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第四章
㉕キャサリン、落ちる
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キャサリンとスロットルは、丘の上の公園でベンチに座り、サンドイッチを広げていた。
眼下に広がる城下の町並みは、穏やかな午後の光に包まれている。
「ここに座っていると、まるで世界が私たちの足元にあるみたいね」
キャサリンは頬を赤らめて言った。
「さようでございますね、キャサリンお嬢様」
スロットルは優しく微笑んでいた。
和やかな空気の中、二人はゆっくりとサンドイッチを口に運ぶ。
スロットルがバスケットからコップに入ったコーヒーを取り出し、蓋を取って差し出した。
「まぁ、コーヒーまで用意してあるの?」
「ええ、どうぞ。コーヒーカップではなくコップですが。もう冷たくはなっておりますが、お茶と思ってお飲みください」
キャサリンはコーヒーを受け取ると一口飲んでみた。コーヒーの香りが口いっぱいに広がる。
「美味しい……冷めていても美味しいのね、コーヒーって」
「ええ、私も良く飲み忘れて、後で気がついて飲むことがあります。公園でサンドイッチのお供には、お茶よりもよろしいかと思いまして」
「ありがとう、スロットル」
その時だった。
「おい、てめぇら、いい身分じゃねえか!」
不意に、泥酔したような男が二人、フラフラと現れた。明らかに町のチンピラ風情で、顔は赤く、酒臭さが漂ってくる。
「こんなとこで女とイチャイチャしやがってよぉ!」
男たちは足元をふらつかせながら、二人に絡み始めた。
「我々はただ、静かに昼食を楽しんでいるだけです」
スロットルは毅然とした態度で応じた。
「あぁ?生意気な口を聞きやがって!」
一人の男がスロットルに詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。スロットルはキャサリンを庇いながら、冷静に応対しようとする。
その隙を突いて、もう一人の男が、背後からキャサリンに襲いかかった。
「キャッ!」
キャサリンが地面に押し倒され、男に組み伏せられている。
「キャサリンお嬢様!」
スロットルは必死で、胸ぐらを掴んでいた男を突き飛ばした。そして、すぐにキャサリンに覆いかぶさる男を引き剥がし、キャサリンをかばうように覆いかぶさり、男たちの殴る蹴るの暴行を、すべてその身で受け始めた。
「ぐっ……お嬢様……大丈夫……ですか……」
スロットルは痛みにもだえながらも、キャサリンに声をかける。
「スロットル!私のために……!」
キャサリンの胸に熱い思いが込み上げてくる。自分を護るために男たちの暴力に必死で耐えている。
拳や蹴りが、鈍い音を立ててスロットルの背中や脇腹にめり込む。その度に、キャサリンの体が震えた。
「くそっ、なんなんだこいつは!しぶとい野郎だぜ!」
男たちは、いくら殴っても倒れないスロットルに苛立ち、次第に息が上がってきた。
「もういい!このくらいで勘弁してやるぜ!」
男たちは息を切らせて、吐き捨てるようにそう言うと、二人とも、根負けしたように立ち去っていった。
男たちが去った後、キャサリンはスロットルを優しく抱き起こした。
「ねぇ、大丈夫?スロットル」
彼の体はぐったりとし、息も荒い。口元からは血が滲んでいる。
「大丈夫です、これぐらい」
「私のために……私のために……」
キャサリンは彼の体を抱きしめ、涙を流した。その涙が、スロットルの頬にこぼれ落ちる。
スロットルは、弱々しく、しかし確かにキャサリンの顔を見上げた。
「キャサリン……お嬢様……」
彼の声はか細く、今にも消え入りそうだった。
「こんな時に言うのもどうかとも思いますが……私は……キャサリンお嬢様を……愛しております」
突然のスロットルからの愛の告白に驚くキャサリン。
