《完結》恋愛集、全部ハッピーエンドです。1話完結 (全13話)

ぜらちん黒糖

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②悩み事

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「田中さん、ちょっと来てくれる?」

「なんですか?課長」

「この書類、田中さんだよね?作成したの」

「ええ。午後の営業会議で使う資料ですよね?」

「これ、間違ってるよ」

「そんなはずはありません。あ!私に対する嫌味ですか?29歳はさっさと辞めて寿退社でもすればいいと思ってるんですか?課長!どーなんですか?」

「誤字」

「?」

「ほら、ここ」

可奈子がササッと書類に目を通す。

「あ」

「あ、じゃないよ。29歳だからどうのこうのって、意味の分からんこと言ってないで」

「……すぐにやり直します」

「一応、全部に目を通してくださいね」

「はい。どうもすみませんでした」







社員食堂

「ねえねえ、さっきの田中先輩、見てた?」

「ええ、田中先輩、相当ストレスが溜まってるわねー」

「田中先輩、年齢気にしてたんだね」

「そりゃするでしょ。もうすぐ30になるんだから」

あははははは、と後輩たちの笑い声が聞こえて来る。

隣のテーブルにいた可奈子は、テーブルの仕切りから、後輩たちを睨むように立ち上がった。

「ちよっと、いいかしら?」

急に間仕切りをしてある衝立ついたてから、可奈子の顔が現れて、ひるむ後輩たち。

「あのね、誰でも年は取るのよ?あんたたちだって、いつまでもそのままじゃないんだから」

そう言うと、可奈子は社員食堂を飛び出して行った。







屋上

「いい天気ね」屋上から見える景色を見ながら

「私も来年30か……」

ため息をつく可奈子。

「何で人間って年を取るんだろうねー」

ガタン

「誰かいるの?」

屋上をぐるりと、ゆっくりと、歩く可奈子。

ガタッ

「誰よ、会社の人?」

「違うの?関係者以外立ち入り禁止よ?」

可奈子の目の前に柵を乗り越えようとしている男がいた。

「ちょっとあんたなにやってんの?」

「来ないで下さい」

「行かないわよ。なんで私があんたの所へ行かなきゃいけないのよ?」

「え?それは……」

「あんたいくつよ。年齢。言ってみなさい」

「ぼ、僕は……39です。来年40になります」

「なに来年の話してるのよ。ケンカ売ってんの?」

「え?え?あの、怒ってます?」

「来年私は30なの!」

「若いですねぇー、羨ましいです」 

「あんたシバかれたいの?」

「いえ、すみません。もう来年の話言いません」

「分かればいいのよ。分かれば」

「で?あんた死ぬ所だったんでしょ?止めないから、別の場所でしてくれる?」

「へ?」

「なによ、ここがいいの?」

「……」

「わかったわよ、飛び降りてもいいけど、時間、ずらしてくれない?」

「時間?」

「まだ休憩時間なの、私」

「……」

可奈子は軽い溜め息をついて、

「で?」

「は?」

「は?じゃないわよ。理由を言いなさい。理由」

「理由?」

「飛び降りるにはそれなりの理由があるでしょ。言いなさいよ」

「それは、」

休憩時間の終わる鐘がなった。

「あ戻んなきゃ。あ、あんたお金持ってる?」

「はい」

「じゃあ、今日の夜7時、駅前の居酒屋で合流しましょ。あんた、おごんなさいよ」

「はあ……」

財布の中身を確かめる男。

「それから夜、会ったら自分の事は、俺って言うのよ。分かった?そのほうが男らしいからね」

「はい……分かりました」

「ほれ。言ってみ。俺って」

「お」「あ、ごめん、行くわ。じゃ夜、おごんなさいよ」

可奈子は自殺志願の男を置いて、駆け出して行った。

    





夜、居酒屋

店の奥にあるテーブル席で、運ばれてくる料理を待つ二人。

次々と料理がテーブルの上に運ばれてくる。

男がビールを、どうぞどうぞと可奈子にすすめる。

「あんた、私を酔わせるつもり?変なこと企んでんじゃないでしょうね」

胸元を両手で抑え、睨む可奈子。

「まさか、俺はここを出たら死ぬんですから」

「無敵の人じゃん。かえって怖いんですけど?」

しょんぼりする男を見て、声をかける加奈子。

「それで?理由を言ってみなさい」

男はゆっくり話し始める。

「俺ね、ハゲなんですよ」

そう言うと、被っていたカツラをとった。

ツルッパゲであった。

ビールをぐいっと飲んだ瞬間に、ハゲ頭を見たので、喉につかえ、むせかえる可奈子。

「あんた!私を殺すつもり?」

「ハゲの気持ちなんて、女の人には分かりませんよ。本当に辛いんですから」

「で?次の悩みは?なに?」

「いえ、ハゲだけです」

「はあ?あんた人生舐めてんの?」

ビールを一気飲みし、串焼きを頬張り、

「ハゲがなによ!あんた、ハゲは死なないといけない法律でもあるっていうの?」

黙って聞いている男。

酔いのまわってきた可奈子。

男のハゲ頭を、割り箸で、コンコンとたたきながら、

「私なんか30よ。30。三十路よ。……ハゲなんかよりこっちの方が辛いわ」

「いや、ハゲの方が辛いです」

男も酔いが回って来て、

「三十路なんて、かわいいもんです」

辛いのはどっちなのかと、延々と繰り返す二人。

「三十路よ!」

「ハゲです!」

「三十路!」

「ハゲ!」

完全に出来上がった二人は、見つめ合い、

「あんたよく見るといい男ね。あんた名前は?」

「俺は西本太郎です。貴方の名前は?」

「私は田中可奈子。来年三十路!」

「可奈子さん、貴方も綺麗ですよ。美人だ」

「褒めてるつもり?ははーんだ。当たり前のこと言われて喜ぶ可奈ちゃんじゃないわよ。それより太郎ちゃん。あんたいい艶出てるね、その頭!」

「はい、毎日、化粧水と乳液をぬってますからね」

「そのハゲ頭に?」

「そうですよ」

「ぶっっふぁははっ笑わせないでよ、あー腹がいてー。あー助けてーーー。おまわりさーん!」

二人は飲んで食って飲んで飲んで飲みまくった……







そして、気がつくと加奈子はベッドの上で目が覚めた。

「朝?ここは……ホテル?」

可奈子は慌てて起き上がり、自分の身体を調べた。

「大丈夫だ。何もされてない」

あの男を探す可奈子。

テーブルの上に置き手紙があった。

カナコさんへ
昨日は楽しかった。ハゲで悩んでいた自分がバカらしくなった。貴方も三十路なんて気にするな。

       ハゲ太郎より








この西本太郎と私はその後、会社で出逢い恋に落ち結婚しました。

ハゲ太郎は私の会社に中途入社で入って来ましたが、その時ハゲ太郎の奴、しっかりとカツラを被っていました。


結ばれた相手が運命の人ならきっと私とハゲ太郎は互いに運命の人だったのだろうと思います。





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