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越後統一
初陣 栃尾城の戦い
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「どういうことだ!! 話が違う」
黒滝城城主黒田秀忠は先ほど来た使者に憤怒の顔をむけていた。
「まぁそう興奮するでない。
こちらにはこちらの都合というものがある。
それとも歴戦の黒田殿は初陣もまだの子供に敵わないということはなかろう。
我が方からは直接は関われんが代わりに援軍は出す。
黒田殿の武運を祈っておりますぞ。」
表情を変えず、冷淡に要件だけ伝えて使者はそそくさと帰っていった。
(話し合いもくそもない、一方的に用件だけを突き付けて、こちらで処理しろとはどういう了見だ。
そもそも話しを持ってきたのも、戦をけしかけたのも、全てそちらが立つというからではないか)
「御屋形様…いかがなされますか?」
黒田家の筆頭家老が聞いてきた。
「やるしかなかろう。
言い分は癪に障るが、そもそも此度は勝ち戦じゃ。
この鬱憤を存分に晴らしてくれるわ。
出陣の用意をいたせ」
天文13年(1544)、戦国時代も真最中であったこの時、越後の国では守護の上杉定実に実権はなく、守護代の長尾晴景が権力者として居るものの、国人衆は全くまとまっておらず、常に小競り合いが続いていた。
その年の春、晴景を侮って越後の豪族が謀反を起こした。
この時、栃尾城に入った景虎を若輩と軽んじた近辺の豪族は、栃尾城に攻めよせたのである。
「景虎さま。」
栃尾城城主 本庄実乃は戦支度の出で立ちで、長尾景虎を訪ねて来た。
「どうした本庄どの」
「先程、物見の報告にて、黒川勢が当領内へ向かっているとのこと」
「そのことなら、もう聞いておる」
若き長尾景虎はすでに絵図を開き、今回の戦の陣立てを熟考している様子であった。
(軒猿か…流石)
景虎は軒猿と呼ばれる忍び衆を使い、様々な情報を集めていた。
景虎が栃尾城に来たのは約1ヶ月前。
城主である本庄実乃は景虎の資質を早くから見抜き、自城に迎えてその側近となっていた。
景虎が栃尾城到着後すぐにおこなったのが、軒猿を使った情報収集であった。
緊迫した情勢の中、当時より情報の大切さを理解しているのは流石である。
「どのようにいたしますか?」
「先ずはこれより評定をおこなう。主だったものを集めよ」
「ははっ」
長尾景虎
のちの上杉謙信 軍神と呼ばれる男の初めての戦がここに始まる…
「おのおのがた、早速だか評定をおこなう」
「本庄どの、先ずは現状の報告を」
「はっ。敵はすでに我が領内に侵入。主力は黒田勢が300。他は近隣の豪族を長尾平六郎が率い、300となります」
「それに対するお味方は場内の武士が100名ほどで他は非戦闘員が300ほどです。」
「うむ、黒田殿は武勇に優れたお方ゆえ、正面より攻めてこよう。
また城方がどの程度か図るため、ひと当てしてくると思われる。
定石通り籠城交戦といたす。
相手方は正面大手門より、主力の黒田勢が、その西、曲輪から寄せ集めが攻めて参ろう。
そこで、正面に60名率いて本庄どのに守っていただく。
曲輪は、小島殿に率いていただき、40名で死守していただきたい。」
「景虎殿、曲輪がそれでは苦戦は必死ですぞ」
「おうよ。まさにそこが肝要。黒田殿にも、大手門は容易でないと思わせ、曲輪の方は、抜けると思わせる事が必要じゃ。小島殿やっていただけるか?」
「ははっ大事なお役目、一所懸命に守り通す所存で。」
「それでは、おのおのがた、持ち場にて存分に戦われよ」
遡ること半刻前、黒田勢は余裕綽々に行軍していた。
「黒田殿、此度の戦は早くに決着が付きそうですな」
商人と見間違うような優男ふうな男 長尾平六郎が、軽口を語っていた。
「長尾殿、仮にも戦場でござる。相手を軽んじては、手痛いしっぺ返しを喰らいますぞ。」
熊の様は体躯のこの男が今回の首謀者である黒田秀忠、若い頃より戦場を駆け巡って来た歴戦の将である。
