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第五章
㉗グレイスの弟、アレス
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ウッド伯爵家嫡男のアレス。彼は今、ウッド伯爵家が所有する領地の宿泊施設の視察に向かっていた。
この小さな村、サンバ村へ視察に行くように前夜、父のウッド伯爵に指示された。
ウッド伯爵家は宿泊施設の運営で財政を保っている。領民からの税収だけでは成り立たないからだ。
馬車に揺られて、車窓から流れる風景を見ながら、時々、道行く人の長く垂らした髪の女性を見ると、姉のグレイスを思い出してしまう。
「姉上……」
アレスはシスコンだった。
姉が亡くなってもう七年が経つ。アレスも二十二歳になっていた。
馬車がゆっくりと大きな建物の前で止まった。
すぐに馬車の扉が開けられて宿泊施設の管理者バルが出迎えてくれた。
「アレス様、長旅ご苦労様です」
「久しぶりだな、バル」
「アレス様もお元気そうで何よりです」
アレスが建物の中に入っていくと、全従業員が並んでアレスを出迎えてくれた。少し恥ずかしそうにするアレス。
しかし、その列の中で一人の女性に目が釘付けになる。思わずその女性の前で立ち止まりそうになりかけたが、そのまま通り過ぎた。
支配人室に入るとソファに座らされ、バルが話しかけてきた。
「今お飲み物をご用意いたしますので」
「あ、いや、飲み物はいらない。早速だがすぐに施設の中を見て回りたい。面倒なことは先に終わらせておきたいんだ」
「かしこまりました。それでは今からご案内いたします」
アレスはバルに連れられて、施設の中を見て回った。客室も抜き打ちで視察した。
「うん。清掃も行き届いている。ランプの油も補充されているし、ロウソクも短くない」
そして、洗面所の鏡、部屋の窓ガラスをチェックした後、テーブルに置かれているグラスを持っていたハンカチでつまみ上げ凝視する。
「うん、グラスもしっかりと洗ってあるようだな」
その後、厨房、従業員休憩室、などを見て回りそのまま支配人室へ戻ってきた二人。
休む間もなくバルに話しかける。
「あぁ、それで早速だが、帳簿を見せてくれるか、バル」
「はっ」バルは用意してあった帳簿をすぐにテーブルの上に置いた。
アレスが帳簿に手を置いた時、ドアが開いて一人の女性がコーヒーを持って現れた。
「アレス様、どうぞお飲みくださいませ」
「あぁ、ありがとう」
かすかに香るフローラルの匂い。アレスが女性の顔を見ると、到着時に列に並んでいたあの女性だった。
女性は静かにアレスの目の前にコーヒーを置いて立ち去ろうとした。
その時、アレスは自然に声をかけていた。
「君、名前は?」
「私の名前はマーガレットです」
「マーガレット…」
「では失礼いたします」
「あ、ああ」
マーガレットは扉を閉める前に一礼して立ち去った。扉をじっと見つめるアレスにバルが声をかける。
「アレス様、帳簿の確認は後にされて、まずは長旅の疲れをお取りになられた方が、よろしいのではないでしょうか?」
「いや、帳簿の確認と、その数字が金庫のお金と合致するか確かめるのが先だ」
支配人のバルは呆れたような顔をしてアレスに問いかけた。
「アレス様の視察は日帰りだと聞いておりますが、いかがでしょうか?一泊、いえ、二泊か三泊されるのも、たまにはよろしいのでは?」
アレスは帳簿をめくり、数字を確認しながら返事をした。
「父上には今日戻ると伝えてある」
バルは帳簿を見つめたままのアレスに話しかけた。
「アレス様がお泊まりの場合は、マーガレットにお世話をさせようと思っていたのですが……残念です」
その言葉にアレスは動揺する。施設を見て回り帳簿を確認して、それで終わりにするつもりでいたアレスだったが……。
(彼女が世話係だと?)