「なに言ってるの?……こんな時に……」
しかしキャサリンの心臓は激しく高鳴った。
彼女の心の奥底にあった、熱い思いが純粋な愛情を呼び起こす。
キャサリンは自分の気持ちが抑えられなくなり、自然と言葉が出ていた。
「スロットル……!私もあなたが好きよ!愛してるわ!」
キャサリンは彼を力強く抱き締め、その愛をしっかりと受け止めた。
スロットルは、痛みを堪えながらズボンのポケットから指輪を取り出し、キャサリンの手を取ると、薬指にそっと指輪をはめた。
「私と結婚してください、お嬢様」
キャサリンは返事の代わりに、スロットルの唇を塞ぐようにキスをした。
スロットルがキャサリンを口説き落とした瞬間だった。
❖
二人はめでたく結婚し、夫婦となった。
エバンス伯爵はとても安堵していた。キャサリンも今度は前夫のデビンの時と同じ間違いはしないだろう、そう思っていたのだが……。
夕食を食べている伯爵と娘夫婦を、伯爵がじっと見つめる。
伯爵の目には、新婚旅行から帰ってからの二人の様子がどこかで見た光景に重なって見えた。
キャサリンとデビンのようなピリピリとし空気が漂っていたのだ。
じっと見つめるキャサリン。その視線をこらえるようにモクモクと食事をするスロットル。
心配した伯爵がスロットルに声をかける。
「スロットル、なんだか疲れているようだが……大丈夫なのか?」
「はい?ええ、もちろん体も心も健全です、父上」
「そうか、それならいいが……」
エバンス伯爵にはこの二人の関係が理解できていなかった。
独占欲がぶり返したキャサリン。
『スロットルは私の夫。私以外の女を見ることは許さない』
そんなキャサリンの支配欲にスロットルはさらされていた。
だが、このような妻に恐怖を感じ逃げ出したのが、前夫デビン。
ところがスロットルはキャサリンの自分を独占しようとする支配欲を、我が身への愛情と受け止め、至福の喜びを感じていた。
『ああ……あの冷たい視線が……たまらない』
支配するのが好きな妻、支配されるのが好きな夫。
二人は稀に見る異常な関係の幸せな夫婦になることができた。
眼下に広がる城下の町並みは、穏やかな午後の光に包まれている。
「ここに座っていると、まるで世界が私たちの足元にあるみたいね」
キャサリンは頬を赤らめて言った。
「さようでございますね、キャサリンお嬢様」
スロットルは優しく微笑んでいた。
和やかな空気の中、二人はゆっくりとサンドイッチを口に運ぶ。
スロットルがバスケットからコップに入ったコーヒーを取り出し、蓋を取って差し出した。
「まぁ、コーヒーまで用意してあるの?」
「ええ、どうぞ。コーヒーカップではなくコップですが。もう冷たくはなっておりますが、お茶と思ってお飲みください」
キャサリンはコーヒーを受け取ると一口飲んでみた。コーヒーの香りが口いっぱいに広がる。
「美味しい……冷めていても美味しいのね、コーヒーって」
「ええ、私も良く飲み忘れて、後で気がついて飲むことがあります。公園でサンドイッチのお供には、お茶よりもよろしいかと思いまして」
「ありがとう、スロットル」
その時だった。
「おい、てめぇら、いい身分じゃねえか!」
不意に、泥酔したような男が二人、フラフラと現れた。明らかに町のチンピラ風情で、顔は赤く、酒臭さが漂ってくる。
「こんなとこで女とイチャイチャしやがってよぉ!」
男たちは足元をふらつかせながら、二人に絡み始めた。
「我々はただ、静かに昼食を楽しんでいるだけです」
スロットルは毅然とした態度で応じた。
「あぁ?生意気な口を聞きやがって!」
一人の男がスロットルに詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。スロットルはキャサリンを庇いながら、冷静に応対しようとする。
その隙を突いて、もう一人の男が、背後からキャサリンに襲いかかった。
「キャッ!」
キャサリンが地面に押し倒され、男に組み伏せられている。
