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第二章
⑪フローラとヒナシス
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バルガンスとヒナシスが玄関ホールに入って行くとすぐにまた案内人が現れた。
「ようこそいらっしゃいました。バルガンス様、ヒナシス様」
二人は軽く会釈をする。
玄関ホールにはこの三人しかいなかった。
静まり返った玄関ホールに『なんだか場違いのところに来たみたい』と心の中で呟いたヒナシスに向かって案内人が声をかける。
「ささ、こちらへどうぞ、決して場違いなどではございませんから」
案内人が先へ進む。
ポカンとしているヒナシスに声をかけるバルガンス。
「ヒナ、行こう」
「あ、うん」
ヒナシスはじっと案内人の背中を見ていた。
案内人は重厚で大きな扉の前で立ち止まると扉の取っ手を掴みゆっくりと引っ張った。
その瞬間、華やかな音楽が聞こえ、賑やかな喧騒が二人の耳に入って来た。
案内人が二人に手を部屋の方に向けて言葉をかける。
「どうぞお入りください」
明るい広間に入った二人、綺羅びやかな様子に言葉を失う。
深紅の絨毯が床一面に敷き詰められていて大勢の男女がいた。ダンスを踊っている者、お酒を嗜んでいる者、皆、楽しそうにしていた。
そして一番の驚きは天井から吊られている巨大なシャンデリアだった。ロウソクが何百本あるのか、もしかすると千を越えているのかもしれない。
心が落ち着く光だった。
その時二人の目の前に道ができた。
中央で踊っていた人たちが自然に両脇に別れ、ホールの先まで見渡せる道が見え、その先の階段の上にある玉座のような大きな椅子に鎮座するフローラがいた。
呆然と立ちすくむ二人に背中から声がかかる。
「どうぞお進みください」
振り向くと案内人の男が立っていた。
二人は案内人の言葉を受けて前に進むことにした。大勢の視線を感じて緊張する二人。気がつくと音楽はしなくなり、話し声も聞こえなくなっていた。
突き刺さるような視線を感じながら前に進んで行く二人だったが突然どよめきが起こる。
バルガンスとヒナシスはお互いに顔を見合わせて手を強く握り合い、そして前を見るとフローラが椅子から立ち上がり階段を下りて下で二人を待ち受けていた。
フローラの前まで来るとバルガンスは片膝を立てお辞儀をした。ヒナシスもドレスの裾を軽くつまんで腰を落としてお辞儀をした。
そんな二人を優しく見つめ声をかけるフローラ。
「久しいですね、バルガンス、元気でしたか?」
「はい、おかけざまで、幸せに暮らせています」
フローラはヒナシスにも声をかける。
「そなたもよく来てくれました」
ヒナシスが緊張しながら返事をする。
「本日はお招きありがとうございます」
フローラがニヤリと笑って声をかける。
「そなたは二番目であるぞ?」
「は?」
何のことか分からぬヒナシスが聞き返す。
「二番目とは?」
「プロポーズをされた順番です」
一瞬固まるヒナシスだったが、
「あ、あー、夫が子供の頃の話ですか?」と直球で聞き返す。
「まあ、子供であると言えば子供であるが……人間」とここまでフローラが喋ると、バルガンスが割って入る。
「あ、あの……フローラ様、子供の頃の話とはいえ、その時は身分をわきまえず、過ぎたことを申して、申し訳ございませんでした」
そう謝るバルガンスにフローラが口を開く。
「いいえ、嬉しく思いましたよ。そなたの声がまだ耳に残っております」
嫌な予感がするバルガンスが目を瞑り耳をフローラに集中させ祈る。
(頼みますからヒナのいる前で余計なことは言わないでくださいよ、女神様、お願いします)
「バルガンスは小さな手を振ってこう言ったのです」
「女神様ーーー!結婚して下さい!ってね」
バルガンスが恐る恐るヒナシスの顔を見るとニコニコと優しく笑っていた。
「バル、可愛い」
フローラが微笑みながら二人に、
「では二人とも、今夜は楽しんでくださいね」
女神はまた椅子へ戻って行った。
バルガンスがヒナシスに話しかける。
「ねえ、怒ってないの?」
「怒るって、何に怒るの?」
「いや、だからプロポーズのことさ」
「プッ、怒るわけないでしょう?バルの子供時代の話でいちいち」
「あ、そーだよね」
「そうよ、子供のうちはおばさんも若く見えるみたいだし」
その言葉を言ったほんの一瞬、音楽もざわつきも止まったような気がしたヒナシスに、バルガンスが尋ねる。
「ヒナ、どうかした?」
「ううん、なんでもない。ね、バル、何か食べようよ」
「そうだね」
二人はお料理が置かれているテーブルへ向った。
