上 下
76 / 99
第六章 波乱の選挙戦

5

しおりを挟む
 投票日まで、残すところ二週間となった。事前調査の結果では、私は野党国社党の高坂を、大幅にリードしている。油断は禁物だが、このまま行けば当選は確実だろう。亡き父の地盤を取り戻せる、そんな期待に私は胸を膨らませていた。
 その朝、選挙事務所に顔を出すと、私はおやと思った。柘植の姿が、どこにも見えないのだ。いつもなら、真っ先に駆け寄って来るというのに。
「柘植君は?」
 私は、他のスタッフたちに尋ねた。
「そういえば、お見かけしないですね」
「電話してみましょうか」
 その時、スタッフの一人が、血相を変えて飛び込んで来た。週刊誌を手にしている。
「三好先生、大変です! この記事、見てください!」
 突き出された雑誌を見て、私は血の気が引いていくのを感じた。
 『三好カナは、偽装『サレ妻』!? 秘書・T氏が激白』で始まるその記事には、とんでもない内容が綴られていたのだ。『T氏』はこう語っていた。
『柳内俊明前衆議院議員のスキャンダルは、三好氏が仕掛けた罠です。彼女はご自分の好感度アップのために、夫俊明氏を利用されたのです。俊明氏の不倫相手のタレントは、三好氏と旧知の仲。さらに、俊明氏が秘書のH氏を暴行するに至ったのは、H氏が俊明氏のキューチューブの収支を誤魔化したと、誤解されたためです。ですがこれまた、三好氏の策略。私は三好氏本人から、キューチューブの収支報告書を偽造するよう、指示を受けました……』
 おまけに記事内には、『三好カナから、夫を誘惑するよう依頼された』という菊池まりなの証言も載っていた。『俊明氏は現場のホテルで、収支報告書がどうのとわめいていた』というホテルスタッフの目撃情報まで加えられている。
『三好候補は、『サレ妻』が哀れまれることを逆手に取ったのではないか。自ら『サレ妻』となることで、世間の同情を引いた彼女は、希代の悪女と言えよう……』
 記事は、そんな風に締めくくられていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】 嘘と後悔、そして愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,005pt お気に入り:330

婚約破棄された悪役令嬢は今日も幸せです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,705pt お気に入り:16

近くにいたのに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,906pt お気に入り:6

下級巫女、行き遅れたら能力上がって聖女並みになりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:852pt お気に入り:5,691

私の執事の言うことにゃ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:738pt お気に入り:30

処理中です...