「キャサリンお嬢様!」
スロットルは必死で、胸ぐらを掴んでいた男を突き飛ばした。そして、すぐにキャサリンに覆いかぶさる男を引き剥がし、キャサリンをかばうように覆いかぶさり、男たちの殴る蹴るの暴行を、すべてその身で受け始めた。
「ぐっ……お嬢様……大丈夫……ですか……」
スロットルは痛みにもだえながらも、キャサリンに声をかける。
「スロットル!私のために……!」
キャサリンの胸に熱い思いが込み上げてくる。自分を護るために男たちの暴力に必死で耐えている。
拳や蹴りが、鈍い音を立ててスロットルの背中や脇腹にめり込む。その度に、キャサリンの体が震えた。
「くそっ、なんなんだこいつは!しぶとい野郎だぜ!」
男たちは、いくら殴っても倒れないスロットルに苛立ち、次第に息が上がってきた。
「もういい!このくらいで勘弁してやるぜ!」
男たちは息を切らせて、吐き捨てるようにそう言うと、二人とも、根負けしたように立ち去っていった。
男たちが去った後、キャサリンはスロットルを優しく抱き起こした。
「ねぇ、大丈夫?スロットル」
彼の体はぐったりとし、息も荒い。口元からは血が滲んでいる。
「大丈夫です、これぐらい」
「私のために……私のために……」
キャサリンは彼の体を抱きしめ、涙を流した。その涙が、スロットルの頬にこぼれ落ちる。
スロットルは、弱々しく、しかし確かにキャサリンの顔を見上げた。
「キャサリン……お嬢様……」
彼の声はか細く、今にも消え入りそうだった。
「こんな時に言うのもどうかとも思いますが……私は……キャサリンお嬢様を……愛しております」
突然のスロットルからの愛の告白に驚くキャサリン。
「なに言ってるの?……こんな時に……」
しかしキャサリンの心臓は激しく高鳴った。
彼女の心の奥底にあった、熱い思いが純粋な愛情を呼び起こす。
キャサリンは自分の気持ちが抑えられなくなり、自然と言葉が出ていた。
「スロットル……!私もあなたが好きよ!愛してるわ!」
キャサリンは彼を力強く抱き締め、その愛をしっかりと受け止めた。
スロットルは、痛みを堪えながらズボンのポケットから指輪を取り出し、キャサリンの手を取ると、薬指にそっと指輪をはめた。
「私と結婚してください、お嬢様」
キャサリンは返事の代わりに、スロットルの唇を塞ぐようにキスをした。
スロットルがキャサリンを口説き落とした瞬間だった。
❖
二人はめでたく結婚し、夫婦となった。
エバンス伯爵はとても安堵していた。キャサリンも今度は前夫のデビンの時と同じ間違いはしないだろう、そう思っていたのだが……。
夕食を食べている伯爵と娘夫婦を、伯爵がじっと見つめる。
伯爵の目には、新婚旅行から帰ってからの二人の様子がどこかで見た光景に重なって見えた。
キャサリンとデビンのようなピリピリとし空気が漂っていたのだ。
じっと見つめるキャサリン。その視線をこらえるようにモクモクと食事をするスロットル。
心配した伯爵がスロットルに声をかける。
「スロットル、なんだか疲れているようだが……大丈夫なのか?」
「はい?ええ、もちろん体も心も健全です、父上」
「そうか、それならいいが……」
エバンス伯爵にはこの二人の関係が理解できていなかった。
独占欲がぶり返したキャサリン。
『スロットルは私の夫。私以外の女を見ることは許さない』
そんなキャサリンの支配欲にスロットルはさらされていた。
だが、このような妻に恐怖を感じ逃げ出したのが、前夫デビン。
ところがスロットルはキャサリンの自分を独占しようとする支配欲を、我が身への愛情と受け止め、至福の喜びを感じていた。
『ああ……あの冷たい視線が……たまらない』
支配するのが好きな妻、支配されるのが好きな夫。
二人は稀に見る異常な関係の幸せな夫婦になることができた。
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