Eclipse/月蝕症候群

ひろい

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愛と絶望の果てに

その21

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 そう。
 古河の言葉に、謙一は頷く。確かにほとんどが飲まれてしまったかもしれないが、全員だとは確定されていない。せめて友人の無事は確認したい。同じクラスのやつに、亜希子に――千夏。
「一周だ。校内を回ろう。それぐらいは弾も保つだろうしな。それで救出できるやつは救出して、調べられることは調べて、それを持って警察に駆け込もう。それでいいな、謙一?」
「ああ」
 作戦はまとまり、二人は戦友としての握手を交わした。

 スタート地点は、東校舎の一階からになった。既に見ている場所も多く、全てを見る必要はない。隊列は謙一が先頭で、古河が後衛。ますますRPGじみてきたと思った。本当をいえばパイプを伝って身を隠しながら進みたかったが、それでは様子を見れないし、廊下などには通っていけない。仕方なく、真っ向から歩いていった。
「お前今まで、ずっとこうやって歩いていってたのか?」
 ゾクゾクする。恐怖が這い上がってくる。静かな廊下も、不気味だった。動悸がまた、早くなった。
 しかし後方にいる古河は、悠然とした態度だった。
「いや、さすがにそこまでじゃねぇよ。窓の外を、ザイルを使って伝ってきた」
 そっちの方が凄いと思った。
 1-C前の曲がり角前に、人影が出現した。
「ひぃ……!」
 あれだけ殺しておきながら情けないことに、悲鳴が喉から溢れてしまう。人と話せたことで、真っ当な感情が戻ってしまったらしい。ぎゃあ、という喚き声と共にこちらに突撃――
 ゴン、という硬い音。それと共に人影は、吹き飛んだ。
 振り返ると、古河は既にライフルを抜き構え、銃口からは硝煙が立ち上っていた。
「まぁ、任せとけよ」
 なんつー頼りになる相棒だと思った。
 一階、二階、三階と西校舎を見て回っていったが、どこにも侵食されたもの以外の人間を見つけることは、出来なかった。少しづつ、お互いに声をかける回数は減っていった。やはり誰も生き残っていないんじゃないか? そんな思いにかられるようになっていった。
「さて、次いくか」
 古河が声をかけ、四階に至る階段に足をかける。それに謙一も続く。古河と合流してからここまでに出くわした感染者の数は、47。すべて、殺してはいない。無力化だけさせるよう緻密な計算がなされたガスガンにより、その結果を出せていた。何も殺す必要はない。感染しても、戻せる可能性は――
「……おい、謙一」
 突然古河に、小声で呼びかけられた。ひそめた声に、なんらかの事態を感じ取り、小走りで駆け寄る。
「……どうした? 古河」
「あそこ、見てみろよ」
 階段をあがったところにある柱の陰から、向こう側を覗き込む。その廊下の、中央。そこに――
「亜希子? ……と、」
 目つきの悪くおそろしく長い黒髪を持つ女――が、お下げの女に後ろから、抱きつかれていた。
「あれ、戸波だよな?」
「あ、あぁ……」
 古河の声に、同意する。足首まで届くストレートの黒髪は、ほとんどマントのような様相を呈していた。いくら女子だといっても校則違反だろうとツッコミたくなる。そして細目、っていうかこちらを睥睨しているような瞳。たぶん雰囲気作りで威嚇してるんだろうなぁ、とかいう想像が駆け巡る。
 古河と謙一の共通の友人、折原亜希子(おりはら あきこ)だ。
 その彼女が、クラスメイトで優等生で図書委員の戸波愛(となみ あい)と、一緒にいた。というよりその両腕は前に立っている亜希子の胸でバツの字にクロスされていた。捕まっているのかどうか、判断が難しいところだったが――
「どう思う、古河?」
 同じく柱に隠れる相棒に尋ねる。愛は既に、白目を剥いている。感染しているのは間違いない。ただ亜希子は、元から細い目をさらに細めている。感染しているのかどうか、正直よくわからない。ていうか瞼開けやがれ。
「……わかんねぇ。ていうか、アイツわざと目閉じてるんじゃねぇ?」
 それはねぇだろうとは言い辛かった。アイツなら、やりかねない。っていうかこの危機的状況でここまで心配されないアイツも凄いなと自分たちでやっておきながら感心した。
「どうする?」
「そうだな……」
 と二人で考えていると、
「た~す~け~て~」
 なんて、フザけた棒読み口調の声が、話の焦点から聞こえた。
『…………』
 それに謙一と古河、同時に黙り込む。決定。アイツ、楽しんでやってやがる。だけどこの状況、いったいどうしろっていうんだ?
「よっ、と」
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