《完結》仮面夫婦、別人になりすました二人は秘密クラブで出会い、真実を知る

ぜらちん黒糖

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「初恋の人か……」

ホワイトが呟いて言葉を続ける。

「ふふふ、まあ、誰にでも初恋の人はいるし、初恋の人が伴侶になる人もいる。珍しいことでもないのかな……」

フローリアも同意する。

「そうよね……でも初恋の人に嫌われている人間は少ないと思うけど?」

二人は一瞬ハッとする。

まさか相手は妻(夫)ではないだろうなと……互いの仮面の下を想像するがすぐに打ち消す。

(妻は今、実家に戻っているんだ。今頃、荷物をまとめたりして何かと忙しいはず)

(堅物の彼がこんなところにいるはずがないわ。きっと残業でもして塩の数でも数えているんじゃないのかしら?)

二人は同時にクスッと笑った。

フローリアはテーブルのお皿に盛ってあるお菓子の中からチョコレートを一つつまんで口に入れ、話し始める。

「私には、初等部のとき、初恋の人がいたの。いつも私の後ろを歩いていた男の子。ある日、その子が転んでしまって。私にぶつかって、二人で一緒に転んだ。そしたら、その子が鼻血を出してしまって……。周りの子たちは、彼をからかった。私……私は動揺して、何も言わずに彼を置いて逃げてしまった」

​ホワイトは、息をのんだ。

​「その子は、泣いていたわ。私はそれを、道の先の角から見ていた。その日から、彼は私を避けるようになった」

​「そんな……」

「私はその男の子が好きだったの。可愛くてね」

​ホワイトは、絞り出すように言った。

​「その子も、君のことが好きだったんだと思う。だからこそ、君が逃げたことが、辛かったんだ」

​「……そうかしら」

​「ああ。きっと、そうだよ」

​フローリアは、遠くを見るような眼差しをした。

​「その後、大人になった私たちは家の都合で結婚したわ。それから十年間、私たち夫婦は冷え切ったままの関係なの……」

​「なぜ、君は自分の気持ちを彼に話さないんだ?」

​「話しても、信じてもらえないわ。彼は、私を嫌っているから」

​「そんなことは……」

​ホワイトは、言葉に詰まった。

​彼の脳裏に、初等部の記憶が蘇る。

​鼻血を出して、泣いていた自分。

​周りの子にからかわれて、

「鼻血伯爵」「スケベ伯爵」

と呼ばれていた自分。

​そして……何も言わずに、自分を置いて行った、女の子。

​ホワイトは、フローリアを見つめた。

​仮面の下に隠された彼女の素顔は、セレンに違いない。

​「……君は、その……彼と交わったことは……?」

「ないわ。だって夫は私に指一本触れてこないもの」

​ホワイトが口を開く。

​「君の話を聞いていて、私にも、話したいことができた」

​フローリアはゆっくりとホワイトを見た。

​「私も、初等部のとき、初恋の人がいた。ある日、私はいつものように好きな女の子の後ろを歩いていた。だがどんくさい私は躓いて転んでしまったんだ。前を歩いていた女の子を巻き込んでね。私はあろうことか彼女のスカートの中に倒れ込んでしまった。その時に地面で顔をぶつけて、鼻から血が出てしまって……周りにいた子たちに鼻血伯爵ってからかわれてさ……」

​フローリアの顔が真っ青になっていた。

​「ジール……ジールなの?」

​ホワイトは静かに微笑んだ。

「そうだよ、セレン」

一瞬でフローリアの表情が凍りついた。

低く震える小さな声でフローリアが言った。

「最初から気づいていたの?」

「いや、君が初等部の話をしたところで気がついた」

フローリアは顔を真っ赤にしてホワイトを睨むと踵を返して会場を出て行った。

その後ろを仮面を被ったケインがこちらにお辞儀をして追いかけて行った。

バンズが声をかける。

「ジール様、私たちも帰りましょう」

バンズはジールの背中を押して出口へ向かった。





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