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38話 ゆうちゃん…………
しおりを挟むダンジョンに入ると、あの時入った時と変わらぬダンジョンの姿があった。
だが、1つ違うのはこの身に滾る力のお陰で不安がさっぱり無いということだ。
2回目だと言うのも大きいだろう。
お陰でゆうちゃんにカッコ悪い姿を見せずに済んだ。
まって? 俺が初めて入った時は物凄く怖かったから、ゆうちゃんも怖がってるんじゃないか!?
ゆうちゃんが辛いなら引き返したりする事も考えなければ…………!
そう思い、ゆうちゃんの様子を伺う。
「ふんふふーん♪」
わぉ、鼻歌歌いながら軽くスキップしながら歩いてるやん、ゆうちゃん強い子!
俺が初めて入った時の様子と比べると、俺が情けなく思えてくる。
…………よし! 気張るぞ!
俺は気を入れ直し、ゆうちゃんにカッコ悪い姿は見せまいと覚悟した。
俺達が歩いていると、ゴブリンに出会う前に階段を見つけた。
これが次の階へと続く階段で、この階段を登っていくと塔の最奥に行けるらしい。
前回は奥へと行く必要が無かったので行かなかったが、今回はゴブリンを倒すよりもこのダンジョンの最奥へ行くと言うのが目的だ。
俺達は迷わずにその階段を登った。
「お兄ちゃん。ゴブリンはいつになったら出て来るの? 早く殺したい!」
「そ、そうか。もうすぐ来ると思うよ。」
やはりゆうちゃんの口から殺すという言葉が出る事が慣れないな。
うん。ゆうちゃんがそんな事思わなくなるまでしっかりと愛でてあげよう。あ、変な意味じゃないよ。
それから、次の階の階段を探して歩いていると三体のゴブリンを見つけた。
「ねぇ! あれがゴブリンでしょ? 私が殺したい!」
「あぁ。分かった。けどちょっと待っててな。」
俺はゴブリンの首をサクッと狩ってきた。
こんなにサクッと狩れるのは武器の性能もあるかも知れないが、1番は鬼剣術というスキルが手に入ったお陰だと思う。
刀への力の込め方。踏み込みの仕方。刀の当てる位置など、色んな事が使う事が出来た。
刀を使った瞬間使い方が分かったと言うよりは、体が覚えていた物を思い出したと言った感覚だった。
元々、俺は剣術の達人だったかのような感覚に陥る不思議な感覚だ。
俺は狩ったゴブリンの首をゆうちゃんの所に持っていき、この前まで使っていたナイフを渡す。
「これでゴブリンの頭の所を刺すんだ。それでこのゴブリンは殺せるよ。」
「やったぁ!」
ゆうちゃんは嬉しそうな声を上げる。
うん。こんな事よりも楽しい事をいっぱいさせてあげよう。
俺はそんな事を思った。
ゆうちゃんはナイフを受け取ると、迷いなくゴブリンの頭に突き刺した。
ゴブリンが消えていく。
だが、ゆうちゃんの顔は何故か不満げだ。
「むー。なんか違う! お姉ちゃんが殺された時はこんなんじゃなかった。もっと、もっとぐちゃぐちゃで、血がいっぱい出てて、それでもっと苦しそうで…………なんでこいつはこんなにもあっさり死んじゃうの? おかしいよ。」
俺はそれを聞いて慄然とした。
そうか。俺は勘違いしていた。
彼女の生理的ショックは俺が思っているよりも遥かに大きい物なのだろう。
ゆうちゃんは愛するお姉ちゃんを目の前で無惨に殺されたんだ。
「…………分かった。」
俺は2体のゴブリンの頭を双剣で突き刺す。
「次はもっと苦しめられるようにするから。待っててね。」
ゴブリンは頭を刺さなければ死なない。
ならば、四肢を切り落としてくれば胴体に攻撃が出来て、もっとゴブリンの事を苦しませて殺せるだろう。
俺だって、こんな事するのが間違ってる事 だってことは分かってる。
だけど、あんな顔見せられたら無理だ。
あんな楽しそうで、嬉しそうで、それでいて悲しそうで、悔しそうなあんな顔。
あんな顔こんなちっちゃい子ができるのかと思う程の顔だ。
ゆうちゃんは悪くない。
なのになんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ…………。
俺の心から怒りの感情が湧き出てきた。
ゆうちゃんを誘拐した挙句、死に際をゆうちゃんに見せ心に深い傷を残した誘拐犯。
ゆうちゃんを誘拐されてしまったゆうちゃんの両親。
そしてゆうちゃんの愛する人を無惨に殺したゴブリン。
こいつらは絶対に許す事は出来ない。
俺はゆうちゃんを抱えて走った。
ゴブリンを探す為だ。
「居た。」
一体だけでいるゴブリンだ。
俺はゆうちゃんを降ろし、ゴブリンに迫る。
「ゲギャッ!」
ゴブリンはこちらに気付き、攻撃しようとしてくる。
「遅い。」
その速度は到底俺の着いてこれず、為す術なくゴブリンは四肢を切り落とされた。
「ギャ、ギャアア!」
ゴブリンは痛みを感じたのか、酷く醜い声で叫ぶ。
「ゆうちゃん! これなら苦しめられるよ!」
俺はゴブリンのそばにゆうちゃんを連れてくる。
「頭以外の所を刺してね。」
「分かった!」
ゆうちゃんはまたもや迷いなくゴブリンにナイフを突き立てる。
その度にゴブリンは悲痛な叫び声をあげる。
それを聞いて、ゆうちゃんはただただ笑ってい
た。
「…………。」
「あははっ! 死んじゃえ!」
ゆうちゃんは何回も何回もナイフを突き立てる。
ゴブリンの体はボロボロだ。だが、それでもゆうちゃんはナイフを刺し続ける。
ゴブリンの身体に穴が開き、金属音がなる。
ナイフが貫通してナイフが床に当たったようだ。
「あれっ、消えちゃった。」
ゆうちゃんがゴブリンを刺し始めてしばらく経った時。頭を刺したわけでも無いのに、ゴブリンが消えてしまった。
まぁ、そういう事もあるのだろう。
「うーん。まぁ、満足したよ! ちょっと疲れたし、あとはお兄ちゃんが倒してもいいよ!」
「分かった。」
正直、ゴブリンを笑いながら刺すゆうちゃんは少し怖かった。いや、怖かったと言うよりは悲しかったと言うべきだろうか。
とにかく、満足してくれて良かった。
「あとなんか、ゴブリンが消えた後になんか頭の中ですきるぎゃくさつ? を手に入れましたって聞こえたの。お姉ちゃんを殺したゴブリンを殺した時にも同じような声が聞こえたんだよね。これなんなんだろう?」
おぉ、虐殺か。物騒だな。
「んーとね、それはスキルって言うやつで手に入れたらなんか強くなるよ!」
「強くなるの? やったね!」
語彙力よ。俺は子供でももっとちゃんとした説明が出来るだろう説明をゆうちゃんにした。
まぁ、虐殺というスキルがどんな物か分からない以上何とも言えないが、良いスキルだということを願うしか無いだろう。
「よし! じゃあ行くか!」
「うん!」
そして俺達はダンジョン攻略を再開した。
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