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135話 黒

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 俺の体から血の気が引いていく感覚が分かる。

 俺の中からゆうちゃんという一番大きなものが欠けた感覚だ。

 俺はゆうちゃんが消えていった方向に駆ける。

 その方向にゆうちゃんの姿は無いが、それでもその方向へと向かっていく。

 しかし、当然ゆうちゃんの姿は無い。


「ゆうちゃん…………。」


 俺はその場に力無く倒れ込む。

 ゆうちゃんを生き返らせることが出来た矢先にこれだ。

 俺の中に怒りとも悲しみとも違う不思議な感情が湧き出る。

 俺は近くにあった建物の壁を思いっきりぶん殴る。


「クソ!」


 俺はまた大切な人を守れないのか?

 俺はまた…………。

 壁を殴る手に痛みが走る。

 何回も、何回も殴る。

 俺の内側から黒い、ドス黒い塊が吹き出してくる。

 俺の心はそれに飲まれていく。


「許さない。」


 俺の頭が、心が何かに乗っ取られていくような、そんな気持ちの悪い感覚に満ちていく。

 殺してしまえ。

 あんな奴らに少しでも情けの心があった自分が消えていく。

 俺の一番の目的はゆうちゃんだ。

 その為には敵は全員殺す。

 ゆうちゃんを殺したあの凪だって、ゆうちゃんを攫ったあのクソ集団だって全員殺す。

 敵は全員殺して、そしたゆうちゃんを奪い返してそしてゆうちゃんと幸せな未来を築くんだ。

 俺の心はそれだけでいっぱいになっていた。

 黒い、黒い感情。

 そんな感情で染まる。

 駄目だという気持ちはあった。

 そんな気持ちでゆうちゃんに向き合うのはいけない。

 悲劇を繰り返してしまうと。

 それでも駄目だった。

 嫌だったのだ。

 また大切な人を奪われるのは耐えられない。

 絶対に奪い返す。

 その為にも、俺一人では何も出来ない。

 俺は街へと戻る。

 コナーの元へと。



 ◇◇◇◇



 俺が街へと戻ると、コナーが出迎えてくれた。


「分かってる、ゆうちゃんの事だろう?」


 コナーは元々あった地図を出す。


「あいつらの本拠地はだいたい分かっている。」


 そう言ってコナーはその地図のある場所を指す。

 その場所はここから遙か遠くの都市だった。

 流石コナーだ。


「ここにゆうちゃんが居るんだな?」

「分からない。けど、あそこにあいつらが集まっている場所はここなんだ。あいつらはそこの住人の殆どを吸収しているみたいで、物凄い数の軍団となっている。」

「何人ぐらいなんだ?」

「多分十数万人規模だと思う。僕らのところとは比べ物にならない程の規模だよ。」

「そんなになのか…………。」


 俺らのところは良くて数千人規模の街だ。

 あそこの人達は元々の人口でいえば何百万人程の人の数が居たことを考えればかなりの数が死んでしまっていると言う事になる。

 だが、それはうちも同じことだ。

 奴らの人口のうちの何人が戦闘要員なのか分からないが、あの様子をみるに確実に一般人ですら戦闘要員とし駆り出されていそうだった。

 ここからその都市まで行くのにはかなりの時間がかかるはずだ。

 距離で言えば100キロはある。

 その距離をあいつらは補給も無しに進んできたようだ。

 さっきのあの男のあいつらの扱いからして、あいつらは捨て駒なのだろう。

 つまりあの数を捨て駒に出来るほど戦闘員には余裕がある様だ。


「それでコナー、相談がある。この街ではどのくらいの支援が出来る?」

「…………申し訳ないけど、人的な支援は出来ない。」

「…………。」

「う、そ、そんな顔をしないでくれ、僕だって支援はしたいんだ。だけど、あのゆうちゃんが連れ去られる所はみんなが見てる。だから多分みんなこう思ったはずだ。」

、ということか。」

「…………そうだよ。だからこそ救出に出たいという人はあまり居ないかもしれない。それにあいつらの軍勢を見てみんな大分怖気付いてしまってるんだ。そんな中僕が救出に向かう事をしてしまえば、僕の街が内部分裂してしまう。だからそれは出来ないんだ…………。本当にごめん。」

「…………そうか。」


 分かってる。

 コナーは悪くない。

 今コナーに向けていい感情じゃない。

 コナーが救出に人を派遣出来ないというのは分かった。

 敵の本拠地がどこか分かったというだけでも大きな収穫だ。

 それだけ分かったら俺一人でも襲撃しに行ける。


「コナー、じゃあ、俺は一人で行くことにする。」

「…………僕はね、君を止めることは出来ない。君を止めるなんてことする資格は無い。けど…………。」


 コナーの声が震える。


「うぅん、なんでも無い。」


 コナーは首を振る。


「晴輝君、絶対に帰ってきてね? 約束だよ?」


 コナーがクシャクシャになったその顔を笑顔に作り直す。

 その顔を見てまだ残っていた白い心が動く。

 俺はそのおかげで笑うことが出来た。


「当たり前だ。」


 俺はそれだけ言い残しコナーの部屋から出た。

 俺のただ少しだけ残った白い心をすり減らし俺は陽夏を探す。

 そう思ったが、陽夏はすぐそこにいた。

 どうやら俺がコナーの部屋から出るのを待っていたらしい。


「…………晴輝。」


 陽夏は俺の顔を見て青い顔をする。

 そして顔を歪めた。


「…………ごめんね、私が弱いから。」


 陽夏はそう言って涙を流した。
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