しかし兵力差が600対100では、通常は負けることなど有り得ない。
長尾平六郎だけでなくても、一般の兵卒も、どことなく気軽さが漂っている。
「先程、お話ししたように栃尾城は北側と西側は攻めるに適さない天然に守られておるので、東側正面、大手門は拙者が攻め、南に位置する曲輪方面より、一気に攻めていただきたい。お頼み申したぞ」
「ははっお任せあれ」
と話しているうちに、栃尾城が目視できる距離まで近づいた。
(思ったより落ち着いておる。)
黒田は城内の雰囲気が意外にも落ち着いていることに感心をした。
(景虎めは、此度が初陣のはず、しかも圧倒的に不利な状態にも関わらず、ばたついておらぬな。)
歴戦の将の黒田は、意外と苦戦をしそうな予感もふと思ったが…
(先ずはひと当てして様子を見るか)
「者ども、かかれ!!!」
と、栃尾城へ仕寄をはじめたのであった。
しばらく攻めては見たものの、想像以上に敵の抵抗が厳しい。
それに引き換え、南側の曲輪はなかなか善戦しているとのこと
(正面を固めるあまり、曲輪が不十分なのかもしれぬな。)
(この調子なら、明日にも曲輪から崩せそうよな。)
と戦の手応えを感じた黒田は、無理をせず、夕方にはさっさと引き太鼓を鳴らし、明日のために野営の準備にかかった。
反対に栃尾城内では慌ただしく、みな駆け回っていた。
「大丈夫じゃ。すぐに良くなる。」
「手当を‼︎急いで」
「なんのこれしき。明日も見てろってんだ。」
症状は様々だが、守りきれた高揚感からか、士気の低下はなかった。
景虎は戦った兵卒一人ひとりに声をかけ
「よう頑張ってくれた。お主のおかげじゃ」
とみんなにねぎらいの言葉を掛けて回っていた。
そこへ本庄が参り
「景虎殿、評定の時間ですぞ」と呼びに来られた。
評定の席で
「皆のもの、本日はご苦労であった。この戦、明日には我が圧勝にて終わろうぞ」
評定に参加している誰もが、意味を計りかねている様子の中、景虎のみ、自信に満ち溢れた表情で皆を見渡していた。
小島が「夜襲でもお考えか?」
と景虎の考えを聞こうと意見したみたところ
「いや、夜襲では全てを打ち負かすことは出来ぬ。黒田殿は抜かりないだろう」
「では、どのように?」
「先ずは寄せ集めの長尾勢を叩く。明日は…」
それぞれの役目を伝え終えた景虎は
「明日も激戦となろう。今夜は相手も夜襲はない。休めるものはしっかり休んで明日、皆で勝利を掴み取ろうぞ」
勝ちを確信した景虎は自信に満ちた顔で評定を終えたのだった。
その後、城下に出て動ける町人を集めて今日、戦の補佐をしてくれたお礼と、明日やってもらいたいことを告げに来ていた。
町の住人で戦場に出ないものでも武器の準備や炊き出し、負傷兵の手当てなど様々なことをおこなっているのだ。
明日はその他にやってもらいたいことがあった。
「そのようなこと私たちで出来るんでしょうか?」
代表のものが不安げに聞いてきたが
「大丈夫じゃ。軒猿が世話してくれる。安心して励んでくれ。」
「明日は皆の働きでこの戦も終わる。もうひと踏ん張りお頼み申す。」
そう言って城へ戻る景虎は明日の勝利を確信するのだった。
次の日の早朝、物見の報告を聞いた景虎は予定通り、各地の配置が完了したのを確認し号令をかけた。
「頃合いや良し。皆の者かかれ!!」
遡ること半刻前、本日も曲輪を攻める予定の長尾勢では
「長尾殿、昨日は上手くいきましたなぁ」
副将を務める田川は言った。
「いかにも、この調子では今日にも攻略出来よう。黒田殿には申し訳ないが、此度の勝利は我らにてあげさせて貰おう」
「黒田殿より、油断なきようにとお話があったとか?」
「ははは、黒田殿は心配性よ。昨晩も夜襲の警戒もしておったがなにもなかったわ。今頃城内にて、逃げる準備でもしておるのではないか?ははは」
戦場にて大将の気概は兵卒にも伝わるもの、長尾勢は主将がこのような状態なのでどことなく、緊張感がない雰囲気が漂っていた。
同じ頃、黒田勢は準備に余念はないが、此度の戦は今日にも終わり、次の手をどうするか検討し始めていた。