アレスはマーガレットが持ってきたコーヒーを一口飲んで、気を鎮める。
バルがアレスに尋ねた。
「いかがされます?日帰りでお戻りになられますか?それとも一泊か二泊してお帰りになられますか?」
アレスはしばらく考えて、ゆっくりと返事をした。
「うーん、そうだな、泊まって、行こう……かな」
誘惑に負けたアレス。
アレスの返事を聞いた瞬間、バルの口元に笑みが浮かんでいた。
この小さな村、サンバ村へ視察に行くように前夜、父のウッド伯爵に指示された。
ウッド伯爵家は宿泊施設の運営で財政を保っている。領民からの税収だけでは成り立たないからだ。
馬車に揺られて、車窓から流れる風景を見ながら、時々、道行く人の長く垂らした髪の女性を見ると、姉のグレイスを思い出してしまう。
「姉上……」
アレスはシスコンだった。
姉が亡くなってもう七年が経つ。アレスも二十二歳になっていた。
馬車がゆっくりと大きな建物の前で止まった。
すぐに馬車の扉が開けられて宿泊施設の管理者バルが出迎えてくれた。
「アレス様、長旅ご苦労様です」
「久しぶりだな、バル」
「アレス様もお元気そうで何よりです」
アレスが建物の中に入っていくと、全従業員が並んでアレスを出迎えてくれた。少し恥ずかしそうにするアレス。
しかし、その列の中で一人の女性に目が釘付けになる。思わずその女性の前で立ち止まりそうになりかけたが、そのまま通り過ぎた。
支配人室に入るとソファに座らされ、バルが話しかけてきた。
「今お飲み物をご用意いたしますので」
「あ、いや、飲み物はいらない。早速だがすぐに施設の中を見て回りたい。面倒なことは先に終わらせておきたいんだ」
「かしこまりました。それでは今からご案内いたします」
アレスはバルに連れられて、施設の中を見て回った。客室も抜き打ちで視察した。
「うん。清掃も行き届いている。ランプの油も補充されているし、ロウソクも短くない」
そして、洗面所の鏡、部屋の窓ガラスをチェックした後、テーブルに置かれているグラスを持っていたハンカチでつまみ上げ凝視する。
「うん、グラスもしっかりと洗ってあるようだな」
その後、厨房、従業員休憩室、などを見て回りそのまま支配人室へ戻ってきた二人。
休む間もなくバルに話しかける。
「あぁ、それで早速だが、帳簿を見せてくれるか、バル」
「はっ」バルは用意してあった帳簿をすぐにテーブルの上に置いた。
アレスが帳簿に手を置いた時、ドアが開いて一人の女性がコーヒーを持って現れた。
「アレス様、どうぞお飲みくださいませ」
「あぁ、ありがとう」
かすかに香るフローラルの匂い。アレスが女性の顔を見ると、到着時に列に並んでいたあの女性だった。
女性は静かにアレスの目の前にコーヒーを置いて立ち去ろうとした。
その時、アレスは自然に声をかけていた。
「君、名前は?」
「私の名前はマーガレットです」
「マーガレット…」
「では失礼いたします」
「あ、ああ」
マーガレットは扉を閉める前に一礼して立ち去った。扉をじっと見つめるアレスにバルが声をかける。
「アレス様、帳簿の確認は後にされて、まずは長旅の疲れをお取りになられた方が、よろしいのではないでしょうか?」
「いや、帳簿の確認と、その数字が金庫のお金と合致するか確かめるのが先だ」
支配人のバルは呆れたような顔をしてアレスに問いかけた。
「アレス様の視察は日帰りだと聞いておりますが、いかがでしょうか?一泊、いえ、二泊か三泊されるのも、たまにはよろしいのでは?」
アレスは帳簿をめくり、数字を確認しながら返事をした。
「父上には今日戻ると伝えてある」
バルは帳簿を見つめたままのアレスに話しかけた。
「アレス様がお泊まりの場合は、マーガレットにお世話をさせようと思っていたのですが……残念です」
その言葉にアレスは動揺する。施設を見て回り帳簿を確認して、それで終わりにするつもりでいたアレスだったが……。
(彼女が世話係だと?)
アレスはマーガレットが持ってきたコーヒーを一口飲んで、気を鎮める。
バルがアレスに尋ねた。
「いかがされます?日帰りでお戻りになられますか?それとも一泊か二泊してお帰りになられますか?」
アレスはしばらく考えて、ゆっくりと返事をした。
「うーん、そうだな、泊まって、行こう……かな」
誘惑に負けたアレス。
アレスの返事を聞いた瞬間、バルの口元に笑みが浮かんでいた。
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