《完結》伯爵令嬢は怨霊になり、復讐を果たす。ーーしかし彼女を裏切った男は、怨霊よりも恐ろしい妻に出会う。

ぜらちん黒糖

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第五章

㉙忍び寄る恐怖

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朝、目覚めるとベッドの隣にはマーガレットはいなかった。

ガウンを羽織り、洗面所に向かい鏡に映る自分の顔を見た。

「ふふふ…、自分で言うのもなんだが、とても満足そうな顔をしている」

シャワーを浴びようとガウンを脱いだその瞬間、目が鏡に釘付けになる。

「!、なんだこれは!」

鏡に映る自分の姿に驚愕するアレス。首筋から胸、お腹へとおびただしいキスマークがついていた。

「え?」アレスにはマーガレットから体に愛撫もキスもされた記憶は無かった。

そして、ゆっくりと背中を鏡に映してみる。

背中一面にキスマークがついていた。

「これは……」

しかし視線を背中から腰、お尻、太もも、ふくらはぎへと移しいく。

体中の全てにキスマークがついていた。

(あの大人しそうなマーガレットが、これをしたのか?)

言いしれぬ不安がアレスの胸をよぎる。

「これは……やばいかもしれない……」

(私が眠っている間に……)

マーガレットの仕業に落ち込みながら、とりあえず、シャワーを浴びようと浴槽のドアを開けた。

「ひっ!」思わず悲鳴を上げるアレス。

浴槽に、水面から首を出して湯船に浸かるマーガレットがいた。長い黒髪を浴槽いっぱいに浮かせてアレスを見て微笑んでいた。

「おはようございます。アレス様……」

「マ、マーガレット……い、いたのか」

マーガレットが浴槽から立ち上がると、濡れた黒い髪が体にまとわりついている。

「では私は 着替えたらこのまま仕事に行きます」

「あ……」

言いしれぬ不安で身が固まるアレス。マーガレットはアレスのそばを通り過ぎて、入れ替わるようにお風呂場から出て行った。

浴槽にはマーガレットの長い髪がいくつも浮かんでいた。

(う、き、気持ち悪い…)

(マーガレットとは、縁を切った方がいいかも……。いや、絶対に、縁を切った方がいい……。この宿泊施設の視察は、昨日で終わっている。シャワーを浴びたらすぐに帰る支度をしてここを出よう……)
  
シャワーを済ませ、アレスが浴室から出ると、もう部屋にはマーガレットはいなかった。





帰り支度をして、アレスが支配人室を訪ねると、その姿を見るなり管理者のバルが意外そうな顔をした。

「アレス様、その格好は……」
「バル、すまないが用事を思い出したので帰ることにした」
「そうですか、ところでアレス様、昨夜はいかがでございましたか?」

「昨夜?……余計な気を回しおって……お前のことは気に入っていたが、本当に余計なことをしてくれた」

心配気な表情でバルが問いかける。
「マーガレットが何かご迷惑をおかけしたのでしょうか?」

「すまないが、もう彼女の話はしないでくれ」
「あ、あの…」

戸惑うバルに、アレスは馬車を玄関前に呼ぶように命令した。

「かしこまりました、アレス様」と言ってバルは支配人室を出て行った。

しばらくしてバルが馬車の用意ができたと呼びに来た。

玄関前に行くと、また全従業員がアレスを見送りに出ていた。

視線を全従業員に巡らす。だがマーガレットの姿は見えなかった。
 
安堵して馬車の扉を開ける瞬間、中にマーガレットがいるのではと想像して躊躇したが、覚悟を決めて、思い切って扉を開けた。

中には誰もいず、ほっとしたアレス。振り返ってバルに挨拶をする。

「ではバル、これからもこの宿泊施設の維持管理を頼んだぞ」

「はっ、ではアレス様もお気をつけてお帰りください」

アレスが乗り込むと、馬車はゆっくりと走り出した。

バルが御者に向かって声をかける。

「アレス様を頼んだぞ」

フードを深く被った御者は、軽く右手を上げて応じた。

馬車の中で昨夜のことを思い返すアレス。

(マーガレットとは夢のような一夜だったが……それは幻だったようだ…)

馬車の側面にかごが取り付けてあり、中にはチョコレートなどのお菓子が入っていた。

無造作にチョコレートを一つ手に取り口に入れたアレス。

「ん?美味しいなこれ……」

その後も何個か続けて口に入れた。

体を揺られながら、車窓から見える景色を見ていると徐々にまぶたが重くなってきた。

「ちょっと…寝不足かな……」

御者はフードを外すと、長い黒髪をなびかせながら、馬車を走らせた。

マーガレットが笑みを浮かべながら馬車を操っていた……。















    
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