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54話 作戦3

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 刀の落ちる音がした。

 私の体にはもう刀を握るだけの力すら残っていない。


 七月流火はその強大な力だけに制御が難しい。

 威力は高いが、その分命中率と身体への負荷が尋常ではない。

 故に戦闘では使えないと思っていた。

 けど 、相手が動けないんだったら別の話で、動いていない相手に当てる程度のことは出来る。

 今回はしっかり成功できたみたいだ。


「晴輝…………大丈夫?」


 私はヨタヨタと晴輝の元へと歩いていく。

 目が霞んで良く見えない。


「え…………。」


 一気に血の気が引いていくのを感じる。

 なぜならそこには確実に2


「なんで…………。死なないって言ったのに…………。」


 口ではそう言うが、本当は分かっていた。

 晴輝は命を捨ててまで私達を助けてくれたんだ。


 よろめきながらも晴輝の顔の元へと向かい、そっと触れる。

 まだ暖かい。


 …………もしかして。


 私は最後の力を振り絞って晴輝の頭を晴輝の体にくっつけた。

 晴輝はさっき物凄い再生能力を見せた。

 まだ手遅れでは無いかもしれない。


「…………だめ……か……。」


 やっぱりいくら再生能力が高いとは言え、1度死んでしまったものは元には戻らないよね…………。

 身体中から力が抜けていく。

 私のせいだ。

 私が弱いから晴輝は死んでしまった。


「ごめんね…………。」


 晴輝の体に抱き着くと、やはりまだ温かい。

 その残った温もりがやっぱりまだ助かるんじゃないかという淡い希望を抱かせてくれる。


 だが、その淡い希望さえも砕く声が聞こえた。


「うそ…………。」


 恐る恐る声の聞こえた方向を向く。

 そこには顔が転がっていた。

 しかし、その口元は僅かに動いている。

 ありえない。首を跳ねてもなお生きてるなんて…………。

 次の瞬間、頭の前に火の玉が出来た。

 爆音が鳴り響く。


「終わりだ。」


 そう呟いた。

 私にはもうあれを避けるだけの力は残っていない。

 幸い今の一撃は他の場所に撃たれたが、その反動で今は完全に顔がこっち向いてしまっている。

 次の火の玉が作られるのも時間の問題だろう。

 私は泣き崩れた。


「晴輝…………ごめんね…………せっかく救ってもらった命なのに…………もう無くなっちゃいそう。けど、晴輝も悪いんだよ? 約束破っちゃうんだもん…………。」


 私は泣きながら晴輝の顔をじっと見る。

 涙が何滴も晴輝の顔にかかる。

 相変わらず綺麗な顔だ。

 だが、とても一目惚れするような感じでは無い。

 けど…………。


「あの時、身を挺して私を守ってくれた時はかっこよかったよ。柄にもなく惚れちゃったかも。」


 きっとこれは運命の出会いとか言うやつだったのだろう。

 近ずけていた顔を更に近ずけ、そして唇と唇の距離を縮めていく。

 最後くらい好きな事をしてもいいだろう。

 唇と唇を合わせ、そっと口付けした。


「えへへ、私のファーストキスあげちゃったね。」


 頭の方を見るとちょうど火の玉が作られ始めた所だった。


 私は思わず晴輝の胸に顔を埋めた。

 もう現実を見たくない。

 こうするだけでも少しは恐怖が薄れる。

 このまま、このまま死のう、それが一番だ。


 ボンッという火の玉が放たれる音がした。

 これに当たって私は死ぬんだ。

 私は来る時を待った。



夢食バク



 晴輝の声が聞こえた。

 幻聴だろうか。

 しかし、いつまでも来ない痛みを不思議に思い、私は晴輝の、胸から顔をあげた。


「は、晴輝!?」


 そこには私の前に手を出していた晴輝がいた。

 私は混乱した。

 晴輝さっきまで死んでいたはずで、けど、今は生きていて…………ええ? どういうこと?


 私が1人で混乱していると、浮遊感を感じた。

 どうやら私は持ち上げられたようだ。

 そして、そのまま私は横に降ろされた。


「あっ、ご、ごめん。邪魔だった?」


 顔が熱くなるのを感じる。

 晴輝が生きていないと思って色々してしまったので、少し居た堪らない気持ちになる。


【快治】


 私の体が心地の良い温もりに包まれる。

 体の痛みが取れていく。


「あ、ありがと。」


 私がそうお礼を言うが、晴輝は何も言わずに頭の方へと歩いていってしまった。


 頭は何度も火の玉を撃ってきたが、全て晴輝の謎のスキルによって吸い込まれてしまって。

 晴輝のあの力は何なのだろうか。

 今まで見た事のないような力だ。


 晴輝はそのままスタスタと歩いていき、頭に優しく手を乗せた。


夢食バク


 晴輝がそう呟くと、その頭は晴輝へと吸収されていった。


 私には何が起こったのかさっぱり分からなかったが、ただ1つ分かったのは、私達は助かったということだ。

 私は晴輝に駆け寄った。

 私が駆け寄ってきたことに気付いた晴輝はこちらを向いて優しげな笑みを浮かべた。

 その瞬間、ぐらりと晴輝の体が傾いた。


「晴輝!」


 私は咄嗟に晴輝を受け止めた。

 一瞬びっくりしたが、受け止めた瞬間にしっかりと伝わってきた心臓の音により晴輝の安否は確認できた。

 どうやら寝ているだけのようだ。

 仕方が無いので地面に座り、私の太ももの上に晴輝の頭を乗っけてあげた。

 髪の毛はチリチリになり、身体中にかなり傷もあるが、そんな姿も愛おしく感じる。

 これが惚れた弱みという奴なのか。


 しばらくすると、コナーの声が聞こえてきた。


「晴輝君ー! 陽夏ちゃん! 大丈夫かいーって、あらあらまぁまぁ。」


 コナーは慌てた様子で走って来たが、私達の姿を見つけた瞬間、にんまりとした少し腹の立つ笑みを浮かべた。


「何よ。」

「いやー? 陽夏ちゃんも隅に置けないなーって思ってねー。」


 そこで私は自分の体制に気づいた。

 これはいわゆる膝枕とか言うもので、俗に言うというものそのものであると。

 私の顔が赤く染っていく。


「ちがっ、これは理由が!」

「うん。わかってるよ。ごめんね、からかったりして。」


 コナーは舌をペロリとだして謝ってきた。

 …………この人は本当に20代後半なのかな…………。


「君達の様子を見ればとんでもない死線を経験したんだね、お疲れ様。」


 コナーのその言葉で、本当に生き残れたことが実感出来た。
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