そんな折…
「伝令です!!」
黒田勢の副将を務める織部が血相を変えてやってきた
「長尾勢、壊滅。裏崩れを起こし、こちらへ逃走中とのこと」
まさに寝耳に水
想像していなかった事態に歴戦の黒田秀忠も訳がわからなかった
「どういうことだ! 詳しく申せ」
織部は
「報告によれば、まさにこれから仕寄を始めようとした矢先、後方より、急襲され、戦陣が乱れているところ、別働隊にて挟み撃ちにされ、開いていた東側より裏崩れを起こしたとのこと」
(しまった。勝ちを急ぎ過ぎたか)
そう思った時に、すぐ近くから「やあー」と鬨の声が聞こえてきた。
「何事ぞ」
「北側より敵の旗印多数発見」
「北側?そんなバカな…」
西側からは、逃げてきた長尾勢が我先にと戦陣に飛び込んで来ていた。
そのため、陣形が整わず、乱れているところへ、追撃してきた敵方が突撃をして、すでにパニック状態になっていた。
北側からも敵の鬨の声が聞こえ、多数の旗印が見えたものだから、全軍において完全にパニック状態になり、充分な迎撃体制も出来ないまま、手の施しようがない状態になってしまった。
「殿、ここはもう持ちません。今なら東より逃走できます。一刻も早くお逃げください」
つい先程まで、勝利を確信していたのが、一瞬にして窮地に立たされ、訳がわからないうちに崩されてしまった…
(景虎は化け物か)
黒田秀忠は逃げる馬の背で背筋の凍る思いをしていた。
あちらこちらで敵味方多数の死体が見られる。折れた旗印が、戦闘の激しさを物語っていた。
「会心の勝利でしたな。」
本庄が馬を並走させて話しかけてきた。
「いや、首謀者の黒田も長尾も逃してしまった。もう一手打てれば、壊滅まで持っていけたが…まぁ此度はこれで良しとする」
まだあどけなさが残る顔ではあるが、戦を思い通り操るこの主君を本庄は頼もしく思えた。
「殿、これからが始まりですな」
「おうよ。反乱分子を一掃し、一刻も早く春日山城へ凱旋するぞ。本庄どの、これからも頼む」
越後を納められるのは景虎のみと思っていた本庄は此度の戦で確信に変わった。
この方は軍神に愛されている。
越後を託すに相応しい方だと
黒滝城城主黒田秀忠は先ほど来た使者に憤怒の顔をむけていた。
「まぁそう興奮するでない。
こちらにはこちらの都合というものがある。
それとも歴戦の黒田殿は初陣もまだの子供に敵わないということはなかろう。
我が方からは直接は関われんが代わりに援軍は出す。
黒田殿の武運を祈っておりますぞ。」
表情を変えず、冷淡に要件だけ伝えて使者はそそくさと帰っていった。
(話し合いもくそもない、一方的に用件だけを突き付けて、こちらで処理しろとはどういう了見だ。
そもそも話しを持ってきたのも、戦をけしかけたのも、全てそちらが立つというからではないか)
「御屋形様…いかがなされますか?」
黒田家の筆頭家老が聞いてきた。
「やるしかなかろう。
言い分は癪に障るが、そもそも此度は勝ち戦じゃ。
この鬱憤を存分に晴らしてくれるわ。
出陣の用意をいたせ」
天文13年(1544)、戦国時代も真最中であったこの時、越後の国では守護の上杉定実に実権はなく、守護代の長尾晴景が権力者として居るものの、国人衆は全くまとまっておらず、常に小競り合いが続いていた。
その年の春、晴景を侮って越後の豪族が謀反を起こした。
この時、栃尾城に入った景虎を若輩と軽んじた近辺の豪族は、栃尾城に攻めよせたのである。
「景虎さま。」
栃尾城城主 本庄実乃は戦支度の出で立ちで、長尾景虎を訪ねて来た。
「どうした本庄どの」
「先程、物見の報告にて、黒川勢が当領内へ向かっているとのこと」
「そのことなら、もう聞いておる」
若き長尾景虎はすでに絵図を開き、今回の戦の陣立てを熟考している様子であった。
(軒猿か…流石)
景虎は軒猿と呼ばれる忍び衆を使い、様々な情報を集めていた。
景虎が栃尾城に来たのは約1ヶ月前。
城主である本庄実乃は景虎の資質を早くから見抜き、自城に迎えてその側近となっていた。
