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第五章 王子殿下がご指名なのに着て行くドレスがございません……って、私はシンデレラですか!?

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 連れて来られた鶏は、全部で五羽だった。それらを小屋へ誘導し、五人の手当てを終えると、ビアンカは彼らに夕飯を振る舞った。豚肉を詰めたパイと、そら豆のスープだ。五人がいつ帰宅してもよいよう、ビアンカは毎晩、夕食を準備していたのである。これにはさすがのエルマも、文句は言わなかった。

「久々の肉、嬉しー! 遠征先では、魚ばっかりだったからさ。文句は言えないんだけど」

 五人は、口々にそう言って喜んでくれた。ビアンカは、そんな彼らに意気揚々と告げた。

「明日からは、朝食に期待してくださいね。たっぷりの卵で、オムレツを作って差し上げます!」

 計十羽もいれば、さぞや卵もふんだんに獲れることだろう。おおお、と歓声が上がる。すると、アントニオがこう言い出した。

「皆、さらに良い知らせがあるぞ。ボネッリ様は、今回の俺らの活躍を、たいそう評価してくださった。ついては、一つ褒美をくださるとのことだ」

 再び、歓声が上がった。

「酒! 酒が欲しい。薄めたのじゃないやつ!」

 必死の形相で、マルチェロが叫ぶ。いや、とジョットはかぶりを振った。ピーコックグリーンの瞳を、らんらんと輝かせて主張する。

「菓子がいい。甘い物を食ったら、元気も出るだろ?」
「ジョットが、甘党なだけだろ!」

 チロが言い返す。

「俺は、揚げ物が食いたいんだよ!」

 飲食系の要望しか挙がらないのが、情けない。一同はヒートアップしていったが、アントニオはそんな彼らを制した。

「待て、待て。皆には悪いが、俺はもう、お願いする内容を決めている」

「何だよ?」

 四人が、身を乗り出す。アントニオは、チラとビアンカを見た。

「パンを焼くのに、ボネッリ邸のかまどを使わせてもらうことだ。前に、エルマに相談していたよな? でも、使用料が高いのだろう。俺は、それを値切らせてもらえないかと考えている」

「いいんですか?」

 ビアンカは、目を輝かせた。ジョットが、がくっと頭を垂れる。

「何だよ。やっぱり、ビアンカちゃん最優先かよ」
「じゃあ聞くが、お前ら、今のパンの量で足りてるのか?」

 うっと、全員がつまる。アントニオは、皆の顔を見回した。

「かまどの使用料金さえ抑えられれば、同じ金額で、市場で買うより断然多くのパンが手に入るだろう。しっかり食っていれば、いざという時に、また活躍できるだろうが?」

「それは、まあ、確かに」

 四人は、ちょっと考えてから頷いた。

「今回、思いきり戦えたしな。朝食を食うようになったおかげかな」
「カッコ良かったですとか、女の子に、初めて言われたもんな」

 次第にその気になってきたらしき四人を、アントニオは満足そうに見ると、ビアンカの方を向き直った。

「ありがとうございます」

 ビアンカは、心から礼を述べていた。残る問題は、ボネッリ伯爵がどれほど値切りに応じてくれるかだ、と思いながら。
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