《完結》伯爵令嬢は怨霊になり、復讐を果たす。ーーしかし彼女を裏切った男は、怨霊よりも恐ろしい妻に出会う。

ぜらちん黒糖

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第五章

㉛伯爵と対面するマーガレット

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ウッド伯爵家の執務室で仕事をしている伯爵が、執事のサンバルに声をかけた。

「アレスはまだ戻って来ないのか?」
「はい、まだお戻りではございません」

「全く気ままな奴だ」と苦笑いしながら呟いた。

その時、表門の方が騒がしくなった。サンバルがすぐに窓をのぞく。

「旦那様、アレス様がお戻りになられたようです」

馬車が敷地に入って来ると、真っ直ぐに玄関の前で止まった。

「サンバル、コーヒーの用意を頼む」

「かしこまりました」

執事は部屋を出ていくと、途中でアレスと出会った。

「アレス様、お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま。父上は?」
「執務室におられます」

そしてサンバルが、通り過ぎようとしたアレスに声をかける。
「あの、アレス様、こちらの方はどなたでしょうか?」

アレスの後ろを歩いていたマーガレットを見て尋ねた。
「彼女は……バルの部下だ」

サンバルがマーガレットに挨拶をした。
「執事のサンバルです」
「マーガレットでございます」

アレスとマーガレットは執務室へと歩いて行った。サンバルは何かが引っかかり、マーガレットの背中を見つめていた。

(バルの部下が一体なぜここに……)そう呟いてコーヒーの用意をしに向かった。

ノックとともに扉が開いてアレスとマーガレットが入ってきた。伯爵の目がマーガレットに移る。

「父上、ただいま戻りました」
「ああ、ご苦労、まあ座ってくれ」にこやかに声をかける伯爵に返事をするアレス。
「はい」

伯爵がマーガレットに話しかける。
「お嬢さん、君はどなたかな?」
「申し遅れました。私はマーガレット・スクーバルと申します。バル支配人の部下です」

「バルの部下?」
じっとマーガレットを見つめる伯爵。
亡くなった娘のグレイスと重なって見えた。

「それで、バルの部下が同伴しているということは、サンバ村の宿泊施設で何か不都合なことでも起こったのか?」

「いいえ、父上。視察の結果は何の問題もありませんでした」
「ではなぜバルの部下がここにいるんだ?」

「それはですね……」
アレスが話そうとしたのを横に座っていたマーガレットが、アレスの膝に手を置いて制する。

「ウッド伯爵様、私とアレス様は互いに一目惚れをし、結婚する約束を交わしました」

アレスが続けて話し出す。

「そうなんです、父上。もう彼女とは離れられません。どうか婚姻の許可をお願いいたします」

そしてそこへ執事のサンバルがコーヒーを持って入ってきた。

テーブルに三つコーヒーを並べた後、当然のように伯爵の後ろに立った。

伯爵はゆっくりとコーヒーを飲むと二人に声をかけた。

「お前は今年で22歳になるのか?」
「はい、そうです」
「ではお嬢さん、君はいくつになるのかな?」
「私は24歳でございます」
「ふむ、年上か……」
ほんの少し焦りの表情を見せるアレス。
「父上、年の差は関係ありません。2歳の差などないようなものです」

だが伯爵ははっきりと告げた。
「お前たちの結婚はすぐには許可できん」
「なぜですか、父上!」

隣に座っていたマーガレットの目がほんの少し細まり、伯爵の言葉に不服の意思が見えたのを、執事のサンバルは見逃さなかった。

「アレス、お前には良縁を探しているところなんだ。まとまりそうな話もある」

伯爵が諭すようにアレスに声をかける。 

「アレスよ、結婚するということは生涯共に暮らしていくということだ。そんな大切なことを、ほんの一日か二日仲良くなったぐらいで決めることではない」

伯爵はサンバ村の宿泊施設は管理者のバル以外は、全て平民なのを思い出す。

さらに言葉を続ける伯爵。
「それに、平民が貴族と結婚するには、まずはどこかの貴族の養子になり、そこから嫁ぐのが普通だ。その養子先を探すのも大変なんだぞ?まぁ、側室になるのなら関係ないが……」

「しかし父上、私の妻には彼女しか考えられません」

「それならなおのこと、焦る必要もないだろう?お嬢さん、いつまでここに滞在するつもりなんだ?」

名前を呼ばれなかったことに、心の中で悔しがるマーガレットだったが、にっこりと笑みを浮かべ返事をした。

「特に決めてはおりません」

「そうか、まぁ、せっかく来たんだからゆっくりして行きなさい。ただし、長居は無用だ」

「父上!」と言い返そうとしたアレスをマーガレットが止めた。

「アレス様、私は二、三日したら村に戻ります」

「しかし……」アレスがマーガレットの目を見た瞬間、素直に引き下がった。

「あ、ああ、それなら仕方がないな。……あの父上、もう私たちは部屋で休憩してもよろしいでしょうか?」

「あぁ、構わんよ、だが、部屋は別々だぞ?分かってるな?」

「……はい、父上」

二人は挨拶をして部屋を出て行った。

しばらく沈黙が続いたのち、伯爵がサンバルに声をかけた。

「どう思う?あの二人。お前はあの二人が結婚することに賛成か?」

「将来の伯爵夫人になるお方かもしれないので、あまり言いたくはないのですが……」

「なんだ?何か気になることでもあるのか?」

「はい。では言わせてもらいます」
サンバルは冷ややかな表情で思っていることを言った。

「あの娘はソファに座っていましたが、旦那様かアレス様が座るように指示をされたのですか?」

「……いや」

「使用人ならアレス様の隣か、後ろに立つべきです。あれではもう自分が妻になれると思い込んでいるようでございます。お顔はグレイスお嬢様と似ておりますが、性格はかなり図太いと思います」

伯爵が嬉しそうにサンバルの顔を見た。

「私と同じ意見だ、サンバル」

そしてサンバルがもう一言付け加えた。

「婚約期間を飛び越えて、いきなり結婚などありえません、旦那様、そうお思いになりませんか?」

伯爵はゆっくりと頷いてつぶやいた。
「ただ、一つ心配なのはあの二人、すでに深い関係になっているな、あれは…」

サンバルが伯爵に尋ねた。
「ですが旦那様、あの二人には何か違和感があるのですが……」

「違和感?」

「はい。すぐに結婚したいほど愛し合っているようには見えないのです」

「確かにそうだな。マーガレットは互いに一目惚れをしたと言っていたが、そんな熱情は微塵も感じられなかった……」

サンバルが口を開いた。
「まるで、捕食する側と、捕食される側の、関係のようにも見えました」

伯爵が苦笑いしながら言った。「捕食する側が『マーガレット』で、捕食される側が 『アレス』だな」

サンバルが返事をした。 
「まさにその通りでございます、 旦那様」











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