景虎が栃尾城到着後すぐにおこなったのが、軒猿を使った情報収集であった。
緊迫した情勢の中、当時より情報の大切さを理解しているのは流石である。
「どのようにいたしますか?」
「先ずはこれより評定をおこなう。主だったものを集めよ」
「ははっ」
長尾景虎
のちの上杉謙信 軍神と呼ばれる男の初めての戦がここに始まる…
「おのおのがた、早速だか評定をおこなう」
「本庄どの、先ずは現状の報告を」
「はっ。敵はすでに我が領内に侵入。主力は黒田勢が300。他は近隣の豪族を長尾平六郎が率い、300となります」
「それに対するお味方は場内の武士が100名ほどで他は非戦闘員が300ほどです。」
「うむ、黒田殿は武勇に優れたお方ゆえ、正面より攻めてこよう。
また城方がどの程度か図るため、ひと当てしてくると思われる。
定石通り籠城交戦といたす。
相手方は正面大手門より、主力の黒田勢が、その西、曲輪から寄せ集めが攻めて参ろう。
そこで、正面に60名率いて本庄どのに守っていただく。
曲輪は、小島殿に率いていただき、40名で死守していただきたい。」
「景虎殿、曲輪がそれでは苦戦は必死ですぞ」
「おうよ。まさにそこが肝要。黒田殿にも、大手門は容易でないと思わせ、曲輪の方は、抜けると思わせる事が必要じゃ。小島殿やっていただけるか?」
「ははっ大事なお役目、一所懸命に守り通す所存で。」
「それでは、おのおのがた、持ち場にて存分に戦われよ」
遡ること半刻前、黒田勢は余裕綽々に行軍していた。
「黒田殿、此度の戦は早くに決着が付きそうですな」
商人と見間違うような優男ふうな男 長尾平六郎が、軽口を語っていた。
「長尾殿、仮にも戦場でござる。相手を軽んじては、手痛いしっぺ返しを喰らいますぞ。」
熊の様は体躯のこの男が今回の首謀者である黒田秀忠、若い頃より戦場を駆け巡って来た歴戦の将である。
しかし兵力差が600対100では、通常は負けることなど有り得ない。
長尾平六郎だけでなくても、一般の兵卒も、どことなく気軽さが漂っている。
「先程、お話ししたように栃尾城は北側と西側は攻めるに適さない天然に守られておるので、東側正面、大手門は拙者が攻め、南に位置する曲輪方面より、一気に攻めていただきたい。お頼み申したぞ」
「ははっお任せあれ」
と話しているうちに、栃尾城が目視できる距離まで近づいた。
(思ったより落ち着いておる。)
黒田は城内の雰囲気が意外にも落ち着いていることに感心をした。
(景虎めは、此度が初陣のはず、しかも圧倒的に不利な状態にも関わらず、ばたついておらぬな。)
歴戦の将の黒田は、意外と苦戦をしそうな予感もふと思ったが…
(先ずはひと当てして様子を見るか)
「者ども、かかれ!!!」
と、栃尾城へ仕寄をはじめたのであった。
しばらく攻めては見たものの、想像以上に敵の抵抗が厳しい。
それに引き換え、南側の曲輪はなかなか善戦しているとのこと
(正面を固めるあまり、曲輪が不十分なのかもしれぬな。)
(この調子なら、明日にも曲輪から崩せそうよな。)
と戦の手応えを感じた黒田は、無理をせず、夕方にはさっさと引き太鼓を鳴らし、明日のために野営の準備にかかった。
反対に栃尾城内では慌ただしく、みな駆け回っていた。
「大丈夫じゃ。すぐに良くなる。」
「手当を‼︎急いで」
「なんのこれしき。明日も見てろってんだ。」
症状は様々だが、守りきれた高揚感からか、士気の低下はなかった。
景虎は戦った兵卒一人ひとりに声をかけ
「よう頑張ってくれた。お主のおかげじゃ」
とみんなにねぎらいの言葉を掛けて回っていた。
そこへ本庄が参り
「景虎殿、評定の時間ですぞ」と呼びに来られた。
評定の席で
「皆のもの、本日はご苦労であった。この戦、明日には我が圧勝にて終わろうぞ」
評定に参加している誰もが、意味を計りかねている様子の中、景虎のみ、自信に満ち溢れた表情で皆を見渡していた。
小島が「夜襲でもお考えか?」
と景虎の考えを聞こうと意見したみたところ
