 俺は箱を開けて魅力というスキルと筋力というスキルを手に入れた。この2つのスキルの効果で俺はイケメンになったと言えるだろう。

 まずは筋力スキルで痩せ、魅力スキルで格好よくなったのだろう。


「どしたの? まさか自分の容姿を久しく見てなかったとか?」

「はい。そんな所です。」


 魅力スキルもちょっとした出来心で取ったみたいな物だったが、案外馬鹿に出来ないかもしれない。


「その容姿で学校に行ってたらモテたと思うのに、勿体無いなぁ。」

「いや、学校には行ってましたけど、その頃は全然デブスでしたよ。」

「え、待って、君もう学校卒業してるの?」

「いえ、高校は中退しました。それからずーっと引きこもりですよ。情けないですがね。けどいきなりどうしたんですか?」

「え、えっと、貴方の年齢をお聞きしても?」


 お、急に敬語になった。この容姿だから高校生だと思ったのかな?無理はないと思う。俺も俺を見た時高校生だと思ったもん。


「28ですけど、別に敬語にしなくても大丈夫ですよ。」

「いや、けど…………。」

「大丈夫ですよ。貴方は命の恩人なんですから。」

「分かったわ。けどその代わり、君も敬語止めてね!」

「わ、分かった。」


 その言葉に恋愛経験0超えてマイナスに迫ろうとしている俺はドキッとしかけたが、バレないように演技しながら返事をした。


「じゃあ、今から避難所に連れて行くね。」

「分かった。」


 その女の子は歩き出すが、何か思い出したかのようにこっちを向いた。


「遅くなったけど、私の名前は和歌色陽夏わかいろひなつ。よろしくね!」


 彼女は太陽のような笑みを浮かべた。


「俺は御影晴輝だ。よろしく。」


 そして俺達は避難所へ向かって行くのであった。
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