玉座のような椅子に座ってヒナシスを見つめるフローラが呟く。
「あらあら、すぐに老いる人間におばさん扱いされちゃったわ」と……
「ようこそいらっしゃいました。バルガンス様、ヒナシス様」
二人は軽く会釈をする。
玄関ホールにはこの三人しかいなかった。
静まり返った玄関ホールに『なんだか場違いのところに来たみたい』と心の中で呟いたヒナシスに向かって案内人が声をかける。
「ささ、こちらへどうぞ、決して場違いなどではございませんから」
案内人が先へ進む。
ポカンとしているヒナシスに声をかけるバルガンス。
「ヒナ、行こう」
「あ、うん」
ヒナシスはじっと案内人の背中を見ていた。
案内人は重厚で大きな扉の前で立ち止まると扉の取っ手を掴みゆっくりと引っ張った。
その瞬間、華やかな音楽が聞こえ、賑やかな喧騒が二人の耳に入って来た。
案内人が二人に手を部屋の方に向けて言葉をかける。
「どうぞお入りください」
明るい広間に入った二人、綺羅びやかな様子に言葉を失う。
深紅の絨毯が床一面に敷き詰められていて大勢の男女がいた。ダンスを踊っている者、お酒を嗜んでいる者、皆、楽しそうにしていた。
そして一番の驚きは天井から吊られている巨大なシャンデリアだった。ロウソクが何百本あるのか、もしかすると千を越えているのかもしれない。
心が落ち着く光だった。
その時二人の目の前に道ができた。
中央で踊っていた人たちが自然に両脇に別れ、ホールの先まで見渡せる道が見え、その先の階段の上にある玉座のような大きな椅子に鎮座するフローラがいた。
呆然と立ちすくむ二人に背中から声がかかる。
「どうぞお進みください」
振り向くと案内人の男が立っていた。
二人は案内人の言葉を受けて前に進むことにした。大勢の視線を感じて緊張する二人。気がつくと音楽はしなくなり、話し声も聞こえなくなっていた。
突き刺さるような視線を感じながら前に進んで行く二人だったが突然どよめきが起こる。
バルガンスとヒナシスはお互いに顔を見合わせて手を強く握り合い、そして前を見るとフローラが椅子から立ち上がり階段を下りて下で二人を待ち受けていた。
フローラの前まで来るとバルガンスは片膝を立てお辞儀をした。ヒナシスもドレスの裾を軽くつまんで腰を落としてお辞儀をした。
そんな二人を優しく見つめ声をかけるフローラ。
「久しいですね、バルガンス、元気でしたか?」
「はい、おかけざまで、幸せに暮らせています」
フローラはヒナシスにも声をかける。
「そなたもよく来てくれました」
ヒナシスが緊張しながら返事をする。
「本日はお招きありがとうございます」
フローラがニヤリと笑って声をかける。
「そなたは二番目であるぞ?」
「は?」
何のことか分からぬヒナシスが聞き返す。
「二番目とは?」
「プロポーズをされた順番です」
一瞬固まるヒナシスだったが、
「あ、あー、夫が子供の頃の話ですか?」と直球で聞き返す。
「まあ、子供であると言えば子供であるが……人間」とここまでフローラが喋ると、バルガンスが割って入る。
「あ、あの……フローラ様、子供の頃の話とはいえ、その時は身分をわきまえず、過ぎたことを申して、申し訳ございませんでした」
そう謝るバルガンスにフローラが口を開く。
「いいえ、嬉しく思いましたよ。そなたの声がまだ耳に残っております」
嫌な予感がするバルガンスが目を瞑り耳をフローラに集中させ祈る。
(頼みますからヒナのいる前で余計なことは言わないでくださいよ、女神様、お願いします)
「バルガンスは小さな手を振ってこう言ったのです」
「女神様ーーー!結婚して下さい!ってね」
バルガンスが恐る恐るヒナシスの顔を見るとニコニコと優しく笑っていた。
「バル、可愛い」
フローラが微笑みながら二人に、
「では二人とも、今夜は楽しんでくださいね」
女神はまた椅子へ戻って行った。
バルガンスがヒナシスに話しかける。
「ねえ、怒ってないの?」
「怒るって、何に怒るの?」
「いや、だからプロポーズのことさ」
「プッ、怒るわけないでしょう?バルの子供時代の話でいちいち」
「あ、そーだよね」
「そうよ、子供のうちはおばさんも若く見えるみたいだし」
その言葉を言ったほんの一瞬、音楽もざわつきも止まったような気がしたヒナシスに、バルガンスが尋ねる。
「ヒナ、どうかした?」
「ううん、なんでもない。ね、バル、何か食べようよ」
「そうだね」
二人はお料理が置かれているテーブルへ向った。
玉座のような椅子に座ってヒナシスを見つめるフローラが呟く。
「あらあら、すぐに老いる人間におばさん扱いされちゃったわ」と……
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