「いや、夜襲では全てを打ち負かすことは出来ぬ。黒田殿は抜かりないだろう」
「では、どのように?」
「先ずは寄せ集めの長尾勢を叩く。明日は…」
それぞれの役目を伝え終えた景虎は
「明日も激戦となろう。今夜は相手も夜襲はない。休めるものはしっかり休んで明日、皆で勝利を掴み取ろうぞ」
勝ちを確信した景虎は自信に満ちた顔で評定を終えたのだった。
その後、城下に出て動ける町人を集めて今日、戦の補佐をしてくれたお礼と、明日やってもらいたいことを告げに来ていた。
町の住人で戦場に出ないものでも武器の準備や炊き出し、負傷兵の手当てなど様々なことをおこなっているのだ。
明日はその他にやってもらいたいことがあった。
「そのようなこと私たちで出来るんでしょうか?」
代表のものが不安げに聞いてきたが
「大丈夫じゃ。軒猿が世話してくれる。安心して励んでくれ。」
「明日は皆の働きでこの戦も終わる。もうひと踏ん張りお頼み申す。」
そう言って城へ戻る景虎は明日の勝利を確信するのだった。
次の日の早朝、物見の報告を聞いた景虎は予定通り、各地の配置が完了したのを確認し号令をかけた。
「頃合いや良し。皆の者かかれ!!」
遡ること半刻前、本日も曲輪を攻める予定の長尾勢では
「長尾殿、昨日は上手くいきましたなぁ」
副将を務める田川は言った。
「いかにも、この調子では今日にも攻略出来よう。黒田殿には申し訳ないが、此度の勝利は我らにてあげさせて貰おう」
「黒田殿より、油断なきようにとお話があったとか?」
「ははは、黒田殿は心配性よ。昨晩も夜襲の警戒もしておったがなにもなかったわ。今頃城内にて、逃げる準備でもしておるのではないか?ははは」
戦場にて大将の気概は兵卒にも伝わるもの、長尾勢は主将がこのような状態なのでどことなく、緊張感がない雰囲気が漂っていた。
同じ頃、黒田勢は準備に余念はないが、此度の戦は今日にも終わり、次の手をどうするか検討し始めていた。
そんな折…
「伝令です!!」
黒田勢の副将を務める織部が血相を変えてやってきた
「長尾勢、壊滅。裏崩れを起こし、こちらへ逃走中とのこと」
まさに寝耳に水
想像していなかった事態に歴戦の黒田秀忠も訳がわからなかった
「どういうことだ! 詳しく申せ」
織部は
「報告によれば、まさにこれから仕寄を始めようとした矢先、後方より、急襲され、戦陣が乱れているところ、別働隊にて挟み撃ちにされ、開いていた東側より裏崩れを起こしたとのこと」
(しまった。勝ちを急ぎ過ぎたか)
そう思った時に、すぐ近くから「やあー」と鬨の声が聞こえてきた。
「何事ぞ」
「北側より敵の旗印多数発見」
「北側?そんなバカな…」
西側からは、逃げてきた長尾勢が我先にと戦陣に飛び込んで来ていた。
そのため、陣形が整わず、乱れているところへ、追撃してきた敵方が突撃をして、すでにパニック状態になっていた。
北側からも敵の鬨の声が聞こえ、多数の旗印が見えたものだから、全軍において完全にパニック状態になり、充分な迎撃体制も出来ないまま、手の施しようがない状態になってしまった。
「殿、ここはもう持ちません。今なら東より逃走できます。一刻も早くお逃げください」
つい先程まで、勝利を確信していたのが、一瞬にして窮地に立たされ、訳がわからないうちに崩されてしまった…
(景虎は化け物か)
黒田秀忠は逃げる馬の背で背筋の凍る思いをしていた。
あちらこちらで敵味方多数の死体が見られる。折れた旗印が、戦闘の激しさを物語っていた。
「会心の勝利でしたな。」
本庄が馬を並走させて話しかけてきた。
「いや、首謀者の黒田も長尾も逃してしまった。もう一手打てれば、壊滅まで持っていけたが…まぁ此度はこれで良しとする」
まだあどけなさが残る顔ではあるが、戦を思い通り操るこの主君を本庄は頼もしく思えた。
「殿、これからが始まりですな」
「おうよ。反乱分子を一掃し、一刻も早く春日山城へ凱旋するぞ。本庄どの、これからも頼む」
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